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綿毛のこども

私がその人を自分のおじいちゃんだと認識する頃には、もう彼の髪の毛は真っ白だった。
それは一切のくすみが抜けきった、たんぽぽの綿毛のような髪の色だった。

厳しい人だったとおもう。毎朝、鏡の前でしっかりとその白髪を後ろに流し整えていた。洋服はいつもスラックスとシャツ。綺麗でかっこよくて、私はおじいちゃんと一緒にさんぽをするのがなんだか自慢だった。
でも、母とは折り合いが悪くて、たまにおじいちゃんの家に行くと、よく口論になっていたのを覚えている。泊まる予定が日帰りに変わることもあった。

そんな彼も、孫は可愛かったのだろう。私には甘く優しく接していてくれていた。子供らしい失敗をしても、叱られたような覚えはあまりない。ただその度に、「お母さんのようになっちゃいけないよ」と少し悲しい顔で言われた。

あの頃、彼の言うことはよくわからなかったけど、おじいちゃんがなんで母を怒るのかはなんとなくわかった。それはきっと、私が母を嫌におもう部分と重なっていたのだとおもう。

母はよく私を叱った。でも、説得力がなくて、子供心に不満をかかえていた。大抵が彼女もできていないことだったから。
綺麗に片付けろと言われても、うちはいつもカチャカチャだったし。女の子らしくしなさいと言われても、母はいつもボサボサの髪の毛だったし。勉強しなさいと言われても、あんたもテレビばっか見てるじゃんという感じだった。

私はおじいちゃんのことが好きだったけど、最後まで「おじぃちゃん大好き」と言って抱きつくようなことはなかった。
彼が私に優しいのは、「子供だから」だと思っていたから。いずれ私にもあの厳しさが向けられる気がして、心のどこかで距離をとっていた。

でも、そんなこと気にせずに、甘えてしまえばよかったな。

おじいちゃんが死んで、何年もたつ。
墓には参りにくるたび花が添えられている。

母はいつも丁寧に墓を磨く。
その後ろ姿にも、随分白髪が増えてきた。染める気はなさそうにみえる。
いつか、彼女も綿毛になるのだろうか。

「お母さん、髪の毛綺麗になってきたね」

おかしいかもしれないけどそう感じて、言葉が出た。

母は手を止めて振り返ると、「私もそう思うわ」と言って笑った。





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