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たった半年で「町工場向けSaaS」を立ち上げ、内諾100件で法人化するまでの話

去年の夏ごろ、いつものように会議をしていると、元キーエンスのメンバーがこんな話をしてくれました。

「僕、前職の営業でいろんな町工場を回ってたんすけど、図面がめちゃくちゃバラバラに、紙とかPDFで管理されてて。一回探しに行ったら20分、30分も戻ってこないことがけっこうあったんです」

「なんとかできないのかなって、ずっと思ってたんですよね」

そんな言葉から今回の事業はスタートしました。

それから半年ほどでサービスを開発・法人化し、導入社数はすでに200社近く。新規事業としてはかなりのスピードで成長できていると思います。

このnoteでは、僕らの開発した「町工場向けSaaS」が売れるまでの半年間を振り返ってみます。営業やPMなど事業開発に関わる方や、レガシー的な業界で働く方にとって、少しでもお役に立てばうれしいです!

町工場をまわってユーザーヒアリング

町工場向けに、図面の管理が楽になるサービスを作りたい。バラバラに管理されてる図面を、デジタル上で種類ごとに分けて、検索しやすいようにしたらいいんじゃないか?

最初に彼からこのアイデアを聞いたとき、僕は正直なところ半信半疑でした。「それって別にGoogleドライブでよくない? 本当にそんなニーズあるのかな?」と思ったんです。

そこで、まずは実際に町工場へ行ってみることにしました。

アイデアを出してくれた彼と2人でレンタカーを借りて、東京から静岡の工場まで運転して。5件ぐらいの工場にアポを取って、1日かけて回りました。帰る頃にはもうクタクタ。運転席の彼から「俺はキーエンスで『寝ながら運転できる能力』を身につけたんで大丈夫っす!」と言われたときはすごく怖かったです。笑

大変ではあるのですが、実際にお客さん候補のところに行って、業務プロセスを見るのはものすごく大切でした。課題の解像度が上がるからです。

町工場の方とお会いして、僕はやっと彼の言っていることがわかりました。「たしかにGoogleドライブじゃダメなんだな」と。町工場のほとんどの人が、Googleドライブを使えないんです。

Googleドライブって、デジタルに慣れていない人からするとめちゃくちゃ使いづらいんですよね。

ひとつひとつフォルダを開かないと中身が見えないし。現場の人はふだん、図面を視覚的に捉えているので、無機質なフォルダ名にされるとわかりづらいんです。サムネイルがもっと大きいほうがいいし、もっと感覚的に使えるものじゃないと定着しなさそうでした。

だから結局、紙でファイリングするか、すべてのPDFをひとつのフォルダにぶち込むことになっていた。

これは現場を知らないと気づけなかったことでした。

現場にフィットするサービスがなかった

町工場のものづくりは「図面」がすべての起点になっています。

メーカーから注文が入るときには、必ず図面が送られてきます。「これ作れる?」と。で、その図面を見て「いくらぐらいかかるか?」「どうやって作るか?」といったことを考えるわけです。

だから、見積もりや生産指示書などのすべての情報を「図面」に紐づけて整理するのが、現場の人たちにとってはいちばんわかりやすいはずでした。

しかし、いまある製造管理システムだと、そうはなっていなかったんです。時系列で、案件ごとに管理するものしかなかった。受注があったら「①2023年3月30日の仕事」「②2023年4月2日の仕事」……と並んでいく感じです。

これだと、案件起点で考えなきゃいけなくなっちゃうんですよね。現場の仕事は、図面起点で始まるのに。すると町工場の人からしたら「こんな面倒くさいシステム使ってられるか」ってなるんです。そんなにデジタルリテラシーが高いわけでもないので。それで、今までシステム導入が進んでこなかった。

町工場のデジタル化が進まない原因は「システム」と「現場の仕事」がかみ合っていないことだったんですね。

図面を起点にすべての情報を管理するサービス

そこで、僕らは「図面ごと」にデータを整理することにしました。

図面を起点に、すべての関連書類を紐づける。図面には「図面番号」がついているので、注文が入ったらそれで検索して図面を探せば、前回の見積もりなどもすぐに確認できます。

すごくシンプルで当たり前のことなんですが、これができるシステムが今までなかったんです。「図面で検索する」ってことができない管理の仕方をしていた。

図面のキャプションも大きく表示して、感覚的にわかるようなUIにしていきました。

実際の管理画面はこんな感じ

中の人は「不便」に慣れてしまっている

サービスを確実に買ってもらうために「どんな売り方が刺さるのか?」ということも、ヒアリングしながら探っていきました。

「サービスをどんなシーンで使うのか?」「図面が管理できていないと、いつ・誰が・どう困るのか?」といったことを、より解像度高く提案できるようにしていく。プロダクトの価値や、営業のワードを磨き込んでいくんです。

そこまでやらないと、商品はなかなか売れません。

特に今回の場合、最初はみなさん「まあ、そこまで不便じゃないよ」と言ってたんです。図面を紙で管理していても。

でも、ぼくら外の人間から見たら、明らかに不便なんですよね。図面をひとつ探すのに、20分も30分もガサガサやっているので。

課題が顕在化していなかったわけです

現場の人はみんな、不便なことが当たり前になっちゃってて、課題に気づいていなかった。だからこそ、そこを掘り起こして、サービスを導入してもらえるだけの説得力が必要でした。

「売上に直結する課題」を探す

ヒアリングしていくと、町工場の方がいちばん困っているシチュエーションは「昔の見積もりがすぐに見つからなくて、注文への返答が遅れてしまうとき」だとわかりました。

町工場に注文が入るとき、取引先のメーカーや商社から「こういうのお願いします」と図面が送られてきます。「これを作りたいんだけど、いくらぐらいでいつまでにできますか? まずは見積もりを出してください」と。

町工場では、少量多品種でいろいろなものを作っていることが多いです。その場合、過去にも同じような製品の注文を受けて、すでに見積もりを出していることがあるわけです。

その場合、同じ製品の過去の見積もりと、大きく違う値段を出してしまったら大問題ですよね。「前はこの値段だったのに、今回はなんでこうなってるの?」となってしまって、信用がガタっと落ちる可能性がある。

だから、注文が入ったら「前はいくらくらいで見積もりを出したかな……」と、図面の山をガサガサと漁って確認しないといけなかったんです。

それってものすごく面倒くさいですよね。

「見積もりをより早く、正確に、できるだけ安く出す」ことは、売上にも直結します。

基本的に取引先のメーカーは、他の工場と相見積もりをとっています。だから、より早く見積もりが返ってきた方が成約しやすいんです。「図面の管理サービス」は、そういう場面でいちばん必要になるのだとわかりました。

見積もりを見つけやすく、売上に繋がること。

僕らはこれを、サービスの「コアの価値」と定義しました。そのうえでプロダクトや提案をつくっていったんです。

そうすると「図面の管理ができて便利です!」みたいなフワッとした状態じゃなくなります。売りやすく、刺さりやすいコンセプトができるんです。

どの層をコアターゲットにするか?

サービスの大枠が決まったら、ターゲットの絞り込みもしていきます。

一口に「町工場」と言っても、めちゃくちゃたくさんあります。その中のどこをコアターゲットにするのかを、きちんと決めるのが大切です。

僕らの場合、いろいろな工場を回っていくうちに「従業員数1けた〜50人以下」の町工場をコアターゲットにするとよさそうだとわかりました。

従業員が50人を超えると、すでに何かしらの製造管理システムが入っていることが多かったんです。それで図面も管理できていた。逆に、一人でやっている工場だと、そんなに量もないから、管理しなくてもなんとかなっていました。

「製造管理システムがあるなら、みんなそれを使えばいいじゃん」と思うかもしれません。でも、本格的な製造管理システムって、めちゃくちゃ高いんです。なかには数千万円クラスのものもあります。

従業員数1けた〜50人ぐらいの町工場だと、いまある管理システムはコストが合わないんですよね。この層がいちばん困っていた。「そこにフィットするサービスにしていこう」ということになりました。

「売れる価格」の見極めかた

ターゲットがはっきりしてきたら「サービスの価格」も設定していきます。

プライシングって難しいです。できるだけ高く売りたいけど、高すぎると売れない。ターゲットによっては、安すぎても売れなかったりします。

たとえば、お客さんの会社の規模が大きくて、いろいろなステークホルダーを巻き込まないといけない場合は、けっこう大きめの「投資対効果」を示さないといけません。大きいお金を払ってもらって、大きな効果を出せるサービスでないと、導入してもらえない。

しかし今回のターゲットは、中小規模の町工場。なので、社長に「これ便利だし、いいじゃん」と思ってもらえれば導入してもらえます。

そこで、価格は「導入を検討するとき、なにと比較されるか?」を基準に決めました。

町工場の方がサービスの導入を検討するとき、比較するのは「数百万円ほどの装置や設備」です。

そういう大きい設備を買うと、リースを組んで、月5万円ぐらいの支払いになります。工場は月5〜10万円かけて設備を稼働させ、収益を得ているんです。

なので、サービスをリースと同じ価格にしてしまうと「それならもう一個この設備が買えるじゃん」と思われてしまうんですよね。

だから今回は、設備のリースの支払額をギリギリ下回る価格に決めました。

本当は、もう少し価格を上げたかったんです。でも、キーエンスの彼が「これ以上高くすると売れないっす」と言ってくれて。やっぱりずっと現場で売っていた経験があるから、その感覚は研ぎ澄まされていたんだと思います。

まずは「イエス」と言ってもらって、うまく内側に入れてもらうのが大切です。いったん中に入ってしまえば、追加で役に立てそうなことも見つけやすい。サービスが本当に便利なら、後から値段を上げることもわりとしやすいんです。

マーケットの規模をざっくり試算する

本格的に動く前に、マーケットの規模も試算しておきます。

調べてみると、コアターゲットである「従業員数1けた〜50人以下」の町工場は、全国に4〜5万社ありそうでした。ただ、これは結構ざっくりではあります。本当に5万社かどうかはちょっと怪しいです。笑

ここで大切なのは「事業が成り立つだけの売上が見込めるか?」を試算しておくことです。

会社の数を調べるときは「業界研究ドットコム」や、政府が出しているリサーチ結果を参考にしました。ドンピシャのデータは出てこないのですが「なんとなくこのくらいだろう」という数字を出します。

今回の場合、もしすべてのコアターゲットに売り切れたとしたら、年間180億円の売上が見込める計算になりました。

「これならいけそうだ」ということで、本格的に営業と開発をはじめていきました。

気合のテレアポ&ファックス

ここまで決まったら、あとは営業勝負です。

営業のポイントは、サービスの特性によって変わってきます。たとえば、以前僕らが立ち上げた「建材サーチ」というサービスは「高単価で、お客さん候補の数が少ない」モデルでした。だから一社も取りこぼさないように、外堀から慎重に固める営業スタイルをとったんです。

一方で、今回のサービスは「低単価で、お客さん候補がたくさんいる」モデルです。この場合はもう量の勝負なので、気合のテレアポをしまくりました。営業担当2~4人ぐらいで、3か月ほどかけて、300~500アポぐらいとったと思います。

そうして、約100件の内諾をもらえた状態で、法人化しました。

テレアポからセールスまでの一連の流れをブラッシュアップしつつ、プロダクトは3、4か月でがんばって作り切ると決めて、なんとか間に合わせました。

そうして、動き始めてから半年ほどで、すでに売上がみえている状態での法人化に漕ぎつけたのです。

↑完成したサービスがこちら。図面管理SaaSの「ズメーン」です(クリックでサイトに飛びます)

サービスとしての広がりはまだまだある

このサービスは、最低限の機能だけでも180億円ぐらいの市場規模があります。

それだけじゃなく、今後の発展性もかなりあるんです。

お客さん先の町工場が成長して、もっと大きなシステムが必要になれば、機能を拡大してもいいでしょう。

実際、直近3ヶ月以内には「案件の進捗管理」まで、このサービス内でやれるようにシステムを開発しています。「プリンターやFAXに送られてきた図面データを、自動でアップして整理できる機能」も、1年後をめどに実装する予定だったりします。

そうすれば、今回はコアターゲットから外した「50人規模以上」の町工場までリプレイスしにいけます

マッチングの機能をつけるのもおもしろいですよね。「何かを作りたい企業(=メーカー)」と「それを作れる町工場」をつなげてあげる。

町工場のほうが貴重性は高いので、メーカー側には「自分たちの作りたいものを作れる町工場を探したい」というニーズがあります。

ただ、中小規模の町工場は営業力がないので、うまくマッチングしづらい。

いまはそれを、商社があいだに入ることで解決しています。でも、デジタル上にプラットフォームをつくって直接つながれたら、より最適なメーカーと工場がつながれるはず。エラーやトラブルも起きづらくなると思っています。

事業立ち上げを「型化」し、スタートアップを量産する

ここまで読んで「ちょっとトントン拍子すぎない?」と疑問に思った方もいるかもしれません。

なぜこれほどスムーズに事業を立ち上げることができたのか?

それは、僕らが「スタートアップを量産すること」に特化した会社だからです。

僕らはこれまで、建材業界向けSaaSや、AI人材教育事業をすでに立ち上げ・法人化し、軌道に載せてきました。もちろん、うまくいかなかったアイデアもたくさんあります。この2年弱で20ほどの事業に取り組んできました。

その過程をすべて言語化し、最短で売れる事業をつくるための「型」をつくり、ブラッシュアップしてきたのです。

僕らが事業を立ち上げるときは、基本的にこのロードマップに沿って動いています。

ロードマップ通りにいけば、半年で事業を立ち上げ、売上が見えた状態で法人化することができます。細かい数字は事業の条件によっても変わるのですが、大枠の流れは変わりません。

町工場向けSaaSがスピーディに成長できたのも、このノウハウや、経理などのバックグラウンドをサポートできる体制があったおかげでした。

ロードマップとポイントをまとめると、こんな感じです(保存などご自由にどうぞ!)

事業アイデアを提案してくれた元キーエンスのメンバーは、いま、僕らが立ち上げた事業全体を統括するCEOをやっています。

ひとりでやるよりずっとスムーズに起業ができて、立ち上がった会社の経営者として活躍できる。そんな環境ができつつあると思っています。

事業は、泥臭くやったほうが儲かる

僕らはこの会社を、あと4年半で上場までもっていくつもりです。

この半年ほどで、営業の人数は5倍になりました。最初はたった5名しかいなかったのが、半年で25名になった。さらに今年中には50名近くになる予定です。

ふつうの大企業では考えられない成長スピードだと思います。

DXとかSaaSって、東京のオフィスでパソコンカタカタして作ってるのかなー、みたいなイメージがあると思います。

でも、僕らはめちゃくちゃ泥臭く現場を回っています。お客さんの業界も、住宅建材や製造業のような、レガシーな業界が多いです。だって、そこが本当にDXの必要なところだから。

そして、実は泥臭いほうが、事業的にも儲かるんですよね。

事業がでかくなるんです、そのほうが絶対に。みんな見落としがちなんですけどね。パソコンで完結する仕事はChatGPTに乗っ取られてしまいそうですが、僕らの仕事は当面、AIにはできそうにありません。現場に行っといてよかったです。笑

今回の町工場のような課題って、他の業界でも感じてる人は多いと思うんです。

現場をまわって営業をしていたり、実際に仕事をする中で「これもっとどうにかならないのかなー」と思っていること。僕らはそういう課題を、最速で解決していける会社です。

現場の課題を「プロダクト」という形にすれば、業界全体もよくなるし、アイデアの発案者もちゃんとお金を稼げます。

これからもどんどんそんな事業を生み出して、世の中にいい流れをつくっていきたいです!

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