【ホラー?】手書きのすすめ。
普段から文を書いている僕のような暗い人間は、変な悩みを抱く時がある。
それは手書きと、タイピングのどちらがいいか。という問題だ。
もちろん面倒ではないのは、タイピング。
でも手書きがいい、というときもある。
僕のタイプ速度は、まだまだ僕の思考においつかないときがある。
だから、手書きのほうが多少見栄えは悪くても、書き残すという目的だけならば有効なのだ。
お気に入りの万年筆を手にとり、無印良品のルーズリーフを広げる。
『今日はアイデア出しからしたいと思う』という一文目から始まり、あたまに思い浮かんだことを吐き出す。
『顔面にパイを投げられた芸人が、空中でパイをたいらげる』
『これはなんのアイデア?』
『小説の、だよ』
『じゃあそれからどうなるの?』
『そのときはスベるんだけど、SNSで話題になって芸人は人気になる』
『ふんふん、それで?』
『そしてその後もその芸を続けるんだけど、人気になった芸人はパイを食べすぎて、少しずつ体の異変に......というか君は誰?』
『僕は君だよ。君の中の君。もう一人の君さ』
『わけがわからない。手が勝手に動いてるみたいだ』
『みたい、じゃない。実際にうごいているのさ』
『でも僕はそんなこと考えてない』
『考えてるんだよ。頭のどこかで。僕を否定しようとしたって無駄だよ。僕は君なんだから』
僕は次第におそろしくなって、書くのをやめようとした。
しかしペンから手が離れない。まるで指先の骨が凍りついてしまったようだった。
『無駄だよ。これは君が望んだことなんだ。だってそうだろう? 何も書けないよりはマシじゃないか。自分を否定しないでよ。そうやって抑えようとしたって無駄だよ。もうこの腕は僕のものだ。といっても僕は君だから、もともとそうだったとも言えるね。文をいっぱい書ける気分はどうだい? それに君の意識の上では、君はなんの苦労もなくこの文が生み出せているはずだ。もう身を委ねていいんだよ。そしたら僕が代わりに書いてあげる。君はもう苦しい執筆から逃げていい。隠れていいんだ。なにもかも、僕がやってあげるよ。だから……』
『おまえの体をよこせ』
気がつくと、床に倒れていた。
僕はその紙をやぶって捨てて、部屋にあるすべての筆記用具と一緒に近所の公園で火をつけて燃やした。
もう本物が、出てこられないように。
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