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紅い忘れ物

部屋を掃除している時、棚の上から何かがコロコロと転がった。見覚えがある。君がよく使ってた赤い口紅。僕の家に忘れていったもの。次来た時に返そうと思ってここに置いていたんだ。結局返せなかったなあ。そもそもなんでこんなところに置いたんだっけ。覚えてないな。あれ、これ、いつ忘れていったんだっけ。覚えてないな。あれ、最後に会ったの何月何日だっけ。別れてもうどれだけ経つんだっけ。僕らどんな話で盛り上がってたっけ。君はどんな風に笑うんだっけ。はっきりと思い出せない。

忘れたくないのに。忘れなきゃいけないけど、今はまだ僕の大事な血肉の一部だから。忘れたくないのに。綺麗な思い出よりも、君の泣きながら笑うあの最後の顔だけが、瞼の裏に焼き付いている。目を閉じるたび、君にあんな顔をさせた自分の心臓をカッターでズタズタに切りたくなる。


ああ、君が置いていった口紅を塗ってみても、君の味も感触も思い出せないよ。



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