【#01】1986年生まれの僕が大地讃頌を歌うとき
1989年(平成元年)9月4日【月】
半蔵 3歳 保育園(未満児)
「ゲームボーイって、落としても壊れないらしいぞ」
「エッ!やってみよ」
僕は持っていたゲームボーイを床に落とす。
ガチャっ!
嫌な音が教室に響いた。
「おぃぃ!!!!12,500円もしたんだぞ!」
ゲームボーイの持ち主、飯田健介が絶叫する。
「そんなに高いの!?ごめん!!」
僕はゲームボーイを拾い上げ、電源スイッチを入れた。
「動いてくれよ!!」
「たのむ!たのむ!!」
二人で、祈りながら画面を見つめる。
“Nintendo”の文字が浮かび上がろうとする、そのとき・・・・・・
「何を騒いでいるのですか?」
まずいっ。さくら先生だ。
僕はとっさにゲームボーイを背中に隠す。が、先生は無言で僕の腕を掴んだ。
ゲームボーイは、あっさりと取り上げられてしまう。
「これは、ゲームですね?」
「ダメだと思います・・・・・・」
下を向いたまま答える。先生は、小さくタメ息をついた。
「これは先生が預かっておきます」
「エっ!」
くそう。
落ちたゲームボーイが壊れていないか確認したかったのに。
「ごめん・・・・・・」
半べそになっているイイケンに向かって、頭を下げた。
「・・・・・・いいよ。そもそも、オレが持ってきたのがダメだったんだ」
イイケンは、保育園で初めてできた友達である。僕は何度も謝った。
「もう気にするな。それより、半蔵に見せたいものがある」
「おおッ」
イイケンが取り出しのは、1枚の紙だった。ゲームの雑誌をコピーしたものらしい。
「これ、マリオ!?めっちゃきれいじゃん!」
「そうだろ!?」
ゲーム画面らしき画像は、一つしかない。だが、鮮やかな色彩にたちまち心を奪われる。
「スーパーファミコンっていうらしい。ファミコンよりすげぇってことだな」
「この紙、どこでもらったの?!」
「お父さんが買ってきてくれた本をコピーしたんだ」
息を荒くしながら、記事を見る。
書いてある言葉は難しくてよくわからない。
だが、“とんでもないやつがあらわれる”ということを本能で感じた。
「何見てるの?」
「!」「!」
振り返ると、女子がいた。僕と同じひよこ組の子だ。
名前は、たしか、水島花蓮さん。
長くて真っすぐな黒髪に、赤いリボンをつけている。
「それって、ゲームの紙?持ってきちゃダメでしょ。先生に言うわよ」
「花蓮、ちょっと静かにしてくれ」
イイケンは、水島さんのことを下の名前で呼んだ。
「この子と仲がいいのか?」
「花蓮とは家が近所なんだ」
どおりで親しいわけだ。
「イイケンは本当にゲームが好きよね。半蔵もゲームが好きなの?」
「いきなり呼び捨てかっ。まぁいい、頼むから静かにしてくれ」
また先生に見つかったら面倒なのだ・・・・・・。
「いいわよ、静かにする。先生にも言わない。そのかわり・・・・・・」
花蓮は、僕にそっと近づく。
猫のように大きい瞳が、そこにあった。
「明日、うちに遊びに来てね」
エっ!?
女子の考えることは、サッパリわからん・・・・・・。
「あのな、半蔵。花蓮の家に行くとビックリするぞ」
「行ったことあるのか?」
イイケンは、にやりと笑いながらうなずく。
「花蓮の家、実はな・・・・・・」
(つづく)
出版を目指しています! 夢の実現のために、いただいたお金は、良記事を書くための書籍の購入に充てます😆😆