見出し画像

革屋と本屋のヨシナシゴト往復書簡012

「好き」もなかなか選びきれない/選択のシュミレーションを物語の中で/読書によって現実の立ち位置を観測/『継ぐ本』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

新井さん
こんにちは
ヨシナシゴトから、だんだん核心に迫ってきた気がします。

「好き」があって、それを認めて、応援してもらう環境って必ずしもみんな享受できる訳ではないですね。
新井さんは「好き」を続けてこれてよかったですね。
私も親には「好き」を今思えば、誘導されたようなところもあるけれど、応援してもらったことは本当にありがたいと、この歳になって思います。

今、子どもさんたちの環境は、情報がたくさん入ってきて、選択肢も一見たくさんあって、いろいろな偏見や妨げも段々なくなってきて「好き」もなかなか選びきれないかもしれないですね。
選択肢が多すぎるのもやっかいなもので。「好き」を選ぶ力、選ぶ力をサポートする(大人の)力が必要ですね。
で、そこは「本」の登場だと思うんです。正しいとか曲がっているとか、きれいとか汚いとか、何が面白くて、何が人を傷つけるとか。
昔の人の言葉とか、物語にいろいろなヒントがあるのだと思います。
大きなツヅラと小さなツヅラのどちらかを選んだりね。自由ですけどね。選択のシュミレーションを物語の中でできるわけですね。
漫画もね、いいと思いますが、本の方が想像の余地がありますからね。
私たちの好きな落語にもいいヒントありますよね‼

河合さんが、ここ何年もずっと読み続けているという『ミドロジアンの心臓』
(読み進んでないのです、睡眠薬なのです)、とのこと!
そういう本ってあるよね。。

さて、ここから革の話です。
普通のメーカーさんが使いたがらない革のマチエルを「命の痕跡」として、一個一個違う商品を面白いと思っていただけるお客様にお届けする、
新井さんのVerminプロジェクトは、製造の革信さんも、革を鞣(なめ)している伊藤社長もびっくりのコンセプトでした。
エゾシカもきちんと美味しいお肉をとった後の鮮度のよい原皮を草加にいただいているので、なるべく全部使いたいと考えるのは皆一緒ですけれど、
お客様に受け入れてもらえるかは心配ですので、普通は使わないのです。
ここは新規参入された新井さんの先入観のなさが活きたのですね。決して皮肉ではなく仕事をしていて面白いのはこういうところです。

「肉と皮革について」とは、ナイスボールです。
バレーボールで言うときれいに決まったスパイクのようです。
実は思うところがとてもあるのです。
私の仕事の核になる部分でもありますので後日改めて。
もしくは別の書簡としてお届けするかもしれません。
今、コートの外に出ていったボールを見つめ立ち尽くす、といった気持ちです。

ではまた。
LEATHER TOWN SOKA Project team
河合 泉 2024 06/17

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

河合さんへ

そうなんですよ、「本」ってすごいものなんですよね。
本を読むことは、別の人生を生きてみること。おおげさな言い方みたいですけど、ほんとうにそうだと思ってます。

曲がってたり正しくないものの中にあっても、それは正しくないとか間違っているという教則だけではない豊かさが物語の中にはあって、それによって読むひとは現実世界で自分が今どこに立っているのか観測できるようになる感じ。
自分は何が面白くて大切で、それだけは絶対に譲れないんだとかを主人公たちへの共感や反感の中に見つけることもある。
読書の経験値が上がれば何がひとを傷つけるとか傷つけることの重さやリスクも生々しいシュミレーションとして読めるようになるし、ムカつくとかウザイとか思考回路の短い言葉を吐き捨てて笑いながら人を傷つけていくという、くだらない人生を送らずにもすみます。

本を読むのって、大変なんですよ。ぼんやり見ているだけでも楽しいものが流れてくるわけではなく、自分の力でページを進めなければならないから。
でもそれが出来るようになると、脳と心に筋力がついてきて、それってこの世を生き抜くための、しなやかな力になると感じています。
本当の意味での大人の役割が「本」を介してできていなければならないですね。
実は『継ぐ本』という、本を子どもたちに丁寧に届けるプロジェクトを以前に考えたのですが、それを「ぼくの事業としてやってみたい」という子が現れまして、楽しみなところなのです。今度彼を河合さんにも紹介しますね。

誰かの人生を変えたような大切な本を
新しく人生を生きるひとに贈るプロジェクトです


ちなみに最近わたしの読んだ本はこちら。

桐野夏生『リアルワールド』疾走し破滅する子どもたちひとりひとりの物語。
レナード・ハント『インディアナ、インディアナ』
自閉的な人物の中に現れる寂しくも美しい幻覚と幻聴と奇跡。
済東鉄腸『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、ルーマニア語の小説家になった話』
言語学、お、も、し、れ、え!!!ってなる狭くて広い本。

さて、鹿革ブックカバーVerminについてですが、『傷という命の痕跡』を受け取ってくれるお客さんが実際にいるかどうかは、販売してみなければわからなかったことなので、信念を抱いて息巻いている自分のとなりに、青い顔で預金通帳を見ながら冷や汗をかいている自分がもうひとりいるという状態のスタートでした。
でも、ほんとうに、そういうひとたちがいたんですよ!!!
この世は捨てたもんじゃないんですよ!!

新規参入先入観のなさって、素人(しろうと)ということで、素人独特の思いつきをタンナーさんや職人さんに投げると驚かれたり困られたりするのですが、職人さんが「いいですよ、新井さんは素人のままで。それを実現するのが職人ですから」と言ってくれたことがあります。革を専門に長く強く事業を続けてこられた草加の地で、しかも革に携わる皆さんの懐が深かったからこそ、素人との化学反応が起こったのかもしれません。

「肉と皮革について」の議題はスマッシュだったのですね。
お話聞けるのお待ちしています。

落語行くのも楽しみです!現地集合でいいですか?

pelekasbook
新井由木子 2024 06/19

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

河合泉
埼玉県草加にある皮革工場『河合産業株式会社』。
家族が営む同社を手伝う傍ら、草加の皮革「SOKA LEATHER」のPRを努めている。落語が好き。
新井由木子
埼玉県草加市の小さな書店ペレカスブックを営みながら、町の工場と力を合わせて『読書のおとも』を作る。酒が好き。落語も好き!!

鹿肉を捌くレザレクション林さん
河合さんとのイベントにて


この記事が参加している募集

#仕事について話そう

110,811件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?