The 1975における、革命前夜
空地のポッドキャスト収録にて、編集長(マツザキ)が話していたことが妙に引っかかっている。曰く、「ぼくたちはまだ生まれていない」、らしい。僕たちはまだ生まれていない。それはポスト・コロンニズムに生きている僕たちにとって非常に正確な表現ではないか。
すべてのこと——自己表現から日々の感情の叫びさえも、ぼくたちはすでにそこにあったものを選んでいる。動物のように、社会の情報システムの中に組み込まれて実存を見失っている。
そしてそれは、ぼくたちの世代に共通した諦観であるようにも思える。
一つ前の世代と違うところは、ぼくたちはそれらが既に存在していた世界に生まれていることであり、反抗しようにもその矛先さえ掴むことができないところである。
それはあらゆる創作活動につきまとう。
音楽の歴史をなぞっても、新しい表現技法から新しい音楽が生成される流れは00年代始めの宅録ブームから下火になりつつあり、ミクスチャーから新しいものを探す試みも限界を迎えている。2010年代はそのような場所から始まる。
The 1975は、そのような状況の中で、生まれようとしていた。
・バンド結成〜Talkhouseまで
2012年以前の彼らは混迷の中にあった。それはバンドの名前の変遷からも読み取れる。詳細は定かではないのだが時系列順にすると以下のようになる。
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2002年、バンド結成
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Me and You Versus Them(時期不明)
Forever Drawing Six(同)
Talkhouse(同)
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Drive Like I Do
Bigsleep
the Slowdown
↓
2012年、the 1975として初の音源『Facedown』EPをリリース
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まず、最初期の足跡を辿る。00年代の彼らはウィルムスロー高校でパンクバンドを組んでいた。(ウィルムスローとは、マンチェスター市街地まで電車で1時間、車で40分といった辺りにある)
バンド結成〜Forever Drawing Sixまでの音源はアーカイブに存在しないが、Talkhouse期の音源はいくつか公開されているので、以下に貼っておく。
いわゆるレイブ・ミュージックを基に作られた音楽たちであり、underworldやprodigyなどを下敷きに、ハードコア・ドラムンベース的な要素、いうなればsquare pusherやAphex twinなどコーンウォール(ブリテン島の南西端)派の影響もあるだろう。
彼らはそれらを模倣した。
(以下は、4枚目のアルバム『A Brief Inquiry into Online Relationships』の直前のインタビューであり、マティーは4枚目までの期間を、Music for cars期として定義していた。)
ぼくが思うに、ここでの彼らはまだ生まれていない。ルーツとなる音楽を自分自身の手によって再現すること、言葉そのままの営みが行われているからである。
それはその後のdrive like i do→Bigsleep期へと続いていく。
・Drive like i do〜The 1975まで
この時期は、明らかにエモ・ミュージックの要素が強くなっている。
mattyが影響を公言しているところで言えば、dashboard confessional、Pinegrove、Mineral、Last days of aprilなど。加えて、インディー・ポップ最初期の、The cabsやanimal collectiveなんかも聞いていたはずである。
この頃のエモ・ミュージックはポップカルチャーとしての役目を終えて、インディーロックの系譜へと受け継がれていく最中であった。The 1975はその流れを順調に辿っている。そしてそれはシーンに対して優等生的である、ということでもあり、音楽としてつまらない、ということでもある
一方で、彼らは物理的なシーンの外、しけた郊外のしけたライブハウスで、活動していたわけであり、シーンの中に丸め込まれずに、時代性のようなものを掴む他なかったのではないか、と予想する。彼らはそのような意味においてはアウトローであり、インディーポップから外れたところに物理的に故郷を持っていた。(betcover!!と構造はよく似ている、かもしれない)
また、音楽的な故郷を持たないことは彼らにコミットした。
当時のマンチェスターでイケてるバンドと言えば、ダークなインディー・ガレージであり、マンチェスター郊外の街で青春の大部分をすごしていた彼らは影響を受けていないはずがない。彼らは何を思って過ごしていたのだろうか?
The 1975前夜の音楽たちは馴染めなさ、という印象をぼくに与える。
それが彼らの特異性の土壌であると、ぼくは思う。
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