市川電蔵

酒が好き。活字が好き。加熱したレバーが食えない。かぼちゃはあまり食わない。喫煙者で、そ…

市川電蔵

酒が好き。活字が好き。加熱したレバーが食えない。かぼちゃはあまり食わない。喫煙者で、それも火を点けて煙を吸い込むヤツ、そのうえ輸入物を好むという。

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  • 市川電蔵日記

    愚にもつかないメモ書き。

  • ストレート・フラッシュ

    ロックバンドを脱退して、東北の田舎町にお婿さんとしてやってきた俺。

最近の記事

仕事してない

4年くらい、会社で重要な仕事をしていない。 誰でもできる、ルーチンな事務仕事を淡々とこなしている。 昇進停止とバーターで希望の転置転勤を通してもらったのだが、これが功を奏したようだ。 もしかしたらやんわり退職勧告されてるのかもしれないが、露骨に嫌がらせされても多分気が付かないだろうってくらいマイペースなのだ。 一時期、新規事業スタッフとして労基法無視レベルでめちゃくちゃ働いたことがあり、その分で行ってこいなのだろうと思っている。 このままステルス状態でフェイドアウト退職して

    • 二〇一六年八月 弐

      scene 1308月も半ばに差し掛かり、寒河江中央学院高校は教職員も夏季休業に入る。今年からできた「山の日」という祝日から一週間だ。 俺の実家には仏壇がなかったので、「お盆」という風習をよく知らなかった。ざっくり、八月の中頃に会社員も夏休みくらいに思っていた。 石川家に婿入りした昨年、お盆という風習には意味や手順があると知り、感心した。火を焚いたり墓参りしたり客が来たりお坊さんが来たりと結構賑やかだが、それにはすべて意味があったのだ。小川あたりならとうとうと説明できるだろう

      • ライナーノーツ 壱

        「ストレート・フラッシュ」と名付けたこのおハナシの元を思いついたのは、もう三〇年以上前のことだ。 当時私は大学三年生で、世の中はバブル景気に湧いていた。そして私は、当時はロックとファッション情報誌だった「宝島」という雑誌が全力でプッシュしていた「インディーズバンドブーム」にハマり、日本のパンクバンドを聴き漁ってた。 好きだったバンドの一つが、The Willard。映画「地獄の黙示録」の主人公、ウィラード大尉に由来するバンド名。宝島がイチ推ししたバンドで、誌面は彼らの記事と写

        • 二〇一六年八月 壱

          scene 128八月に入って最初の週末に、ケイトとナルヨシは川崎市の自宅へ帰省する。一週間ほど自宅で過ごした後、三浦家全員で寒河江を訪れる予定だ。本来なら寒河江駅できっぷを買って左沢線で山形駅へ行くところだが、両親が持たせた山形みやげの詰まった紙袋が三つもあり、大荷物になったので車で山形駅へ送っていくことになった。 石川宗家には選挙活動に使っているミニバンがあるので、これに両親と俺達、ケイトとナルヨシの六人が乗る準備をしている。いつの間に連絡したものやら、孫兵衛さんが現れて

        仕事してない

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        • 市川電蔵日記
          3本
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          45本

        記事

          二〇一六年七月

          scene 126一学期の期末テストも終わり、山形の夏が始まる。思えば、去年の今頃西川の就職面接が決まったのだなどと思い出す。あっという間の一年だったが、今年はそれより加速度がついている感じだ。 放課後の俺の行動パターンは、まず軽音部の部室へ飛び込んでギターを弾き、部員が大体顔を出したあたりで教員室へ引き上げ、退校時間少し前に部室にまた顔を出す、というものだ。会議や勉強会があってもほとんど皆勤賞で部室には顔を出す。ギターが弾きたいだけなのだが。 「あんたたちは夏休みには実家に

          二〇一六年七月

          二〇一六年六月

          scene 124中間考査も終わり、街を初夏の陽気が包む。この季節は、山形名産のさくらんぼの収穫時期で観光客も増える。山形は秋が短く感じるので、初夏が一番過ごしやすい。 軽音楽部は陵山祭に向けて練習を積んでいる。バンドとして練習できる程度に上達してきた二年生のユニットには、ミュージック総和でインストラクターをしながら作った曲を与えた。ナルヨシがDTMでイメージを聴かせる。日塔はメロディラインを追ってノートになにか書き付けている。歌詞を書くと立候補していたのでそれだろう。ヴォー

          二〇一六年六月

          タバコを喫う人間です

          私は喫煙者である。自慢じゃないが、喫いはじめてもうすぐ40年になるだろう。実年齢と法律が少し合致しないかもしれないが、気が付かないことにしておく。 学生時代はともかく、喫煙者には風当たりの強いギョーカイに身を置いている。ときおり、自己の存在を否定されるレベルで反喫煙な業界。まぁわからんでもないけど。 私の好むタバコは、インドネシアのガラムというやつ。まぁ、紙巻きフィルタータバコでは世界で一位と言われるニコチンタール含有量なのだが、このタバコの薫りがいいのだ。あまりに薫りが

          タバコを喫う人間です

          二〇一六年五月 肆

          scene 121ナルヨシの友人とキョースケセンパイご夫婦がやってくる日だ。昨日は一家総出でのうえ孫兵衛さんも応援に駆けつけ、敷地内の畑に野菜の苗を植えた。おかげで身体の節々が痛い。ケイトとナルヨシは、小学生の時の農業体験以来だとはしゃいでいたが、自宅敷地内とはいえかなり広大な畑は、体験どころではなくずっと大変だとぐったりしていた。 「昨日植えたお野菜はいつ食べられるの?」 朝食を終え、ご飯茶碗に注がれたお茶を吹いてさましながら、ケイトが祖母に尋ねる。 「早くて七月だべなぁ」

          二〇一六年五月 肆

          二〇一六年五月 参

          scene 118やはり帰りは夕方になった。居間では雪江とケイトがテレビを観ている。ケイトの友達はもう帰ったようだ。 「やっぱりあすこに行くと、長いわね」 雪江が俺とナルヨシを見て笑う。 「でもすげえ面白かったよアネキ」 ナルヨシは今まで、照れて雪江のことをお姉ちゃんと呼ばなかったが、今日初めてアネキと呼んだ。男がお姉ちゃんとか姉さん、は恥ずかしいのだろう。雪江が少し驚いた顔をしてナルヨシを見る。 「やーん、アネキなんて呼ばれたー。うれしーかわいー」 雪江がナルヨシに抱きつい

          二〇一六年五月 参

          二〇一六年五月 弐

          scene 115次の日、両親は朝食のあと会合へ出かけていった。ナルヨシから早く行きたいオーラが出ていたが、ミュージック総和は昼の一一時開店なのだから仕方ない。いつもの休日のように、広すぎる庭を散歩する。ナルヨシがついてきた。 庭といっても、かなりの部分は自家消費用野菜の畑が占めている。この連休に様々な野菜の苗を植える予定なので、孫兵衛さんが畑に耕運機をかけて準備してくれている。 「なに植えるの」 「ナスとキュウリと枝豆とトマト、あといろいろ」 「とうもろこしがいいな」 「去

          二〇一六年五月 弐

          二〇一六年五月 壱

          scene 113ケイトとナルヨシを学院に迎えたが、拍子抜けするくらい何事もなく四月は過ぎていき、ゴールデンウィークに突入する。ケイトとナルヨシは連休に実家には帰らないと言う。小川によれば、それぞれ友人ができているようで、連休中に一緒に遊ぶ計画を立てているそうだ。 連休初日、昼過ぎから小川が家に来ている。小川は月に一度は休日に石川家を訪れ、建物や敷地内を調査している。そして夕方には両親を交えて酒宴となる。小川は今や石川家の親戚待遇といえた。 しかし今日はいつもの調査ではなく、

          二〇一六年五月 壱

          二〇一六年四月 漆

          scene 111そんなふうにわいわいやっているところへ、木村が部室へ入ってきた。 「失礼しまーす」 練習生として入部した木村は、三ヶ月ほど経ってだいぶ学院の軽音楽部に慣れてきた。ギターの腕も確実に上達している。 「タクミー、新入部員だよう」 菖蒲がニコニコして木村に伝える。 「三浦ナルヨシです、よろしくおねがいします」 「三浦ケイトです、はじめましてよろしく」 「あ、れ、練習生の木村拓海です」 「練習生なんてつけなくていいって、タクミはれっきとした部員だから」 菖蒲は唯一の

          二〇一六年四月 漆

          二〇一六年四月 陸

          scene 108翌日、放課後を待ちかねたかのように教員室で小川が話しかけてくる。 「石川さん、さあいこうか軽音楽部へ」 「いや小川さん落ち着いて、まだみんな集まってないから」 「そうか、ではもう少し待つとしよう」 「あぁそうだ、ウチのクラスの丹野をアニメ同好会に誘ってくださいよ」 「おおその仕事もあったな、丹野はもう帰ったか」 「いや、丹野は左沢線通学だから、時間まで教室で本を読んでるんだ」 左沢線は、学院の終業時刻の後の発車まで一時間弱待ちがある。 「ほう、どんなジャンル

          二〇一六年四月 陸

          二〇一六年四月 伍

          scene 105担任するクラスは一年一組から二年一組に変わっているが、学院は三年間クラス替えを行わないので、生徒の面々は変わらない。彼らも去年の今頃は中学生とさほど変わらない雰囲気だったが、一年経つとだいぶ大人びてきている。終業のホームルームでは、事務連絡などをしたあとに、雑談とさほど変わらないフリーディスカッションをしている。 「先生、一年のあの双子は、いったい何やっす」 学級委員の松田が、クラスを代表する形で口火を切った。入学式が終わって三日だが、ケイトとナルヨシのこと

          二〇一六年四月 伍

          二〇一六年四月 肆

          scene 103その日、帰宅すると雪江と祖母が夕飯の支度をしていて、ケイトとナルヨシも手伝いをしている。父は居間でテレビを眺めていた。俺も手早く着替えて居間で父とテレビを眺めた。 「はいおまたせ、ご飯にしよ」 雪江が野菜炒めの大皿を抱えて居間へやってくる。ケイトとナルヨシは食器や副菜を持って続く。母がまだ帰宅していないが、石川家の普段の夕食は、雪江と祖母が作った夕食を家にいる者が摂る。父は出張や会食がない限りほぼ決まった時間に夕飯を摂り、用があればその後出かけていく。俺もよ

          二〇一六年四月 肆

          二〇一六年四月 参

          scene 101それから一週間後、入学式の前日、再び三浦家が石川宗家の門をくぐった。市役所で転入届を出してきたと言う。ケイトとナルヨシの着替えや身の回り品などは宅急便で届いている。二人は到着して挨拶もそこそこに荷物を自室へと片付ける。片付け終わり、再び居間へ戻ってきた。 三浦家一同は、真剣な表情で頭を下げる。 「これから三年間、どうかよろしくお願いいたします」 三浦父は重々しく口上を述べ、もう一度深々と礼をする。 「三浦さん、あどわがったがら、子供だのごどはおらえさまがせど

          二〇一六年四月 参