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ぴぴぷる
2018年11月22日 01:13
古びた木製の扉を開けると、暗い店内の奥にカウンターがあるのが分かった。ひとつだけ置かれた蝋燭の小さな炎が、やけに明るく見える。「いらっしゃいませ」何時の間にかその隣に老齢の店員が立っていた。先程までは居なかったように思えるが、さだかではない。男は足早に中へ進むと、背の高い椅子にどかりと掛けた。「記憶を売ってるってのは本当か」店員はグラスを拭きながら「はい」と一言返事をした。すると
2018年11月9日 03:15
私がその人を自分のおじいちゃんだと認識する頃には、もう彼の髪の毛は真っ白だった。それは一切のくすみが抜けきった、たんぽぽの綿毛のような髪の色だった。厳しい人だったとおもう。毎朝、鏡の前でしっかりとその白髪を後ろに流し整えていた。洋服はいつもスラックスとシャツ。綺麗でかっこよくて、私はおじいちゃんと一緒にさんぽをするのがなんだか自慢だった。でも、母とは折り合いが悪くて、たまにおじいちゃんの家
2018年11月4日 12:20
「最後にさわったの親父なんだから、ゲーム片付けなよ」俺がそう言うと、親父は大きく目を開いて、手元にあったリンゴを投げつけてきた。それは咄嗟によけた体を横切って、後ろのテレビにぶつかった。画面にはひびが入ってしまっている。血が冷たくなるのを感じながら、それでも萎縮した顔など見せまいと、平然とした風でリンゴを片付ける。肌ざわりの悪い静寂。親父の怒りや戸惑いが、空気を黙らしているようだ。リン