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ユニクロの裏側にある”犠牲”を知る勇気はありますか?

30代になり、ファッション迷子になりました。

【※】ファッション迷子

”若く見られたい”が、”年相応の服も着たい”という葛藤ゆえ『何を着たらいいかわからくなってしまった』人

そんなときにあらわれた救世主が、漫画『服を着るならこんなふうに』です。


オシャレの理論を教えてくれるので重宝するんですよ。

そこでは、ユニクロが絶賛されています。

気が付けば、所有する私服の3割ほどがユニクロ製品になっていました。


愛用のパジャマ
『ウルトラストレッチ スムース』

合うサイズはピンクしか残っていなかった・・・・・・
(レディースですが、着心地がいいので購入)


私以外にもユニクロが好きな人は、大勢いるでしょう。


ユニクロの社長柳井正やないただし氏は、日本で最も資産を持っています。

【※】

正確には、ユニクロを中心とした企業グループ持株会社であるファーストリテイリングの代表取締役会長兼社長。

私は、


と思っていた私。

そんな私の考えをぶっ壊した・・・・・のが、横田増生さんの『ユニクロ潜入一年』です。

横田増生
『ユニクロ潜入一年』(単行本)
文藝春秋
2017年


こちらの本が書かれた経緯を簡単にまとめると、次のような具合です。

著者「ユニクロってブラック企業じゃん」

柳井氏「(ブラック企業だと批判する人は)ユニクロで働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたい」

著者「なら働いたるわ」


(詳しくは、下の記事で!!)


私はこちらの本を読み、

「自分が『ウルトラライトダウンあったけぇ』と喜んでいる裏側には、様々な”犠牲”があったのか・・・・・・」

と複雑な気持ちになりました



あなたは、ユニクロの裏側にある”犠牲”を知る勇気はありますか?

あるなら、読み進めてください。


❶ 柳井氏のムチャクチャな要求


前述したとおり、柳井氏は日本で最大の資産家。
「相当、頭がキレる人だろう」と思うのですが、この本に出てくる言動に限っては疑問符・・・がつきました。


ユニクロにアルバイトとして潜入した横田さんは、柳井氏のメッセージから始まる『部長会議ニュース』を読みます。


そこでは、ユニクロ最大の売上チャンスである感謝祭に向けた人手確保に関する驚きの記述・・・・・があったのです。

お客様の中で販売員になってもらえそうな人を、即勧誘して頂きたい。

『ユニクロ潜入一年』p58


想像してみてください。
客としてユニクロに行った際、


と声をかけられたら、驚きませんかね・・・・・・?


しかし、柳井社長はこの「スカウト作戦」がお気に入りのご様子。

私が先週入店した店舗の店長は、スタッフが不足しており非常に疲弊していた。(中略)
外国人学校やシルバーセンターに行って、求人募集をするだけでは不十分である。例えば、買い物をされたお客様に、声をかけ、何時間でも良いので仕事をしていただける人を採用することが一番いい方法である。

『ユニクロ潜入一年』p282

読んだ瞬間「そんなワケねーだろ」と思いましたね。


この「スカウト作戦」に対し、横田さんは本書p282の10行目(文庫版ではp320の9行目)で鋭い改善案・・・・・をしています。

「あ~・・・・・・それなら働いてみようかな」

と思える内容なので、ぜひ読んでいただきたいです。


また、『ユニクロ潜入一年』のp128-129には、『日経新聞』(2016年5月29日号)に掲載された柳井氏のインタビューも引用されています。

仕事をしているフリ、 商品整理をしているフリ、接客しているフリをする従業員がいる。自分が何のために売り場にいるのか、必要な仕事は何かをわかっていないとそうなる。

『日経新聞』(2016年5月29日号)


とあるユニクロ


そしてこの実態を著者の横田さんは明らかにします。

ユニクロで働いている間は、ほとんど気が抜けない。店頭で活気出しや商品整理をしているときなら、「常に何か作業をしているように」と指示を受ける。レジを打つようになると、レジ列が一瞬でも切れたら、レジ回りの整理整頓、 レジ後ろにあるハンガー箱の片づけ、それでも時間が余れば、レジ前の商品整理をするように、と繰り返し言われる。

『ユニクロ潜入一年』p130


私は大学生のときに、飲食店の厨房でアルバイトをしていました。
ランチタイムは修羅場のようで、途切れることなく続く注文票に2時間追われることもありました。

ただ、ピークが過ぎれば社員の方と談笑する時間もあったのですが・・・・・・。

ほかの仕事のアルバイトならある、まったりとした時間や、何もしない空白の時間がユニクロの場合、存在しない。

『ユニクロ潜入一年』p130

ユニクロではそうもいかないようです。




❷ 現場で”使われる”人たち
「本部vs店長vs従業員」三つ巴の戦い



①安いぞ!割りに合わない時給


ユニクロの時給を知ったときの率直な感想は、

でした。

横田さんが3店舗めに”潜入”した新宿のユニクロの時給は、いくらだと思いますか?(2016年10月当時)

下記サイトによれば、2015年1月〜2016年1月の新宿区のアルバイトの平均時給額は、1122円です。


繁華街の規模は東京最大級を誇る、あの新宿ですからね?

2016年の時点でもユニクロ社長の柳井氏は日本の長者番付首位、ということも踏まえて考えてください。


そんなユニクロのアルバイトの時給は・・・・・・ッ!!






1000円。


新宿区の平均額よりも低い・・・・・・・・・・・・のです。

この時給に対し、とある中国人は、

「時給が安くてダメね!」

『ユニクロ潜入一年』p252

と憤慨しています。
(交通費の支給もなし)

こちらのユニクロと同じビルにある『ビックカメラ』の時給は、1100円で交通費支給あり。

また、横田さんによると、

働く側としては、平日に働くのと比べると、週末に働くのは、二倍近い負荷がかかる。

『ユニクロ潜入一年』p127

そうです。

しかし、ユニクロでは週末も平日も時給は同じ。

(ビックカメラの場合、土日+200円、17時以降+100円、)


わずかな差と思うかもしれません。
が、数時間✕数日✕数か月と積み重なると・・・・・・


これでは、士気があがらないのも無理はありません。



②助けて!人が足らない職場



『ユニクロ潜入一年』には、ユニクロで長期アルバイトをする中野さん(仮名)の話が出てきます。

横田さんが、文藝春秋経由で中野さんからメールをもらい、インタビューをします。


中野さんが見せた「グループLINE」の店長からのメッセージには驚きました。


『ユニクロ潜入一年』p119


30分でも1時間でも構いません

というところが特に恐ろしいです。
そんなに人手不足なのですね・・・・・・。

とある中国人は、

「ユニクロは忙しくてダメね!」

『ユニクロ潜入一年』p252

と憤慨しています。

ある女子大学生は、バイトを辞めたいことを伝えると、店長に、

あなたがバイトを辞めるのは認められない。大学生はいったんユニクロに入ったら、卒業するまで働くことになっている。

『ユニクロ潜入一年』p271

と言われたのこと。
「本当に大人の発言なのか?」と疑いました。


ただ・・・・・・、




実は店長も困っています。


人集めのてっとり早い方法は「時給を上げる」ことでしょう。
しかし、時給の決定権は”本部”にあって、店長にはありません。


店長として、

と思っても、上げることができないんですよね。



横田さんは、ユニクロが上海にオープンするときのテレビ番組を見た時のことを書いています。

そこではスーパースター店長(2016年当時、日本に10人程度存在)が社長に給料アップをお願いしていました。

上海にやってきた柳井社長に、「(開店前日には)二十四時間働いている (中国人)従業員の給与を上げてください」と直訴する場面がある。

『ユニクロ潜入一年』p131


それに対する柳井社長の返事は、

「自分で儲けて給与を上げないとダメ。利益を出さないと給与は上がらない。それが商売人だ」

『ユニクロ潜入一年』p131

と、ピシャリ。

店長は店長で、安い人件費で人を集めなければならないため苦労しているのです。
それが、慢性的な人手不足につながります。



❸ 超過酷。原産国の工場


下の写真は、購入したユニクロの長袖Tシャツ。

「中国製」と書いてありますね。

2021年11月に購入したもの
(右上のデータはユニクロ公式アプリより)


次に、同じ商品・・・・を約1年後に買ったものです。

2023年2月に購入したもの
(右上のデータはユニクロ公式アプリより)

「ベトナム製」とあります。


中国製からベトナム製に変わりました・・・・・・・・・・・・・・・・・


(ユニクロ製品をお持ちの方は、タグで生産国を確かめてみてください)

なぜ変わったのでしょうか?




中国の人件費・・・が上がっているからです。

日本の労働者の給与を百として比べると、中国は五十となるのに対して、カンボジアやバングラデシュの賃金は十以下という数字に収まる。

『ユニクロ潜入一年』p215


製造原価の大半を占めるのが人件費なのだから、人件費が安いところで作れば、利幅が大きくなる。これが、ユニクロをはじめとする多くの国際アパレル企業が生産拠点を、中国から人件費のより低廉な東南アジアの国々にシフトしようとしている理由である。

『ユニクロ潜入一年』p216


そしてその工場の労働環境は・・・・・・


厳しい。


私の同僚にとっては、はじめての縫製工場の仕事ということもあり、週七日休みなしに十時間働いてもノルマをこなせなかったんです。彼は作業中に気を失うまで頑張ったのですが、とうとう病院に担ぎ込まれました。工場は彼に一日だけ休みを与え、すぐに職場に戻ってくるように命令しました。

『ユニクロ潜入一年』p221


また、ユニクロの製品を生産している工場では、

『ユニクロ潜入一年』p203


ストライキが起きました。


工場立ち退きの際、

◆未払いの残業代
◆年金の掛け金
◆立ち退きの補償金

といった合法的な要求が通らなかったためです。
妊娠中にストに参加し、流産した女性もいるとのこと。

隣の国でこんな悲しいことが起きていたなんて目を疑いました。



また、工場労働者たちの暮らしも書かれています。

カンボジアの労働者の部分を引用しましょう。

家というより、掘立小屋という方が近い。屋根はあるが、壁はなく、四畳半ほどのスペースをビニールで囲ってある。このスペースで夫婦と、幼い娘二人が眠る。ここで四人が眠れば、寝返りもうてない。

『ユニクロ潜入一年』p225


『ユニクロ潜入一年』p227


偶然見つけたのですが、私の子どものズボン(ユニクロ)はカンボジア製でした。

「子どもが気に入っているこのズボンは、カンボジアの貧しい暮らしをしている人たちが低賃金で作っている」


そう知ってからは、胸が痛くて仕方ありません。




❹ 変化するユニクロ


著者がユニクロに潜入した期間は2015年~2016年のことです。
当時から変わったことは当然あります。


たとえば、”セルフレジ”の導入。

セルフレジが導入されたため、レジ業務が大幅に軽減されたのではないでしょうか。


このセルフレジ、初めて使ったときはビビりました。
「バーコードをピッ」とやらなくていいんです。


上の写真のように、くぼみに商品を置いたら0.1秒くらいで計算してくれます。
会計が一瞬で終わるので、非常に楽でした。


これで従業員のみなさんの負担が減っているとしたら、嬉しいですね。


❺ 読後の感想


①ユニクロが値上げをしても買う


『ユニクロ潜入一年』を読んでも、ユニクロの製品が嫌いになることはありませんでした。
ユニクロの服は、本当にコスパがいいのだと思います。


消費者としては、安いのこしたことはありません。
が、少々値上がっても買い続けます。


それによって、海外の方や店員さんが報われるのならば納得です。
今までのコスパが高すぎたのでしょう。


②『ユニクロ潜入一年』がすべてではない


『ユニクロ潜入一年』によってユニクロの実態を知りました。
が、これを盲信することは危険です。

『ユニクロ潜入一年』に限らず、メディアとは編集・加工・文脈づけされたものであって真実そのものではない・・・・・・・・・・からです。

(横田さんが書いたことを疑ったり否定したりするわけではありません)


従業員の中には、好きで働いている人もいらっしゃるでしょう。
また、ユニクロが多くの人に「雇用」の機会を与えていることも事実です。



『ユニクロ潜入一年』を読んだユニクロ社員や柳井社長の感想も知りたい、と強く思いました。




【書誌情報】(単行本)

書名:ユニクロ潜入一年
著者:横田増生よこたますお(※ペンネームです)
出版社:文藝春秋
ページ数:309ページ
出版年月日:2017年10月25日
ISBN-10 ‏ : ‎ 4163907246
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4163907246

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