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短編小説

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夢トレーダー【掌編】

夢トレーダー【掌編】

——本日はよろしくお願いします。

西田:お願いします。

——まず初めに、自己紹介をしていただいても宜しいでしょうか。

西田:はい。夢トレーダーをやっている西田です。好きな食べ物はイチゴです。

——イチゴですか。美味しいですよね。

西田:はい。

——去年、「夢市場」がオープンしてから一気に盛り上がりを見せている「夢トレーダー」という職業。なぜなろうと思ったのですか?

西田:私、「夢市場

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エモい

エモい

私には知らない事がたくさんある。

毎日触っているスマートフォンが、どういう仕組みで動いているのか知らない。

毎日飲んでいるコーヒーを、誰が一番最初に発見したのか知らない。

毎日顔を合わせるあの人が、腹の底で何を考えているのか知らない。

人類はみな、全知全能にはなれない。

広い意味で全員何かのスペシャリストであり、完璧なジェネラリストはいない。

多くの事を知らない私は、かつてあの「エモい

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見える見られる【短編小説】

見える見られる【短編小説】

 僕の頭の上に、数字が浮かんでいる。273。

 鏡の向こうの僕の顔は、いつもと同じで間抜けだ。

 頭の上に数字が浮かんでいることは、驚きの対象ではない。

 歯を磨き、弟を叩き起こしてリビングに入ると母が朝食を作っていた。

 ふと、母が包丁を置き、弟に向かって怪訝そうな顔をした。

「あら、今日体調悪い?」

「え?」

「ダルくない?熱測ってみて」

 弟はリビングの棚、その定位置から体温

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ゆめゆめ【短編小説】

ゆめゆめ【短編小説】

 僕は、いじめられているらしい。

 小学生の頃は全然友達が出来なかったけれど、中学生に上がってからはかなり頑張った。

 入学前、お母さんに頼んでメガネをコンタクトに変えたし、少し長めだった髪もさっぱり切ってもらった。

 僕の作戦はこうだった。

 入学直後、みんなが関係性を探っている時期に、今後中心人物になりそうな人を見つけてアタックする。それだけ。

 心臓が本当に飛び出るほどに緊張したが

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