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あの頃、ペニー・レインで。

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たべものエッセイ
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クラムチャラウダー

秋が深まってきた。

こんな季節は、コンビニなどでクラムチャウダーの文字を見かけることが多くなる。貝が入ったシチューみたいなやつだ。

僕は基本的に魚介類があまり好きではないので、シチューだと思って食べたら貝の味がしてショックを受けた禍々しい記憶がある。

ところで僕には「クラムチャウダー」が「クラムチャラウダー」に見えるのだ。(違いは間に一つ「ラ」が入っていること。)

それは何故かと言えば、特

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レモン水

レモン水

大学の卒業式が終わってしばらく後。友達に連れられて小さなイタリアンのお店に行った。大学生としての最後のランチだった。

僕らは窓際のテーブル席に座った。

差し出されたお冷やに口を付けると、レモンの味がした。

それ以降、僕はその日そのお店で何を話したかを、一切憶えていない。

そのレモン水のことしか憶えていない。

僕の好みから考えれば、カルボナーラを頼んだと思う。カフェオレを飲んだと思う。煙草

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モスバーガー

モスバーガー

小学生の頃。新聞の折り込みチラシを見ていた祖父が「これはうまそうやな」と言った。

それは「モスライスバーガー」と書かれた、パンの代わりにご飯で何かを挟んだハンバーガーだった。

モスバーガー公式サイト『ライスバーガー誕生物語』(https://www.mos.jp/omoi/15/)より

ライスバーガーは今でも定番メニューとして地味に生き残っているが、そのデビューはとても華々しいものだった。

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この国に坂内がある限り

この国に坂内がある限り

「石川県でおいしいラーメン屋ってどこ?」

この地に生まれ、純粋培養で大学生にまで育っていた僕は、しかしこの県外出身の同級生の質問に思考停止した。

ラーメン…?

おいしい…?

ラーメン屋とは…?

「ごめん、わかんないわ」

さっきまで調子よく加賀百万石を統べていた傾奇者も形無しだ。

石川はどちらかと言えば関西うどん文化圏。実際、インターネットで10分ほど調べてみると、47都道府県のうち、

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鍋

ぽくぽくぽくと白菜が煮えている。

なぜ、この人は僕の言いたいことがこんなにわかるのだろう。

豚肉、真面目、えのき、軽口。

どうして、僕の暴投をこんなに難なく拾えるのだろう。

ほぐれる豆腐、笑い声。

湯気が巡って、あったかくて、戸惑う。

ひとり雪道を歩いて帰った。こんなこと、信じられないと。

信じればよかったかなあ。

エリンギ

僕はキノコが好きで、もちろん松茸は好きだし、みんなが嫌いな椎茸のことも好きだ。

でも、特別好きなのはエリンギである。

安くて、おいしい。

それは大学生の頃、寒い雪の日のことだ。

友人たちと「鍋やろうや」ということになった。男女混合である。

冴えない青春が通常運転の僕にとって、男女混合の鍋パーティーなどサッカーUEFAチャンピオンズリーグの決勝だ。

わざとらしい表現ですまない。まあそれは

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CAFE イタリアン・トマト

CAFE イタリアン・トマト

今はなき福井の名店。チェーン店っぽい名前ですが、スタンドアロンな昭和風食堂です。

ここは私がファッション・ビクティムだった大学時代に足繁く通っていたセレクトショップの店長さんの御実家でした。

2012年頃、福井出張のついでに訪問し、定番の看板に苦笑しつつ店内に入ると、元店長さんもいらっしゃいました。

実に10年ぶりくらいでしたので、「あ、あのう是永です」と名乗りました。

「憶えてるよ〜、是

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無限定のスイカ

無限定のスイカ

暑い季節になるといつも、果物をがっつり食べられるお店はないかな、と思う。

フルーツパーラーとかお洒落なパフェとか、ましてやホテルのフルーツビュッフェとか、そういうところではない。

居酒屋でもいいんだけどな。こう、食後におまけでドサッと来るような。

じゃあスーパーで買えばいい、大人だから大量に、というわけでもない。

独身の頃、耐え切れずにスイカを半玉買って台所で黙々と食べたことがあるが、サイ

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自衛隊の蕎麦

蕎麦が好きだ。

もちろん有名店の蕎麦も好きだし、適当なジャズが流れるチェーンのお店も好きだし、学食とか社食で出るようなつなぎ何割かわからない適当なのも好きだし、得体の知れない立ち食い蕎麦の戦士の休息感も好きだし、町内会の屋台で出るふにゃふにゃしたのも好きだ。

Oh, I love soba, any kind of soba.

ジョーイ・ネグロのリミックスがまたいい。

それはそれとして。

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ゴーゴーカレー

それは東京での14年目の春を迎えた2017年4月のこと。

石川で過ごした24年を超える日も、いつかはやってくるのだろう。

私はそんなことをセンチメンタルに考えていた。

その年、部下に金沢市からの研修生を迎えることになっていた。

前任者である奈良市からの研修生と引き継ぎを行うために来た時は、仕事ができそうな爽やかな青年と見受けた。

この東京砂漠において、同じ出身県の同僚である。私も楽しみに

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モーニング

「名古屋って言ったらモーニングだよね。モーニング食べに行こう」

課長から鶴の一声が出た。

昔々のある日のこと。

我々は所掌事務に関する講習会のため、名古屋に来ていた。私を含む係長級の講師3名プラス主催者挨拶を行うだけの課長、総勢4名の大デレゲーションだ。

果たして課長はメンバーとして必要だったのか。

それは最高裁の司法判断を待たなければ、この国では明らかにならない。

講習会は10時から

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牛乳

あなたは牛乳はお好きだろうか。

苦手か。

そういう方は分解酵素が足りないだけであるから、仕方ない。

牛乳に含まれる乳糖を消化する乳糖分解酵素ラクターゼが少ないのである。

私がアルデヒド脱水素酵素をあまり持っていないから、酒に弱いのと同じことだ。

私は酒が飲めない人生を悔やんでいない。

何故なら、酒が飲める人生は、どう足掻いても来ないからだ。

諦めて、来世にかけよう。畜生道で逢いましょ

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ヤクルト

子供ってよくヤクルト飲みますよね。

僕はジョッキで飲んでました。

一気に三本くらい空けるんです。気分いいですよ。

たぶん、同じようなことを考えた子供がビックルやらピルクルやらを開発したんだと思います。

ヤクルト、少ねえな、と。

さて、そんなヤクルトを飲む時、僕はいつも罪の意識に苛まれます。

僕の通っていた保育園は、年長になると徒歩登園でした。

幼児を一人で歩いて行かせるというのは、ま

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メロン

僕が好きな果物ランキングの2位はメロンだ。

1位は桃である。圧倒的だ。

なぜ2位の話をするのかと言われれば、メロンを見ると必ず父を思い出す、曰く付きの果物だからだ。

父は典型的な昭和高度経済成長日本の申し子、企業戦士だった。

ほぼ家にいない。

仕事、仕事、接待、仕事、接待。で疲れ果て、休日は釣りかパチンコで独りになる。

金はほとんど家に入れなかった。

そんな父はたまに取引先から高価な

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