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【#74】店名に『デブ』って、どうなんですかねぇ

平成。

それは「ポケットビスケッツ」がミリオンを達成するような時代。
この小説は、当時の事件・流行・ゲームを振り返りながら進む。

主人公・半蔵はんぞうは、7人の女性との出会いを通して成長する。
中学生になった半蔵が大地讃頌を歌うとき、何かが起こる!?

この記事は、連載小説『1986年生まれの僕が大地讃頌を歌うとき』の一編です。

←前の話  第1話  目次


1998年(平成10年)11月1日【日】
 半蔵はんぞう 小学校6年生 12歳

 

桃の天然水、飲むぅ?


 

【※】
 1996年に発売された清涼飲料水。

 1998年に、華原朋美(当時若者から絶大な支持を得ていた)がCMに出演したことで爆発的にヒット。
 CM中で華原が連呼する「ヒューヒュー」が当時流行語となった。

 

「いや、いらないよ・・・・・・」

 

花蓮と会うのは6年ぶりだというのに、久しぶりという感じがしなかった。

 

まぁ、手紙のやりとりはしていたし、プリクラや写真で顔を見ていたから、案外そういうものなのかもしれない。

 

 

「映画は12時半からだよね。先にご飯食べよっか。何がいい?」

 

僕らは、岐阜市の商店街、柳瀬やながせに来ていた。



ここは映画館もゲーセンもある、素晴らしいところだ。

 

「平日じゃないから、ハンバーガーは半額じゃないしなぁ・・・・・・。花蓮は、何がいい?」

 

【※】
 1998年の初夏、静岡から始まったマクドナルドのキャンペーン。
 当時130円だったハンバーガーが、平日限定に65円に値下げされた。効果は絶大で、ピーク時の売上は49.7%も増加した。

 私も、この時期にハンバーガーを母に買ってきてもらった記憶がある。
 ハンバーガー単体ではちょっと物足りないので、レタス、ケチャップを追加してもらい、モリモリと食べた。

 

「アタシ、行きたいとこあるの。ついてきて!!」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

『中華そば 丸デブ総本店

 

暖簾のれんには、本当にそう書いてある。


 

「変わった名前だな・・・・・・」

「安くておいしいらしいわ。さぁ、並ぶわよ!」

  

【※】
『中華そば 丸デブ総本店』
岐阜県岐阜市に実在するラーメン店。創業は大正6年。
どんぶりからあふれんばかりの麺とスープのインパクトは、特大である。

 

注文し、5分ほどすると中華そばが届いた。

 

「これは・・・・・・!」

「おいしいわね」

 

醤油味で、あっさりしたおいしさである。

 

「そにしても昨日はびっくりしたぞ」

「うん、驚かせようと思って。用事が早く済んだから、小学校に行っちゃったわ。でも、おかげで勝てたでしょ?」

 

運動会のリレーを思い出す。

第3コーナーに差し掛かるところで、花蓮の「コーナーの先を見ろ!」という声援が聞こえた。



「花蓮の言うとおり、コーナーの先を見たらなんか走りやすかったぞ」

「姿勢が良くなるんだってさ。感謝しなさいよ」


花蓮のおかげでコーナーで天光寺を抜くことができた。


「おぉ、感謝してる。まさか運動会を見に来るなんてな」

「用事が早く終わったから、驚かせようと思ってね」



結果、白組は逆転。
優勝したのだ。




「いい時間になってきたし、映画館に向かうわよ!」

 

  

花蓮は、変わっていない。

強引で、自分のペースで先に進める。

 

だが、不快なんてことはなく、むしろ一緒にいて心地よかった。

 

ただ、通行人が、花蓮の方をチラチラ見ているのが気になる――。

 

 

「ついたわね」



岐阜市の映画館に着くと、お目当ての映画のポスターが飾ってあった。

 


 

「これって、ドラマ版見ていないと楽しめないんじゃないか?」

「大丈夫よ、始まる前にアタシが解説してあげるから」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ!」

「かっこよかったね、青島刑事」

 

 

「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ!」

「はいはい、わかったわよ・・・・・・。ハンゾウの方がハマってるじゃない」

 

僕は青島刑事のセリフが気に入って、何度も繰り返してしまう。

 

 

「このあと、どうする?」

「買い物していこう。適当に、お店をのぞこうよ」

 

 


 

「へぇ、岐阜にもダイソーがあるのね」

「おい花蓮、岐阜をバカにしてるだろ?」

『キーワードで見る!平成カルチャー30年史』p44
2019年4月14日/三栄書房

 

【※】
 デフレの波に乗り、100円ショップが急成長した。
 食品から日用品まで、あらゆるジャンルの物が100円で買えるという、前代未聞のコンセプトである。
 それが主婦の心をつかみ、一気に注目された。


 

「もう4時かぁ。そろそろ帰らないと」

「東京は、遠いからな・・・・・・」

 


今夜の遅い時間の新幹線で、東京に帰るらしい。

 

「あのさ」

「うん?」

 

ズバズバとものをいう花蓮にしては、口ごもっている。

 


「最後にプリクラ撮ろうよ」


 

 

いつもの強引さはない、普通の誘い方だった。

断る理由はないので、近くのゲーセンに足を運ぶ。

 

「おぉ!!SNKが作ったプリクラがある!」

「じゃ、これで撮ろっか」


 【※】
 格ゲーで有名だったSNKが作ったプリクラの機体。
 岐阜県養老郡ようろうぐんにある、養老ランドのゲームコーナーで現役バリバリ稼働中である。


「はい、半分こ」

「お、おう」

 

ゲーセンから岐阜駅まで歩いて向かう。

次に会えるのは、いつになるかわからない。

 

「そういえば、こっちに帰ってきた用事って、何やったんだ?」

「うーん、聞いててあまり楽しい話じゃないよ。聞く?」

 「花蓮が話したくなければ、いいよ」

「いや、半蔵には聞いてほしいかな。歩きながらでいいから」

 


聞いてわかった。

たしかに、楽しい話ではなかった。

 

話しながら涙を浮かべる花蓮に、何をしてあげたらいいかわからくて、僕は初めて――

 

初めて女の子を抱きしめた。


(つづく)

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