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魔法少女の系譜、その123~『王家の紋章』~


 今回は、前回とは違う作品を紹介します。久しぶりに、テレビ番組ではなく、漫画作品を取り上げます。
 『魔法少女の系譜』シリーズでは、基本的に、テレビ番組を扱います。けれども、魔法少女史上で、重要だと考えられる作品は、テレビ番組でなくとも、取り上げることがあります。

 今回、取り上げるのは、少女漫画の『王家の紋章』です。昭和五十一年(一九七六年)から、『月刊プリンセス』で連載が始まりました。単行本は、昭和五十二年(一九七七年)から出ています。
 そして、まだ、完結していません(*o*) 日本の少女漫画史上、最も長く連載が続いている作品です。

 有名な作品なので、内容を御存知の方も、多いでしょう。「これって、魔法少女ものだっけ?」と、疑問に感じる方が、いらっしゃるかも知れませんね。
 結論を先に書きますと、「魔法少女ものと、そうでない作品との、中間に当たる作品」だと考えます。

 『王家の紋章』のヒロイン、キャロル・リードは、現代日本の感覚で言えば、魔法少女ではありません。しかし、この世界では普通の少女でも、異世界へ行けば、魔法少女と見なされることが、あり得ますよね?
 キャロルは、約三千年もタイムスリップして、古代エジプトという異世界へ行ってしまいます。そこで、二十世紀―連載開始が、昭和五十一年(一九七六年)ですからね―の知識を生かして、魔法少女のような活躍をします。
 なお、最近の連載では、「二十世紀」の部分が、「二十一世紀」に変えられています。長期連載するうちに、世紀をまたいで(!)しまったからですね。

 『王家の紋章』には、現代日本の私たちが見ても、「魔法少女」といえる女性が登場します。キャロルの恋敵のアイシスです。
 アイシスの年齢は、わかりませんが、キャロルより年上なのは、確かです。異母弟のメンフィスが十七歳ですから、それよりは年上のはずです。少女ではなく、成人女性かも知れません。
 彼女は、古代エジプトの神殿に仕える祭司であり、古代エジプトの魔術に精通しています。その魔術を使って、キャロルを翻弄します。

 何度も書いていますとおり、『王家の紋章』の連載が始まった時代―昭和五十年代前半(一九七〇年代後半)―には、まだ、「魔法少女」という言葉は、普及していません。「魔女っ子」は、ありました。
 連載開始当時の概念でも、アイシスは、「魔女っ子」と言えます。年齢のことは置いておきまして。

 『王家の紋章』のヒロイン、キャロル・リードは、十六歳の少女で、米国人です。金髪碧眼の美少女です。考古学に興味があり、古代エジプトの文化が大好きなために、米国から、現代のエジプトへ留学しています。
 彼女は、リード・コンツェルンの社長令嬢なので、お金持ちなんですね。それゆえに、エジプトへと、長期に海外留学する余裕があります。

 美少女でお金持ちで勉強もできて、そのうえ、彼女は、人柄も良いです。完璧超人ですね(笑) 昭和の時代の少女漫画の主人公としては、珍しくありません。このくらいのヒロインが、ぞろぞろいました。

 ある時、キャロルは、古代エジプトの遺跡の発掘に立ち会います。そこで、ミイラが発見されます。それは、古代エジプトの王(ファラオ)、メンフィスのミイラでした。
 メンフィスのミイラは、盗難に遭い、外国へ売り飛ばされてしまいます。それは、キャロルがまったくあずかり知らぬことでした。

 メンフィスのミイラがあった遺跡には、アイシスも葬られていました。メンフィスとは別室に葬られていたため、彼女のミイラは、発見されずに済みました。
 アイシスは、自らがかけた魔術によって、ミイラから、生きた人間として蘇ります。現代世界でキャロルに出会い、リード家に入り込みます。そこで、キャロルたちが墓を暴いたことを知って、リード家に復讐を始めます。
 前述のとおり、アイシスは、古代エジプトの神殿の祭司です。彼女はまた、エジプトの王族であり、メンフィスの異母姉でした。幼い頃から、メンフィスのことが好きで、事実上の婚約者扱いをされていました。

 ここで注釈をしておきますと、古代エジプトの王族では、きょうだい婚が普通でした。姉と弟、兄と妹が結婚するのが、普通でした。これは、王族だけの特殊な風習で、一般庶民は、違います。
 作者の細川智栄子さん(と、芙~みん【ふーみん】さん)は、ちゃんと、古代エジプトの文化を理解して、描いています。インターネットもない時代に、よくぞ調べたと思います。

 もう一つ、注釈をしておきますと、作者の細川智栄子さんと芙~みんさんとは、姉妹です。二人三脚で、四十年以上も、『王家の紋章』を描き続けてらっしゃいます。

 さて、アイシスは、メンフィスのミイラを売った古美術商を殺し、キャロルの父親も殺します。社長を失ったリード・コンツェルンは、キャロルの兄のライアンが社長を継ぎます。
 キャロルは、もちろんショックを受けますが、古代エジプト文化への情熱は、衰えません。遺跡から発見された石板を自宅に持ち帰って、復元しようとします。
 それは、アイシスが生きていた時代に、アイシスに敵対する神官が作ったものでした。神官は、アイシスを呪い殺す道具として、石板を作りました。

 この石板が完全に復元されれば、アイシスの魔術は解けて、現代にいられなくなってしまいます。アイシスにとって、それは、何としても避けたいことでした。愛するメンフィスのミイラを取り戻せなくなるからです。
 アイシスは、石板の復元を防ごうとしますが、失敗します。石板の復元が進み、追いつめられたアイシスは、キャロルを誘拐して、ともに古代エジプトへ戻ってしまいます。

 古代エジプトへ来てしまったキャロルは、生きているメンフィスに出会います。少年王メンフィスは、金髪碧眼のキャロルを怪しんで―当然ですね―、彼女につらく当たります。
 ところが、彼女の優しい人柄や、二十世紀(二十一世紀)の知識により、メンフィス自身や、国の危機が、何度も救われることになります。そうするうちに、メンフィスとキャロルとは、深く愛し合うようになります。

 アイシスが、これを面白く思うはずがありません。あらゆる手段を使って、二人の仲を裂こうとします。腕によりをかけて、魔術を使いまくります。陰謀も、いっぱい、めぐらします。けれども、ことごとく失敗します。

 もともと、メンフィスは、アイシスと仲が悪くはありませんでした。アイシスのほうは、メンフィスを熱愛していましたが、メンフィスのほうは、肉親として、アイシスを愛していました。それでも、メンフィスは、アイシスが自身の王妃となることには、納得していました。
 それが、キャロルと出会ったことで、メンフィスの気持ちも運命も、一変します。アイシスがキャロルにひどい仕打ちをしたせいで、メンフィスは、アイシスではなく、キャロルと結ばれたいと強く思うようになります。
 アイシスは、敵に塩を送ってしまったわけです(^^;

 物語の中で、何回か戦争が起こります。古代エジプトは、ヒッタイトやアッシリアと戦うことになります。それらの戦争でも、キャロルの知識が役立って、エジプトが勝利を収めます。
 このため、キャロルは、古代エジプトの民衆からも、人気を得ます。アイシスは、メンフィスからの愛ばかりではなく、王族としての地位までも、キャロルに脅かされます。

 そこへ、古代バビロニアの王、ラガシュが付け入ります。ラガシュは、絶世の美女であるアイシスに惹かれていました。自分の王妃になってくれれば、キャロルを殺してやると持ちかけます。
 アイシスは迷いました。彼女の気持ちは、メンフィスにあります。けれども、とうとう、ラガシュの求婚を受け入れて、バビロニアの王妃となりました。
 このことにより、キャロルは、ラガシュから命を狙われることになります。

 のちに、ラガシュは、キャロルの知識に感心して、彼女を殺すよりも、利用したほうが良いと考えるようになります。
 とはいえ、アイシスへの愛は揺るぐことはなく、彼女にとっては、良い夫です。アイシスのほうも、ラガシュが嫌いなわけではありません。本当にアイシスが好きなのは、メンフィスなのですが。

 キャロルのほうは、念願かなって、メンフィスの王妃になります。でも、それでめでたしめでたしとは、なりません。
 詳しいことは省略しますが―長くて、書ききれませんので(^^;―、キャロルは、いろいろな人物に、何回も拉致・監禁されます。前記のラガシュをはじめ、古代ヒッタイトのイズミル王子など、何度もキャロルの拉致を試みます。
 「ヒロインがさらわれる」という、少女漫画にも少年漫画にもよくある展開を、最初に定着させたのが、『王家の紋章』かも知れません。最近ですと、少年漫画のヒロインに多いでしょうか? キャロルは、元祖「さらわれヒロイン」です(笑)

 キャロルはまた、古代エジプトと、現代とで、タイムスリップを繰り返します。
 最初に古代エジプトに連れて来られた時には、アイシスの魔術によるものでした。その後も、アイシスの魔術によるタイムスリップがありますが、すべてのタイムスリップが、そうではありません。後半になると、特に、原因のわからないタイムスリップが多発します。
 キャロルは、メンフィスと相思相愛で、王妃になっても、いつ、現代に戻ってしまうかわからないわけです。これは、はらはらどきどきしますよね。上手い仕掛けだと思います。

 タイムスリップにともなって、キャロルは、記憶喪失になることが多いです。現代に戻ってくると、古代エジプトでの記憶を失ってしまって、メンフィスやアイシスなどのことを、きれいさっぱり忘れてしまうことがあります。
 むろん、何かのきっかけで、記憶を取り戻して、また、古代エジプトに戻ることになるんですけれどね。
 キャロルは、元祖「記憶喪失ヒロイン」でもあります。二〇二〇年現在では、あまり多くありませんが、昔の少女漫画には、記憶喪失になるヒロインが多かったのですよ。

 『王家の紋章』は、二〇二〇年現在も、完結していません。このため、キャロルとメンフィスとアイシスとの関係や運命が、最終的にどうなるのかは、まだ、不明です。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『王家の紋章』を取り上げます。



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