スパイ小説として楽しむ『ユニクロ潜入一年』
『こち亀』の両さんが「挑発されて本気になる話」が好きです。
108巻9話「百人一首名人 両津!の巻」では、百人一首の遊び方を知らなかった両さんがバカにされます。
しかし全国大会のチャンピオンと特訓して、両さんは圧倒的にやり返します。
読んでいて爽快!
ただ、両さんほどの行動力を持つ人って、現実にはいません。
と思っていたら、いました。
ジャーナリストの横田増生さんです。
(↓右側の人物が横田さん)
横田さんは、フリーのジャーナリスト。
2011年に『ユニクロ帝国の光と影』(『ユニクロ潜入一年』の前著)を出版し、ユニクロの過酷な労働環境をあぶり出しました。
あるとき、横田さんは、ユニクロのトップである柳井正氏のインタビュー記事を見つけます。
そこには、柳井社長の発言として、
と書いてあったのです。
ユニクロに取材拒否をされた横田さんは、この発言を思い出し、本当にユニクロでアルバイトを始めます。
50代なのに。
50代の男性が、ユニクロに潜入してアルバイトをするなんて、たいへん勇気ある行動だと思います。(イメージですが、ユニクロの店員は10代~30代の学生や女性が多い)
しかも、横田さんは『ユニクロ帝国の光と影』を書いたことで、ユニクロから名誉毀損で訴えられています。
そのため、「横田増生」の名前で潜入することは難しい。
したがって、
合法的に名前を変えます。
奥様と一度離婚したあと、再婚。婿養子に入ることで、奥様の姓となりました。
「もし、自分の名前(苗字)が変わったら」と考えてみてください。
役所への届け。銀行口座の名義変更。クレジットカードの名義変更など・・・・・・。
わぁ、面倒くさいことがいっぱい。
そんなことまでしてユニクロの潜入する横田さんの行動力は、まさにリアル両津勘吉です。
こんな行動力がある人の書いた本、オモシロイに決まっています。
この記事では『ユニクロ潜入一年』と著者・横田さんの魅力を紹介します。
❶敵だらけ!?横田さんの危機
面接を通過した横田さんは、アルバイトとしてユニクロで働きます。
潜入者にとって恐ろしいのは、正体がばれること。
周りは敵(ユニクロ社員)だらけですからね。
横田さんも、
と自覚しており、手に汗握ります。
前述のとおり、横田さんは約2億の損害賠償を求められました。
と、先を読むのが怖くなってくるのですよ。
しかし、展開が気になってページをめくる手は止まりません。
私が心配しているのに横田さんは致命的なミスを犯してしまいます。
せっかく改名したのに、
本名を使ってしまうんですよ。
注文票の担当者欄にサインするとき、
のです。
そのうえ、隣にはユニクロの社員が・・・・・・!
虚構ではなくノンフィクション(ルポルタージュ)という現実なので、小説以上にハラハラ・ドキドキしてしまうんです。
このあと、横田さんがどうなってしまったのかは、ご自身の目でお確かめください。
❷横田さん、過酷な労働環境を体験!
潜入目的の一つはユニクロでの仕事を自分自身で体験することです。
正体を隠しながら働く。
精神的ストレスがかかるそんな状況に追い打ちをかけるのが、ユニクロでの過酷な労働です。
特に苛烈なのが、ユニクロ感謝祭(人気商品が割引になるセール)のとき。
レジ業務は「正確さ」と「速さ」が重要でしょう。
「コミュニケーション(笑顔など)」も必須です。
私なんて1時間も立たずに音をあげてしまいそうですよ・・・・・・。
しかし、横田さんは、
との考え。
という五重苦に負けず、アルバイトの仕事もジャーナリストの仕事も手を抜かずキッチリこなす横田さんの姿勢は、実に美しいです。
同僚に、
と喜ばれるほどですから、かなり丁寧な仕事をされていたのではないでしょうか。
❸横田さん、柳井社長からお菓子をもらう!
ユニクロ感謝祭の日、休憩室に煎餅やミカンが置いてありました。
横田増生さんが周りに尋ねると、
とのこと。
多くの人の反応は、
のどちらかではないでしょうか。
ところが横田さんは、
と計算するのです。
ユニクロの社長である柳井氏といえば、2016年当時の日本長者番付で首位になった人物。(2022年も首位)
そんな資産家の差し入れの実態まで暴き、読者に提供してくれる横田さんが私は大好きです。
❹思わずもれる本音!?
ジャーナリストである横田さんの文体は硬派です。
一貫して「だ・である調」で書かれているのですが、ごくまれに、本音が出ます。
以下は、レジの研修での威圧的な社員とのやりとり。
なぜか関西弁(横田さんは福岡県生まれ)になって本音が出ています。
他にも、ユニクロに対して、「思わず本音でツッコム」ところが何か所かあるので何度も笑ってしまいました。
なぜこんなにも面白いのか?
それは、横田さんが”物語”を意識しているからだと思います。
広告・マスコミ・IT業界の就活応援サイト「マスナビ」主催のイベントで、横田さんは次のように語っています。
❺あなたに会いたい。その想いが高まって・・・・・・!
横田さんは柳井氏に何度も取材を申し込みますが、拒否され続けます。
『ユニクロ潜入一年』執筆後の横田さんは、
というお気持ち。
そこで、ユニクロの株を買って株主総会に参加します。
買った株の総額は、
約350万円。
いかがですか、この行動力。
私が冒頭で述べた「横田さんは現実版・両津勘吉」説が強化されました。
文庫版『ユニクロ潜入一年』では、横田さんがユニクロの本部ファーストリテイリングの株主総会に参加する様子が追記されています。
冷たい対応をされ、
と憤慨しながら、柳井社長と”直接対決”する様子は、横田さんファン(ここまで読んだあなたは、横田さんに興味を持っていますね?)必見でしょう。
横田さん、潜入はもうこりごり??
1年2ヶ月の潜入調査を終えた横田さん。
ウェブサイトのインタビューでは、潜入取材についての今後の思いを語っています。
わかります。
それに、『ユニクロ潜入一年』が話題になったことで顔も名前も大手企業には知られてしまいました。
もう横田さんが潜入取材をすることはないでしょう。
と思っていたら、また潜入していました。
横田さん、大好きです。
❻最後に。『ユニクロ潜入一年』の本質
私はユニクロが好きで、年に3~4回ほど買い物します。
下の写真は、購入したユニクロの長袖Tシャツ。
「中国製」と書いてありますね。
次に、同じ商品を約1年後に買ったものです。
「ベトナム製」とあります。
中国製からベトナム製に変わりました。
ユニクロに何があったのか?
その驚くべき理由は『ユニクロ潜入一年』を読めばわかります。
『ユニクロ潜入一年』の魅力を書きましたが、真の魅力はその報道内容です。
【補足】
剔抉(てっけつ)・・・悪事などを暴き出すこと。
続編、『ユニクロ潜入一年』の真の魅力に迫る、
もぜひご覧ください。
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