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島ではたらく管理栄養士たちが、『食』で地域をつないでいく。

管理栄養士の資格を活かしながら島根県の離島、海士町で働く坂口真穂さんと深瀬湧さん。
島で出会った二人の管理栄養士たちは今なにを思い、どのような暮らしを送っているのでしょうか?

お二人に、お話を聞いてみました!

左:R5年度大人の島留学生   坂口さん取材当時29歳
右:海士町社会福祉協議会所属 深瀬さん取材当時25歳


−−本日はよろしくお願いします!
深瀬さんは来島されるまで、どのようなことをされていたのでしょうか?

深瀬さん 高校で介護の資格を取って、大学では管理栄養士の資格を取っていて。
管理栄養士になろうと思ったきっかけは「おいしい介護食を作りたい」という思いからでした。

インタビュー中の深瀬さん

坂口さん そうだったんだ、介護食を作りたいっていうのは高校のときに思ったの?

深瀬さん うん、高校で資格を取るとき介護の実習に行って、食事介助のときに「『おいしいですか?』って声かけしてくださいね」って言われた時に出来なかった。
「おいしくない、絶対」と思って。

それなら、自分でおいしいものを作ろうと思ったのが、管理栄養士になろうと思ったきっかけでした。
大学院に行って食品物性の研究をし、介護食へとつながる勉強をする予定だったのですが、進学のタイミングでコロナ禍に入って。
そもそも研究室にも入れず、オンラインで勉強できる内容でもなく。
大学院に行くことはできませんでした。


−−コロナ禍で大学院に行けないことになり、就職先を探し始めたのでしょうか?

深瀬さん 本土で就職するとなっても、選ぶ基準が分からなかったんです。
都会の福祉ってなんとなく想像できる。
でも、グループホームなどがない島ってどんな福祉をしているんだろう?と気になり、よし、行ってみようと。

坂口さん そのときは介護士か管理栄養士、どっちで入ろうと思ってたの?

深瀬さん 最初は介護職で入りたかったので、介護で探していました。ただ、面接の時点で管理栄養士が不足しているという話は聞いていて。
でも、最初から管理栄養士で入るよりも、介護の現場を知ったうえで管理栄養士の資格を活かす方がいいなと思っていました。

島に来てからは、最初の半年は介護士をやっていて、途中からは介護士と管理栄養士を兼務。今は管理栄養士としての仕事が主となっています。


−−坂口さんの経歴を教えてください。

坂口さん 私は今年の4月に、大人の島留学生として海士町へやってきました。
最初のころは、ひまわりのデイサービスで体操をしたり、トイレ誘導したり、送迎補助をしたり。介護補助としてひまわりで働いていました。

一番最初は、福祉の仕事をするつもりはなく島に来て。
やったことないことのない分野だなぁとは思っていたんですけど、おじいちゃんおばあちゃんが本当に可愛らしくて。楽しく働いていました。

今は管理栄養士としての資格を活かしつつ、海士町で何ができるか、いろいろと試しているところです。

インタビュー中の坂口さん


坂口さん 島に来るまでは、保育園や介護施設の献立を立てたり、食材の発注、給食を作る、月一回食育の話をするなど…管理栄養士の仕事をしていました。

ただ、なんとなく私は保育士さんでもなく介護士さんでもないという思いを抱えていて。「管理栄養士ってなんなんだろうなぁ」と思う瞬間もあって。

深瀬さん そうだね、分かる。

坂口さん 小さい子とか、おじいちゃんおばあちゃんと深く関わる機会もなくて、私にできることって少ないなぁと、少し壁を感じていました。


−−管理栄養士さんならではの思いがあるのですね…。今はどのようなお仕事をされているのでしょうか?

深瀬さん 地域の方たちの栄養相談をやっていきたいなと思っています。

坂口さん 7月から2人でやっているので、まだ色々と試している段階で。

深瀬さん 今は地域に出て、さまざまな現場をまわっています。地域を知るためには、まずは地域の方と関わるところから。

坂口さん 海士町には地域福祉がいろいろあって。
みかんカフェというところで体操していたり、私たちが主体でやっているものもあれば、民生委員さんが主体でやっているところもあったり。
そういうところに参加しています。


深瀬さん
 管理栄養士っていつも同じところにいたら、同じ人たちの栄養状態しか知ることができない。
健康そうに見えても食事に困っている人たちって絶対いる。

いろいろと動き始めて、自分たちから出向く側の管理栄養士になれているなと感じています。

海士町産業文化祭にて出店、
「おばあちゃん直伝の絶品!煮しめ」


−−いろいろと模索していく中で、なにか変化はありましたか?

坂口さん 上司の方と3人で話している時に、もっと外に、地域に出られたいいよねと話していて。

深瀬さん 地域の方たちの栄養相談をできたらという話になって。
でも、急に知らない人に「何か困っていることありませんか?」って聞かれてもなかなか言いにくいよね、と。
まず最初は、地区単位で交流の場を作ろう!ということで「ひまわり食堂」が生まれました。

坂口さん ひまわり食堂では、ボランティアスタッフや大人の島留学生、高校生たちなどにご協力いただいて、みんなでご飯を作って。
「開催地区の方はぜひ食べにきてください!」とお声がけをしています。

今のところ2か所で開催して、それぞれ30人以上集まってくださいました。

大盛況のひまわり食堂!

深瀬さん お手伝いに来てくれた高校生が、「この地区は初めて来た!」と言っている子もいて、やってよかったなぁと思いました。

参加してくださった地域の方の中には「1人でご飯を食べるのがさみしい」という声や、「久々にみんなで料理した、楽しかった」という声も聞くことができました。

みんなで集合写真📷


−−お二人の活動が地域のみなさんの交流にもつながっているのですね。1人ではなくて、2人でよかったな!と感じる時はありますか?

深瀬さん 僕はすごく助かってます。僕が苦手なことは坂口さんがやってくださいます(笑)

坂口さん たしかに、お互い助け合えてるよね。私たち正反対なんです。

深瀬さん 「こっちはやるから、こっちはやって!」ってパズルみたいに上手くハマっています。

息ぴったりなお二人


深瀬さん あと、もう一つ助かっているのが、僕は大人の島留学ではなく来たので、同世代との交流がほぼなくて。
職場の方たちとの交流がほとんどだったんですけど、坂口さんが大人の島留学の人たちを紹介してくれて。
同世代の知り合いが増えたのがうれしいです。

坂口さん 人の名前は全然覚えてないけどね(笑)

深瀬さん 髪型で覚えるタイプなんで(笑)でも挨拶できる人が増えたのは、うれしいです。


−−島の暮らし面はどうでしょうか?

坂口さん 島に来る前は、もっとのんびりできるかなと思っていました。
いざ来てみたら、休日もイベントが多くて、想像していたよりアクティブに過ごしています。
もともとは農業がしたくて島に来たんですけど。

深瀬さん そうなの!?

坂口さん そうだよ。なので今はシェアハウスで畑をしていて。冬は大根、キャベツ、春菊も植えたいなぁと思っています。

さつまいも掘り🍠

深瀬さん 僕は虫が多いのが悩みです。ムカデが怖いです。
島に来るまで虫の心配はしてなかったんだけど、島に来て三日ぐらい経った時に島って虫多いんじゃないか?ってふと思って。

坂口さん 来て三日で…?

深瀬さん 来るまでは何も考えてなかった。島だぁ!って思ってたんだけど、待てよ…?って急に心配になった(笑)
島暮らしいいなぁって思うところは、困ったことがあったら誰かが助けてくれることですかね。

自然ゆたかな海士町


−−例えばどんなことでしょうか?

深瀬さん 車がエンストした時とか、困った時には誰かが助けに来てくれます。

坂口さん 私も夜中に自転車がパンクした時、明日仕事行けないどうしよう!と思って上司の方に連絡したところ、車で迎えに来てくださいました。
車のバッテリーが上がってしまった時も、上司の方が助けてくださいました…

深瀬さん 困っている時に、絶対に誰かが助けてくれるのがこの島だよね。
困っている人に優しくしてくれる。

坂口さん 確かに、そうだね。この間も自転車を停めて栗を拾っていたんです。
そしたら通りすがりのおじさんが「どうした!」って声かけてくれて。
「栗拾ってます」「転んだんかと思ったわ!」って言ってから、わざわざメガネをかけて栗の選別をしてくださいました。
「これは穴が空いてるからダメだよ」って(笑)

秋は栗拾い

深瀬さん 頼ったら100倍にして返してくれるよね。栗が欲しいって言ったら、レシピまで教えてくれるみたいな(笑)
すごいな、この島って思います。


−−人と人の距離の近さに島らしさを感じますね。
最後に、ご自身の今後や島について、ひとことお願いします。

坂口さん とにかく楽しく過ごせたらいいなぁと思います。
私の周りにいてくれる人も、私自身も、楽しかったなぁって思えたらいいなって。

深瀬さん 個人的には福祉の人が増えていってくれたらいいなと思います。
「生まれ育った海士町で最期を迎えたい」と思っている人の気持ちに応えられる島でいられたらと思います。

この島で最期を迎えたいと思っている人が、最期を迎えられるように。
福祉に興味のある人がこれからも増えてくれたら、うれしいです。

『食』で地域をつなぎ、島に笑顔があふれていく。



(R5年度 大人の島留学生:柿添)


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