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出汁への憧れ

修行した日本料理店では毎日鰹節と昆布で出汁を引いていたから、普段の料理でもそうするべきとずっと信じていた。
でも実を言うと現在は、仕事以外で鰹節と昆布から出汁を引くことはすっかりしなくなった。

昆布はぬめりが出るから煮立たせずとか、鰹節を入れたら火を止め沈むのを待ちというような、それまで当たり前だと思ってきたことが、環境や生活の変化で時間的にも精神的にも難しさを感じるようになった時期があって、それから家ではもっぱらだしパックを活用している。

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プロのレシピでも中華スープなら半練りか顆粒、洋風なら固形スープ、といった記載がある一方、出汁では特に指定がないか「基本の出汁の引き方はこちら」もよく見かける。
これには、個々の自由度、和食の基本、鰹節と昆布がすでに優秀なインスタント食品(乾物)だから、というような発信側のさまざまな考えがあるのに加えて、見る人にある「出汁を引くこと」への大きな興味、憧れのようなものもあるように思う。

丁寧に引いた出汁と手軽なだしパック、顆粒だしにはもちろん違いがあって、出汁を引かないことがどうしても手抜きに感じられるとか、単純に引いたお出汁の味が好きとか、そういう方に出汁を引くことは心にも体にもとても健全だし、塩分とか健康上の理由なんかもあるかもしれない。

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出汁の味いわゆる旨味は、体に必要なアミノ酸や核酸などに由来する「必要だから」美味に感じる味で、生きるために必要なものを美味と感じることは人間も他の生き物も違いがないのだそう。
その上で、それが自分にとってどういうものかをまず知って選ぶということが、とても丁寧な人間らしい心の働きなんじゃないかなと考えている。

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料理ごとにダシを使い分けるフランスへ嫁いでいった友人に「フォン(フランス料理のダシにあたるもの)はどうしてるの?」と聞いたら、「私もそうだしみんなインスタントを使ってるよ」と。
彼女はレストランで働いた元同僚で、丸鶏と香味野菜を大鍋で何時間も煮込んで濾して共にフォンを取った仲。

やりたいこととできること、できることとやることは違っていいし、いつでも変わっていいと思います。


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