マガジンのカバー画像

読書

8
読んだ本の紹介や、読んで考えたこと。
運営しているクリエイター

#読書

感性の旅のために-茨木のり子『詩のこころを読む』

感性の旅のために-茨木のり子『詩のこころを読む』

 『詩のこころを読む』という本は、詩人の茨木のり子が、日本の現代詩を若い人たちに向けて紹介したものです。茨木のり子は、1926年に生まれ、太平洋戦争の最中で青春を過ごしました。有名な『感受性くらい』という詩に象徴されているように、己を厳しく見つめながら読み手をも励ますような詩を、世に多く発表してきました。

 そんな茨木のり子は、この本の中で、多くの魅力的な詩を紹介しています。ただ他人の詩を並べ、

もっとみる
誰を想って生きようか?-『ペーパータウン』

誰を想って生きようか?-『ペーパータウン』

 もう2020年度の高校生活も終わりに近づいている。自分にとってどんな一年だったか、ふと考えがちだ。卒業を目の前にして、残る時間を楽しみきれるのだろうかなんて考えたりする。振り返る中で、世の中や身の回りに溢れる無数の“青春”を意識してしまい、嫌になることもしばしば。そんな中でよく思い出すのは、ある小説だ。
 というわけで、今回は『ペーパータウン』(ジョン・グリーン 作 金原瑞人 訳/岩波書店)を紹

もっとみる
本当のことを言おうか!-『万延元年のフットボール』

本当のことを言おうか!-『万延元年のフットボール』

 お正月というのは、やること為すこと全てが、その年の方向を決めてしまうようだ。元旦から今までの数日間にあった印象的なことといえば、朝起きる心地よさ、ダラダラした読書、思いがけない年賀状、あまり会ったことのない親戚との会食、夜の立川、鬼ごっこ、これからの漠とした不安に駆られること、そして目先の睡眠の中に潜りこむこと。これらがこの1年間の自分を方向づけるとしたら、だいぶ自堕落を極めそうだ。
 そして僕

もっとみる
本の効用

本の効用

 最近、だいぶ前に読んだ本や小説が思い出されて、心に滲みてくる。

 そういった後々滲みてくる文章というのは、大抵、読後にあやふやな体感を抱きやすいように思う。活きの良い“はず”の文章が、「こんなものか」という具合に、僕の頭上を通り過ぎていく。水族館のトンネル状の水槽を通った時のように、その文章の群と確実に出会ったはずが、僕は気の抜けた実感しか掴めないのだ。

 読書中も懲りずに、快感を追い求めて

もっとみる