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【弁当の日】01.なぜ自分で弁当を作ると子どもは成長するのか?

この記事は、小学生が親の手伝いなしで弁当を作る「弁当の日」の素晴らしさを伝える記事です。
 

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 男子児童の2人、自分たちで弁当を作りました。
 すばらしいドヤ顔
です。

出典:『100年未来の家族へ ぼくらがつくる”弁当の日”5.7.5』p65


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出典:『100年未来の家族へ ぼくらがつくる”弁当の日”5.7.5』p50

 両手に弁当を持つ男の子。
 堂々とした表情を見てください。


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 輝く笑顔の女子児童たち。
 お弁当もおいしそうです。

出典:『100年未来の家族へ ぼくらがつくる”弁当の日”5.7.5』p91

  なぜ、こんなにも自信に満ちあふれた表情をしているのでしょうか?

 それは、「弁当を自分で作ったから」です。
 「弁当の日」という取り組みの成果です。

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私は教師として「弁当の日」を体験しました。

 弁当の日」を経験することで、子どもは単なる調理技術の向上だけではなく、自信・食べ物への感謝・家族の絆など様々な面で成長していきます。

以下は、ある男の子の感想です。

最初話を聞いたときは、少しめんどうくさいなあと思いましたが、メニューを考えていると、全部自分で作りたくなりました。

前の日の夜から準備を始めました。大根とにんじんのなますもお母さんに手伝ってもらわずに、一人でがんばりました。

出典:『もっと弁当力!!作って伸びる子どもたち』 p86-p87

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   次は、彼の母親の話です。

「待ってろ、兄ちゃんが最高の弁当を作ってやるから!」とエプロン姿も凛々(りり)しく叫んでいました。

野菜嫌いの弟はメニューを聞いて青くなっていましたが、ちょっぴりうれしそうでした。

妹は「兄ちゃんがお料理お料理、かっこいい!』と歌って踊っていました。
料理しながらとてもうれしそうでした。

「とうちゃん早く帰ってこないかな。僕のかっこいいとこ見せたいのに」とつぶやきつつ「かあちゃんいつも大変だったんだあ」とつぶやいたときは、心の中でちょっとガッツポーズしてしまいました。

出典:『もっと弁当力!!作って伸びる子どもたち』 p87


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出典:『ひよっこ料理人』8巻 p24-25



私が今回、この記事を書く目的はつぎのとおりです。

―――――――――――――――
◆教室では学べないことを学べる「弁当の日」の素晴らしさを知ってもらう
―――――――――――――――

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この記事を書くにあたり、そろえた参考文献です。

1.「弁当の日」とは?

 
 「弁当の日」とは、

子どもが”自分で弁当を作って”学校に持ってくる

という取り組みです。

発案者は、香川県にある滝宮小学校の校長(2001年当時)の竹下和男先生です。
すでに退職されていますが、敬意を込めて竹下先生と記します。

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自分で作った弁当を手に持つ竹下先生


 弁当の日には、『親は決して手伝わないで』という決まりがあります。

◆何を作るかを決めることも、
◆買い出しも、
◆調理も、
◆弁当箱に詰めるのも、
◆片付けも、

すべて子どもがするのです。

親や先生は、その出来具合を批評も評価もしません。

 弁当の日」の主眼は調理技術の向上ではありません。
弁当を作った子どもの感想を紹介しましょう。

五年生の時、初めて「弁当の日」の事を知りました。その時は、「あ~めんどくさい」と思っていました。
しかし、お弁当の具を考えていると、楽しくなってきて、絶対に一人で作るぞと張り切っていました。

弁当を作っていて、私は、料理が大変好きになりました。朝ご飯の味噌汁を作るようになりました。
先生から、「朝はご飯と味噌汁がいい」ということを聞いたからです。

はじめは、インスタントのだしを使っていました。でも、何回も使っていくことによって、こんぶと鰹節でだしをとり、具だくさんの味噌汁になりました。

私が作った味噌汁を家族は残さず食べてくれる。このことがすごくうれしくて、何回も作りました。
味贈汁をいっぱい作って、家族は毎回残さず食べてくれる。

そのときに、私は人が作ってくれたものは残さず食べなきゃ作ってくれた人に「失礼」と言うことを実感しました。

出典:『もっと弁当力‼』 p104~p105

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今も「弁当の日」が続く滝宮小学校は、給食の残食が極めて少ないです。
 (350人分の給食のうち、残食はこれだけ)

写真の出典:『100年未来の家族へ ぼくらがつくる”弁当の日”5.7.5』p131

 
 次は、ある男子児童の保護者の感想を紹介しましょう。

「先生、うちの子がみごとに成長しました。(中略)」
 
お母さんによると、以前のその子は親といっしょに買い物に行っても、スーパーに着くなり、お菓子売り場に直行。
 
自分の好きなお菓子をかかえて戻ってくると、お母さんの買い物かごにほうり込んで、あとはマンガの立ち読みをするばかりだったそうです。

ところが自分で弁当をつくるようになって、すっかり変わったというのです。

「買い物に行くと、野菜、果物、肉、魚など、どこの売り場にもくっついて歩き、その間、ずっと質問攻めなんです。
 
しかも、一度聞いたことは二度質問しないことに驚きました。私の話したことを必死になって覚えようとしているんです。
 
こんなことは、それまで一度もありませんでした


このお母さんは、新鮮な肉や魚、野菜の選び方だけでなく、製造年月日や賞味期限、さらには添加物や原産地のチェックの仕方も教えました。


そうしたところ、この男の子はあるとき母親をびっくりさせることをいったそうです。
 
お母さんがいつものように「買い物に行くよ」と声をかけると、男の子は時計を指さして、

「まだちょっと早い。あと三十分したら、割引シールを貼るおばさんの仕事が終わるし、安売りのタイムサービスが始まるやん。今晩のおかずの材料の買い物行くなら、それから行かんと損や」

以前なら考えられなかった息子の言葉に、お母さんは目を丸くし、感激して私にこういいました。

「先生、驚きました。うちの子、賢いです」

出典:『弁当づくりで身につく力』p73~p74

弁当作りを通じて『家族の絆』を深め、『生きる力』を伸ばしているのです。(他にも、成長の様子はたくさんあります。別の機会に必ず紹介します) 


2001年から香川県の公立小学校で始まった「弁当の日」の取り組みは、全国で1916校に広がりました。(2020年2月13日現在。こちらのサイトより

無題

自分が作った弁当に名前をつける楽しみもあります。
実に子どもらしいネーミング。わたし、大好きです)

出典:『100年未来の家族へ  ぼくらがつくる”弁当の日”5.7.5』p72

2.「弁当の日」の実施に至るまで

しかし、実際に取り組みが始まる前は反対の声と困難な壁がありました。

【教師の反応】
◆こんなよけいな取り組みを始めるほど、教師はヒマじゃありません

◆弁当の中身を比べあって、不公平感が生まれるんじゃないですか?

◆どうして給食があるのに弁当が必要なんですか。給食をわざわざ停止させる意味がわからない。

【子どもの反応】
◆そんなの、無理やー。

◆早起き、めっちゃ苦手。

弁当作れば、高校受かるんか!(中学生の反応)

【親の反応】
◆普段から包丁を持たせないようにしているので、無理。

◆忙しい朝に台所を占領されると困る

どうせ親が作ることになる。迷惑だ。

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出典:『ひよっこ料理人』2巻 p180-181

「子ども」と「保護者」の板挟みである教員が、
「学校」という安全を確保されるべき立場で、
「弁当作り」という本来やらなくても済むこと


 を実施するのは、本当に難しいことなのです。
 私も教員なので、よく理解できます。
 実に実によく理解できます。


 また、竹下先生自身も「弁当の日」のリスクについて語っています。

「弁当の日」で、もっとも心配したリスクは、けがと火災でした。弁当を作るのに包丁を使わないことは考えられません。(中略)

子どもたちの包丁の使い方は、危なっかしいことこのうえないのです。
 
少しの切り傷なら、いずれもとに回復しますが、指の切断となると子どもの一生にかかわる大きな障害になります。

ガスの点火や消火も、不用意にすると爆発することがあります。てんぷらやいため物で炎があがる心配もあります。
 
弁当を作るのは学校の調理室ではなくて、それぞれの子どもたちの家庭です。燃えるのは学校ではなく、その子の家です。

出典:『”弁当の日”がやってきた[新装改訂版]』 p126-127

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出典:『100年未来の家族へ ぼくらがつくる”弁当の日”5.7.5』p9 

   さらに、竹下先生は、不安を語っています。

「弁当の日」なんて実施しないほうが気分はずっと楽です。そうすれば事故の心配はまったくいらないのです。

「弁当の日」にいくら価値があっても、たったひとつの大きな悲しい事故が起きれば、「無理な実践」と言われることでしょう。

文部科学省の学習指導要領(※筆者注)には、「弁当の日」を実施するようには書いていません。
弁当を作らなくてもいいように、日本国中に学校給食が整備されているのです。

つまり私は余計なことをさせていることになります。

出典:『”弁当の日”がやってきた』p126-p127



※学習指導要領
文部科学省が定める、大まかな教育内容の基準。
非常に簡潔にいうと、「小学校〇年生には、△△ということを学校で学ばせなさいよ」といったことが書いてある。

■教師、子ども、保護者からの否定的な声。
■校長としてのリスク。

二つの大きな壁が立ちはだかります。

しかし、竹下先生は、ある信念にもとづき覚悟を決めました。

ここまで考えると、私自身が、いつも心の中で反発を始めるのです。

(そうやって、子どもを守ってやろうとするたびに、結局は子どもが育つ大切な機会を奪っていることになるんだ。

お前が守ろうとしているのは子どもの安全ではなくて、お前自身の校長という地位だ。

お前が本当に「弁当の日」の有効性を信じているなら、その地位をかけて実践してもいいだろう)

出典:『”弁当の日”がやってきた』p126-p127

 自身の地位より子どもたちの成長を優先する姿は、教員の鏡です。

 残る課題は【教師、子ども、保護者】からの否定の声。
 これは、ある戦略で乗り越えます。

 はたして、その戦略とは??


 どうしても文が長くなってしまうので、「つづく」という形にします。

この記事のタイトルの「なぜ弁当を自分で作ると子どもは成長するのか? 」の回答は、記事の連載中に明らかになります。
 

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引用した部分は、note上で読みやすくなるよう改行などを加えました。
また、太字にしたのも私です。

参考文献一覧は、こちらです(外部サイトにまとめてあります)



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