天狗よ!―変革を仕掛けた魔妖


天狗よ!―変革を仕掛けた魔妖

 天狗の本です。
 天狗が、日本史の中で、どのように活躍してきたのか、解説されています。

 本書は、まず、日本人が、どのように「異界」や「怨霊」を考えていたのか、そこから入ります。
 異界や怨霊を抜きにして、天狗は語れないからです。
 天狗と並んで有名な妖怪、「鬼」についても、触れられます。

 これらの下準備を経て、いよいよ天狗の登場です。

 日本の歴史で、「天狗」という言葉が最初に現れるのは、『日本書紀』の中です。
 ただし、『日本書紀』の「天狗」は、「てんぐ」ではなく、「あまつきつね」と読まれます。この段階での「あまつきつね」は、現代の「てんぐ」とは、まったく違うものです。

 初めての「てんぐ」が現れるのは、本書によれば、平安時代中期です。この時代に、天狗は、「人に似て、人にあらざる、山に棲む妖怪」という姿を獲得したようです。

 鬼が古代に活躍したのに対し、天狗は、圧倒的に、中世に活躍しました。
 とりわけ、天狗が「わが世の春」とばかりに跳梁【ちょうりょう】したのは、南北朝時代です。

 南北朝時代は、理解が難しい時代です。敵・味方が複雑に入り乱れ、下剋上や裏切りも、珍しくなかったからです。
 この複雑怪奇な南北朝時代を読み解くのに、じつは、天狗が役に立ちます(^^)

 乱れた世という点で言えば、南北朝時代は、その後の戦国時代と似ています。
 その割に、南北朝時代は、人気がありませんね。戦国時代と違って、南北朝時代の映画や大河ドラマなど、ほとんど聞いたことがありません。

 その理由は、南北朝時代が、あまりにわかりにくいからだといわれます。
 南北朝時代には、「誰かが天下を取れば、終了」といった、明確な目的がありません。そこが、戦国時代と、はっきり違うところです。
 有力な武家や公家などの誰もが、分裂した王朝に戸惑い、目前の利益を確保するのに精一杯で、右往左往していました。

 本書の著者、百瀬明治【ももせ めいじ】氏がおっしゃるには、このような世の中こそが、天狗を「魔妖の中の王者」に押し上げたのだそうです。
 山にひっそりと棲む精霊のようだった「天狗」が、南北朝の乱世という栄養を吸って、「偉大な魔妖」に成り上がりました。

 天狗から見る日本史は、興味深いです(^^)
 「こんな日本史の見方もあるんだ」と、目を開かされました。

 以下に、本書の目次を書いておきますね。

序章 異界とは何か
 一 古代人の異界観
 二 この世に進出する異界(魔界)
 三 人間はなぜ異界(魔界)をつくったのか

第一章 極楽と地獄
 一 仏教の伝来と異界
 二 負の異界としての地獄
 三 この世と異界の関係

第二章 徘徊する怨霊と鬼
 一 祟る怨霊―御霊【ごりょう】信仰のひろがり
 二 鬼の登場

第三章 天狗の出現
 一 古代の天狗
 二 『今昔物語集』の天狗

第四章 騒乱の演出者
 一 古代の終焉【しゅうえん】
 二 天狗の反体制イメージの萌芽

第五章 仏法への挑戦
 一 『源平盛衰記』の天狗問答
 二 天狗になった僧たち

第六章 天狗と山伏
 一 仏教徒の修行の場としての山岳
 二 生命を吹き込まれた天狗

第七章 天狗たちの時代
 一 鎌倉幕府倒幕と天狗の暗躍
 二 乱世こそが活躍の場

第八章 人間界を闊歩【かっぽ】する天狗
 一 合理的精神の息づいた南北朝時代
 二 南北朝時代の天狗たち
 三 「日本」という概念の形成

第九章 天狗の時代のたそがれ
 一 戦国乱世と天狗の試練
 二 泰平の世の天狗の低落ぶり
 三 天狗研究と天狗ブーム

第十章 現代に飛翔する天狗
 一 文明開化と天狗
 二 現代への飛翔

あとがき
参考資料
参考図書



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