瀬織津姫
昨日の朝、パソコンに向かって作業をしていたら、ネット上の神社の写真が目に入った。
数秒後、行きたいっ、と思った。
二時間後にはその神社にいた。
瀬織津姫という神様が祀られている「瀧神社」へ。
先に、参道の脇道の先にある瀧にお邪魔することにした。
権現様と書かれているので、ご本尊や御神体と言われるものなのかもしれない。
「滝つぼに入ると、天災に見舞われるという言い伝えがあります。村の者たちで大切にしてきた神聖な場所ですので、滝つぼには入らないでください。」
と、注意書きがあった。近づけるわけもない。逆に入るやつがいるのだろうかと思うレベルの注意書きだ。
しばらく、瀧を見上げ、瀧の近くに立ち尽くした。
ふと、2人の女性が話し合っているような声が聞こえた。
ハイキングの人か、参拝客なのかと思った。
しかし、滝には僕一人。
半径200メートル圏内には僕と動物たちしかいない、、、
声をじっくり聴いてみるけれど、瀧音にかき消されてよく聞こえない。
けれども注意深く聴いていて分かった。
それは、瀧の中から声が聞こえているということだった。
変な話に思われるかもしれないけれど、
厳密に言えば瀧に声が入っている。もしくは瀧に声が含まれていると、そう言う風に思った。
その後、本殿への階段を一段一段登っていく。
数えてはないけれど、写真の通り、階段の数は少なくない。いや、むしろ多い部類だと思う。
すべての階段を上り終えても、不思議と疲れはなかった。
本殿の前に立つと、あの香りがした。
ごくたまに香るあの香り。
香木のような、乙女の香りのような、お香のような、なんとも表現しがたい香り。
お寺で線香の香りがするのであればわかるけれど、
神社ではどこにも線香が焚かれていない。
だから何の香りなのかは分からない。
いくつかのほんのわずかの神社で、この香りを嗅ぐことがある。
共通点は、「静か・誰もいない・本殿の傍・自然の中」だった。
その香りを体いっぱいに吸い込む。
参拝をして元来た道を戻る。
下りの苔むした階段で、雨の湿り気で足元が何度も滑る。なんども転びそうになる。
そうだった。と思い出す。
誰かの舗装してくれた歩きやすい道や、雨に濡れない建物や、速く移動できる車が当たり前になっていた。
でも、こっちが本当だった。
ぬかるんだり、滑ったり、転んだり、けがをしたり。
それが本来の生き物の姿だ。
けがをする前には気づかなくても、けがをした後には当たり前が当たり前じゃなかったことに気づく。高校の時に足を骨折して、「なんて生活しにくい世の中の作りなんだ」と思ったことを覚えている。階段の一段が高い。玄関の上がり框が低い。これは、高齢者の方や妊婦さんなんかも感じることなのかもしれない。
いつも普通に出来ているから気づかないけれど、けがをすれば気づかされる。
けがをすることなく石段をすべて下り終えると、あぁ、ありがたいなぁ、と思った。
滑って転びそうにならなければ、この感覚にはならなかったと思う。
一歩一歩自分の体重を自分の足におろし、その体重を石段を通じて土のうえにおろす。これを繰り返して鳥居まで降りてきた。
階段を振り返る。
急ぐことなく、踏み、歩め。雫はいずれ海へ届く。
と言われたような気がした。
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