文芸誌 空地

同時代の生活者のための文芸誌・空地(あきち)公式note

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空地 Vol.4 文学のふるさと、架空のノスタルジア 巻頭言

 YouTubeに上がっている大谷翔平の高校時代から現在までの映像にNewjeansの「Ditto」という曲をつけた動画のコメント欄には、さまざまなユーザーの大谷との架空の思い出が書き込まれている。アイドルのグラビア──それも制服を着たノスタルジックな写真に対して、多くのファンが存在しない思い出が蘇る、とコメントしている。ネットカルチャーと密接した遠泳音楽と名づけられた音楽ジャンルは、存在しない記憶を呼び起こすことをその定義としている。  近ごろ、そういった架空のノスタルジ

    • 文学フリマ東京38に出店します!!

      日芸生と藝大生の送る同時代の生活者のための文芸誌「空地」 2024年5月19日(日曜)文学フリマ東京38に出店いたします!! 場所は第一展示場E-15です。 新刊は 第四号「文学のふるさと、架空のノスタルジア」 空地別冊001「保坂和志トリビュートブック」 です。 第一号、第二号増刷文庫版、第三号のバックナンバーも頒布いたします。 フリーペーパーも沢山用意しますので是非立ち寄るだけでもよろしくお願いいたします!! webカタログはこちら 【新刊情報】第四号「文学

      • 文学フリマ東京37に出ます

        弊誌、今回も文学フリマに出店します。 ブースは L - 35 です。 最新号のVol.3「夏の日、残像」はもちろん、第一号も頒布します(2号はおかげさまで完売、みなさんありがとうございます)。 フリーペーパーの配布もあるので、よろしくお願いします。 「ぼくたちの見た/見たかった/見たかもしれない、夏の景色/風景/光景」 をテーマとした第3号は以下のような内容です。 【小説】「家族小説」松崎太亮 中村渚「白塔/散瞳」 「海藻」安孫子知世 「僕はこの夏、優勝し

        • 空地 Vol.3 巻頭言

          (なぜ)夏の日、残像(というサブタイトルになったのか) この雑誌では、毎号テーマを設けてそれに合わせたサブタイトルをつけている。第一号は「二〇二二年・フィクションの現在地」、第二号は「もうチルしている場合じゃない」だった。同人にはテーマに沿ったものを依頼しているわけではないが、彼らの同時代の生活者としての視点というのは、多かれ少なかれテーマに対する回答になっていると感じている。今回の当初のテーマは「快楽の時代、文学の復権」だった。このサブタイトルは、TikTokや可処分時間

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        空地 Vol.4 文学のふるさと、架空のノスタルジア 巻頭言

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        • 5 by 5+α〜私が影響を受けた本
          5本

        記事

          コインランドリーと葡萄(短篇小説)

          夏が終わり、秋も始まらない、その九月七日の午後に、西陽が部屋に入り込み、冷房をまだつけていて窓を開けていないのに、カーテンが少し揺れる、気がする。 君は朝起きた時、季節の変わり目の雨を見ながら、僕に、「洗濯物が溜まっているのよ」とだけ言った。僕は「コインランドリーに行ってくるよ。銭湯の隣の」と言った。君は「そのまま入ってくるの?」と言った。僕は少し迷って、 「それは贅沢すぎるな」  と言った。  僕はコインランドリーで僕のシャツや彼女の寝巻きやらを纏めて放り込んで、ドクターペ

          コインランドリーと葡萄(短篇小説)

          ロッカールームの風

          ロッカールームの扉を開けて仕舞えば、そこは日中の果て。日差しのもとの気の利いた会話や、交錯する視線からはなれた、仄暗いその場所を私は気に入っていた。ロッカールームには、直角の背もたれ(これが長時間座っていると腰痛というか、気持ち悪くなるのだ)のソファがいくつかと、ちょっとしたテーブルがある。リュックをテーブルに置いて、奥のソファで仰向けに寝転ぶ。蛍光灯の光がノイズになる。思考が点滅する。何も考えられない空間に身を任せることの、居心地のよさ、と、悪さ。この時間のロッカールームに

          ロッカールームの風

          連続するふたつの。(詩とエッセイ①)

           こんにちは。壹岐です。  今回から、「詩とエッセイ」というあいまいな枠組みをつけ(「詩と批評」、「詩と思想」があるというのに……)て、エスキースを、iPhoneのノートに残されていた行動の記録を頼りに、いくつかの文章を書こうと思います。             ☆ 2023/06/28  水曜は、二限にあるドイツ語だけで、そのあとは大抵バイトが入ることが多いのだが、今日はバイトもなく、午後がまるまる空いていたので、散歩に出ることにした。最近はずっと暑いので、もう靴下を履

          連続するふたつの。(詩とエッセイ①)

          日記 6/12〜6/18

          6/12  朝起きると、電気がつかなかった。そういえば電気代を払い忘れていた。慌てて近所のコンビニに支払いにいく。  空が今日はエメラルドグリーンなので、運気がいい日かもしれないと思って占いを見てみたが、265位だったので今日は競蜂に行くのはやめようと思ったが、そろそろキタヨンホワイトを見たい。彼が飛んでいる景色はなかなかな壮観で、見ているだけで気分転換になる。  コンビニの途中の商店街にある飲み屋に入って、フリスクをつまみにラガービールを飲む。やはり平日の昼の酒は最高だ。

          日記 6/12〜6/18

          雨降りロマンスの準備

          線状降水帯の豪雨が街灯で煙る、降り続ける雨の激しさが、水溜りのコンビニエンスの蛍光灯の反射を掻き消す、それらが強風で流されていく、僕の頼りない折り畳み傘がひっくり返る、僕は少し唖然として、濡れながらそれを直す。 台風と梅雨が重なった夜に、僕は、いつものように、くだらない放課後を過ごして、終電の丸の内線に乗って帰った。 家に着き、水没してくぐもった音のイヤホンを取って気づく、ゴーッ、鳴っている、屋根の下で煙草に火をつける、シメッている。 玄関で濡れてグシャついた足をなんとかしよ

          雨降りロマンスの準備

          The 1975における、革命前夜

           空地のポッドキャスト収録にて、編集長(マツザキ)が話していたことが妙に引っかかっている。曰く、「ぼくたちはまだ生まれていない」、らしい。僕たちはまだ生まれていない。それはポスト・コロンニズムに生きている僕たちにとって非常に正確な表現ではないか。  すべてのこと——自己表現から日々の感情の叫びさえも、ぼくたちはすでにそこにあったものを選んでいる。動物のように、社会の情報システムの中に組み込まれて実存を見失っている。  そしてそれは、ぼくたちの世代に共通した諦観であるようにも

          The 1975における、革命前夜

          文字の奥行き

          久々に文章を書こうと思ったのだけれど、スッと浮かぶようなものがなく、それは自分があまりにも多忙な生活に身を任せているからであり、知らずのうちに、立ち止まって何かを考える様な在り方を手放してしまっていたのだ、と気付く。何かきっかけがなければいけない。決まって私はものを書くとき、または、書くことにとどまらずものを創るとき、材料を必要とする人間だ。 前に読んだアーティストの座談会に、こんなことが書いてあった。 私のきっかけって、なんだろう……、と考えたときに思い浮かんだのは、紙

          文字の奥行き

          立ち喰いの美学(まだ夢を見ていたい)

           学校近くの立ち喰い蕎麦屋でいつものようにひとりでに、コロッケ蕎麦をすすっていると、   〈つぼみのままで 夢を見ていたい    影絵のように美しい    物語だけ見てたいわ    伊代はまだ 16だから♪〉  松本伊代の「センチメンタル・ジャーニー」が流れてきた。  有線から流れてくるわけだけど、なんかすごくよかった……まじまじと「センチメンタル・ジャーニー」の歌詞を意識したことがなかったんだけど、とくに「物語だけ見て」いたいというのはすごうわかるというか……。さすが松本

          立ち喰いの美学(まだ夢を見ていたい)

          文学フリマ東京36でます

           文芸誌「空地」、今回はお知らせです  5月21日の文学フリマ東京36に出店します  ブースはA-60です  出来上がったばかりの第2号を初頒布します!  第1号のバックナンバーも売りますよ〜 無料配布のフリーペーパーもあるのでぜひ寄るだけでもお願いしますね〜 空地 Vol.2 もうチルしている場合じゃない【タイトル】『空地 Vol.2 もうチルしている場合じゃない』 【サークル名】空地 【発行日】2023年5月21日 【サイズ】A5/124p 【定価】700円

          文学フリマ東京36でます

          さよなら、For Tracy Hyde

          ぼくが音楽をよく聴くようになったのは高校一年のころで、訳といえばスマートフォンを買ってもらってサブスクを使えるようになったからというのが大きいのだが、そのとき夢中になったのは渋谷系や東京インディーやネオシティポップと呼ばれる音楽家たちで、聴き始めたころにムーブメントはすでに終わっていた。  オザケンは復活していたけれど、フリッパーズが登場した時の衝撃は知らないし、シャムキャッツは解散して、ヨギーやネバヤンは中堅の仲間入りをしようとしていた。  ぼくは彼らの音楽に感動しながら

          さよなら、For Tracy Hyde

          空地 Vol.2 巻頭言●もうチルしている場合じゃない(のか?)

           最近、この雑誌の同人たちとポッドキャストを始めた。たわいもない話ばかりしているのだが、話すことは文章を書くのとはちがう面白さがあると感じている。その面白さとは誤配が起こりやすい、ということだ。同じテーマについて考えていても、話す時と書く時では大きくちがう。文章は添削や推敲の過程で整理されるが、会話には思考の流れがそのまま顕れる。自分が伝えたいこととは少し離れた言葉が出てきてしまうこともある。それがいい、と思う。自分が放った言葉が、自分が普段思っていたり感じていたりしたのに自

          空地 Vol.2 巻頭言●もうチルしている場合じゃない(のか?)

          ゴールデンウィークの分裂と断片。

          気温が高くなった五月に逃げ場はない。 僕と、高校生の制服の、白いシャツが陽射しを反射する。眼鏡で集まった太陽が黒目を焦がす。それは虫眼鏡で紙を燃やした、あの夏に似ている。 子供が頬を紅潮させてアスファルトに座り込んでいる。何やら作戦を立てている。メガネをかけたアイツが、年下の弟分に、来い、と言って走り去る。七分丈のズボンの裾が揺れる。 銃弾が三発、僕の右肩から胸を突き抜けた。 その痛みが何かを麻痺させた。晒されないはずの肉に風が吹いた。 銃声が鳴る、それは扉を叩くことだ

          ゴールデンウィークの分裂と断片。