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夢トレーダー【掌編】

——本日はよろしくお願いします。

西田:お願いします。

——まず初めに、自己紹介をしていただいても宜しいでしょうか。

西田:はい。夢トレーダーをやっている西田です。好きな食べ物はイチゴです。

——イチゴですか。美味しいですよね。

西田:はい。

——去年、「夢市場」がオープンしてから一気に盛り上がりを見せている「夢トレーダー」という職業。なぜなろうと思ったのですか?

西田:私、「夢市場」がオープンしたとき30歳だったんですけど、それまでずっとコンビニでバイトをして生活していました。何か一攫千金を、と思ってはいたんですけどなかなか良い仕事が無くて。そんな時にTwitterを始めたんです。

——Twitterですか。

西田:はい。昔から、人が何考えているかばかりを考えていたのが奏功したのか、結構バズったんです。それで、「あ、自分共感性あるのかも」と思って。

——なるほど。

西田:Twitterで何回かバズったあたりで、タイムラインで「夢市場」のことを知りました。以前から夢を取引できるのは知っていたんですが、「夢市場」ではその取引が一般に解放されるということで。見た瞬間に「これだ!!」と思いましたね。

——自分の共感性を活かせる場所だった、と。

西田:そうです。大衆が熱狂的に求める夢を、流行る少し前に安値で買っておいて、熱狂が冷める直前に売るだけです。結構簡単なんですよ。

——いやあ、難しいですよ。まさに天職ですね。

西田:有難うございます。いまだに「楽して儲けやがって」とか「ちゃんと働け」とか批判されることも多い職業ですけど、筋違いだと思っています。人間それぞれにちゃんと才能はあって、大事なのはそれに気付けるかどうか。自分の才能に気づいて楽しく儲けている人がわざわざ苦労する必要ないですからね。

——確かにそうですね。最後に、今までで1番高値で売れた夢を教えてください。

西田:「連休最終日に、連休の2日間延長が決定する夢」です。

——有難うございました。

西田:有難うございました。


翌日、インタビュー記事を見つけた西田は思わず顔をしかめた。

『【話題の職業】夢トレーダーの第一人者 西田「苦労して働く必要ない」』

すでに通知が大量に溜まっているTwitterを閉じ、一旦落ち着こうとコップに水を注いだ。

その時遠くから声が聞こえた。

「さーい……きなさーい……」

「早く起きなさーい!」

アラーム音が鳴り響き、一気に視界が歪んだ。

無理は言いませんし、そう簡単に得られるとも思っていませんが、サポートしていただけたらそのお金で買ったことのない飲み物を買います。