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「わからないこと」を恐れない力ー「ネガティブ・ケイパビリティ」とは何か

皆さんは対処できない状況に直面したとき、どうしますか?

優秀なビジネスパーソンであれば「解決策を見つけるまで考え抜く」「一旦、答えを出してみる」など、問題解決に向けて粘り強く取り組むことが多いでしょう。

しかし、情報が溢れる現代社会、安易に答えを出してしまうと、結果的に深刻な事態を生む可能性があるかもしれません。そのとき必要となる能力が「ネガティブ・ケイパビリティ」です。




対処できない状況に耐えるチカラ:ネガティブ・ケイパビリティ


ネガティブ・ケイパビリティとは、19世紀のイギリスの詩人ジョン・キーツが弟宛ての手紙の中で初めて用いた言葉で、「事実や理由をせっかちに求めず、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいられる能力」を意味します*1 *2。

例えば、新規事業を立ち上げるときのことを考えてみましょう。

誰もが未踏の領域である新規事業を立ち上げるとき、全ての情報が揃っているわけではありません。その市場の動向はもちろん、競合他社がどのように動くのかも完全には把握するのは難しいものです。

さて、こうした状況で求められるのは、不確実性を受け入れ、耐えながらも努力を積み重ねていくことではないでしょうか。まさに、ネガティブ・ケイパビリティを発揮することが重要だと言えそうです。

ネガティブ・ケイパビリティを備えることができれば、不確実な状況の中でも柔軟に対応でき、さまざまな可能性を考えられるでしょう。結果、状況を突破するための新たなアイディアを生み出すことができるかもしれません。


育成を担うビジネスパーソンこそ、ネガティブ・ケイパビリティを養おう!


こうしたネガティブ・ケイパビリティは、育成を担うビジネスパーソンにとって特に必要な能力と考えられます。たとえば、部下を持つマネジャーはもちろん、研修担当の人事パーソン、後輩指導を任されたビジネスパーソンなどです。

人材育成は、すぐには結果が出ない取り組みです。研修プログラムや1on1制度などを導入しても、すぐに人が育つわけではありません。また、人が成長する点でも、実際、その成長は個々で全く異なります。こうした中で、育成を担うビジネスパーソンは、個々の潜在能力や可能性を引き出すために、"待つ"ことを恐れずに、とにかく向き合い続けなければなりません。これはまさに、ネガティブ・ケイパビリティそのものだと考えられます。

では、ネガティブ・ケイパビリティはどう身に付ければ良いのでしょうか?

ネガティブ・ケイパビリティを獲得する確実な方法は、現段階で提示されているわけではありません。自己理解を深めたり、自身の感情を受け入れたり、瞑想や芸術鑑賞などが有効ではないかとも言われますが、その効果を実証する研究は十分とは言えません。

ただ、積極的に不確実な状況に身を置くことは、ネガティブ・ケイパビリティの獲得に有効に働くのではないかと考えられます。というのも、あくまで個人的な感覚に基づく分析ですが、ネガティブ・ケイパビリティを有する人ほど、過去において慣れない環境や未知な領域に飛び込み、不確実な状況に身を置いている経験が深い傾向が見られるからです。こうした経験の積み重ねが、何が起こっても耐えられる胆力や、答えを急がずに状況を受け入れる柔軟性を培うことに繋がるのではないかと推測されます。

変化の激しいVUCA時代において、不確実な状況に適応し、新たな価値を生み出すためには、ネガティブ・ケイパビリティはますます重要性を増していくでしょう。

(参考文献)
*1 佐藤 光(2022)「鶴見俊輔の「ネガティブ・ケイパビリティ」――ジョン・デューイ『経験としての芸術』の影響の可能性」超域文化科学紀要 (27) 103-125
*2 帚木 蓬生 (2017)「ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力」朝日新聞出版.

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