行きたいけれど行けない場所。
ドイツを囲む国は9つある。
デンマーク、オランダ、 ベルギー、ルクセンブルク、フランス、スイス、オーストリア、チェコ、ポーランド。
我が家はドイツの東側にあるので、一番近い隣国はチェコ。
そのほか、ポーランドとオーストリアにも近い。ドイツの西側の都市よりも近いので、週末になると高速バスでプラハやウィーンに行く人も多く、語学学校で同じクラスだった人たちが、出掛けて撮った写真をインスタで共有してくれている。
特にオーストリアはドイツ語が通じるので、ドイツ語圏や勉強中の人たちには行き来しやすい場所でもある。
こうやってふらっと外国へ行くのも、EU圏ならではの週末の過ごし方だ。
そんななか、私は少し前から気になっている観光地がある。
それはオーストリアにある「ハルシュタット」という村だ。
この村はザルツブルクの東南にある、夫の同僚がおすすめしてくれたことがきっかけで知ったところだ。湖と山々の景色が美しい景勝地で、1997年に世界遺産にもなっている人口800人にも満たない小さな村らしい。
写真で見る限りたしかにとても美しい村で、いつか行ってみたいと思っていた。
けれど少し前に、こんなニュースを見つけた。
この村は、ディズニーアニメのモデルになったと言われていたり、人気の韓国ドラマのロケ地となったことから、2006年から観光客が増え続け、ピークには年間100万人が訪れたらしい。
その結果、住民の生活に支障をきたしてしまっているという。
道路の混雑を回避するため、自撮りなどで人が集まってしまうところに木の塀を建てたり、村の入口となるトンネルの前に住人が立ってデモをしたり。住民による生活を守るための訴えが続いているらしい。
日本でも京都などのように、オーバーツーリズムの問題を抱えている観光地があるけれど、次の文章のインパクトがすごい。
ちなみに京都市の人口は約144万人(2022年)で、年間の観光客数が約5352万人(2022年)。ざっくり計算だと、住民1人あたり観光客が約37人になる。大体ベネチアと同じくらいのようだ。
住むエリアや季節によっても差があるだろうし、今年やコロナ前であればもう少し多い時期もあるかもしれないけれど、おそらくハルシュタットの住民1人あたり1800人という数には敵わないだろう。
京都市にハルシュタットと同じ「1人あたり1800人」の観光客を来ることになったら、京都市に年間18億人くらいの観光客が来なくてはならない。
かなり雑な単純計算ではあるけれど、日本国内外の観光客を合わせても、その数が京都市に集まることはおそらくないと思う。
それだけ特殊な状況になっているのは、
ハルシュタットという村が本当に小さいということと、近隣の国と陸続きがゆえに周辺の国に住むか旅行に来さえすれば、比較的アクセスしやすいというのもあるのだろう。
このオーバーツーリズムは、ただ村が混雑するだけではない。
村の家が民泊だらけになってしまい若者が住めずに村を出てしまったり、日帰りの観光客が村でお金を使わずに帰ってしまったりと、村やそこに住む人にとってメリットがなく、観光客に生活を脅かされる状況が続いているという。
村の大きさと観光客数が明らかに合っていないため、村側が観光客の受け入れ体勢を整えれば解決するとも思えないし、記事を読む限りかなり深刻な状況だ。
観光地化して観光税をや入場料を取るという方法もあるけれど、今ある暮らしをただ守りたいという人たちもいる。そうやって守ってきたことで
できあがった景色や文化が世界遺産になったのだろうし、それを維持したいという気持ちもわかる。
富士山も最近オーバーツーリズムとして、観光客のゴミ問題や登山の危険性を理解せずに準備不足で来てしまうことが問題になっているけれど、それとも似ている気がしている。
観光地として知名度が上がると、その場所の状況や環境、ルールなどあまり理解せずに行ってしまう人が一定数出てきてしまうのだ。
富士山は富士山自体をを信仰の対象とする人たちもいて、その文化も世界遺産として登録されている。そこをゴミなどで汚すのは、ただの環境保全や自然破壊の問題だけではなくて、教会や寺社仏閣をゴミで汚すのと同じ側面もある。
そしてなにより宗教などの信仰に限らず、自分たちが大切にしてきたものやことが汚され、今までのように維持できない状態になるのはとても悲しいことだと思う。
ハルシュタットにはとても行ってみたかったけれど、そんなニュースを見てしまっては「じゃあ行こう!」とはなかなか言えない。
今のハルシュタットの現状を見ると、マナーを守るとかお金を落とす落とさないに関係なく、行くこと自体が迷惑になる可能性が高そうなところも、余計に行きにくくしている。
いくら素晴らしい景色が見たいとはいえ、そこで住む人が嫌がるようなことはしたくないのだ。
残念だけれど、当面様子見のほうが良いのだろうなと思っている。
ドイツに住んでいるうちに行けないかもしれないけれど、それもご縁として受け入れるしかないのかもしれない。
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