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三島由紀夫 | 小説読本(中央公論新社)


はじめに


 最近、まともな物語がまったく書けない。「いや~あんたは前からまともな作品なんて書いてないじゃないか」と言われればグウの音も出ないのだが、少なくとも自分で納得のいくものが書けていないという意味でスランプ状態である。

 それなりに多くの小説らしきものはたくさん書いてきたが、長編小説と呼べるようなものは皆無であり、思い付いたことを、ただ何の構想も練ることなく、書き連ねてきただけに過ぎない。

 たかだか二万字弱の作品をでさえ、前に書いたことと矛盾してはいないかと読み返しながら確認せずにはいられないほど、何も考えずに駄文を連ねるばかりであった。

 今までは、書き方のノウハウ本を読むことはなかった。というのは、ノウハウ本を読むよりも、小説そのものを多く読むほうが有益であると考えていたからだ。

 しかし、どんなことにもコツがあるはずであり、最近、文章の書き方について書かれた本を何冊か読んでいる。


清水幾太郎日本語の技術」(中公文庫)


筒井康隆「創作の極意と掟」


 今回は、三島由紀夫(著)「小説読本」(中央公論新社)を読んだ。
 そんなに突飛なことが書いてあるとは思わない。というのも、「そう!、それは私も言いたかったことだ!」と思う箇所が多かったからだ。ただ、私にはそれを言語化できる語彙も表現力もないだけで。
 印象に残った三島の言葉を以下に引用しておく。


三島由紀夫「小説読本」(中央公論新社)より。


三島、前掲書、pp.7-8。

 なぜ自分が作家にならざるを得ないかをためしてみる最もよい方法は、作品以外のいろいろの実生活の分野で活動し、その結果どの活動分野でも自分がそこに合わないという事がはっきりしてから作家になっておそくはない。
 一面からいえば、いかに実生活の分野でたたかれきたえられてどうしてもよごれる事のできないある一つの宝物、それが作家の本能、つまり詩人の本能とよばれるものである。


🙄
 「小説家になりたい!」ではなく、「小説家にならざるを得ない」というハッキリとした自覚が持てないと、小説家にはなれない、ということなのだろう。どんなところに行っても、変わることのない違和感をずっと持ち続けざるを得ない人。そして自分の変われない・変わらない思いを「宝物」だと思える人。たぶん、そういう人が作家としての資質を持っているのだろう。


三島、前掲書、pp.106-107

 ドストエフスキーの「罪と罰」を引張り出すまでもなく、本来、芸術と犯罪とは甚だ近い類縁にあった。「小説と犯罪とは」と言い直してもよい。小説は多くの犯罪から深い恩顧を受けており、「赤と黒」から「異邦人」にいたるまで、犯罪者に感情移入をしていない名作の数は却って少ないくらいである。

 それが現実の犯罪にぶつかると、うっかり犯人に同情しては世間の指弾を浴びるのではないか、という思惑が働らくようでは、もはや小説家の資格はないと云ってよいが、そういう思惑の上に立ちつつ、世間の金科玉条のヒューニズムの隠れ蓑に身を隠してものを言うのは、さらにいっそう卑怯な態度と云わねばならない。そのくらいなら警察の権道的発言に同調したほうがまだしもましである。

(⚠️強調箇所は私によるもの)


🙄比較的記憶に新しいところでは、例えば、元首相暗殺事件。

 あの事件が起こったときに、「たとえどんなことがあっても、断固テロリズムは許せない!」としか、人前で語れない人は、作家には向いていないということだろう。
 オウムによる地下鉄サリン事件の「無差別テロは許せない!」とか「なんであんな高学歴の人が殺人なんてできたのだろう」とか、それ以外の言葉を発することができない人は作家には到底向いていない。

 こういうテロ事件が起こったときに、犯人の視点から物事をとらえることができ、犯人に心を寄せて、それをおおやけに発表できる人でないと、作家なんてつとまらない。

 私は「小説は多くの犯罪から深い恩顧を受けている」と、公言するほど心臓が強くない。せいぜい頭の中にとどめておくのが関の山だ。

 三島のように、きちんと文章にして出版できるのは、やはり一流の作家だなと思う。noteでは今のところ、三島以上の作家には一度も出会ったことがない。うさんくさいヒューマニズムをかざし、誰も傷つけないような「心温まる作品」は、一瞬いいなとは思うけど、何も心にとどまり続けることはない。

 私には、三島のような文才も度胸もないから小説家には間違ってもなれないのだが、三島的な小説をnoteには書きたいと願う。



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