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世界の金融システムの現状

金融不安から金融危機に至るのか?

3月17日午後2時半時点のアップデート

 世界の金融市場の状況はかなり流動的で、常に揺れ動いているので、あくまでも現時点(2023年3月17日午後2時半前後)における状況の確認に過ぎないが、株式市場、債券市場とも、落ち着きを取り戻しているように見える。
 株価に関しては、日経平均株価が27,000円台を維持しており、変動率も低下したため、VIは20割れとなっている。とりあえずは、一時の混乱からは脱却し、平時に戻りつつあると数値的には評価される。
 一方、債券市場は、10年物国債利回りが0.3%前後で推移しており、こちらも大きな動きはない。直近の金利低下がそのまま維持されている状態である。

出所:Investing.com

 図に示す通り、日本のイールドカーブは、一年前よりは上方にあるものの、1か月前に比べると、明確に低下している。
 債券市場についても、特に混乱はなく、落ち着いている状況であると言えよう。
 為替レートについても、ドル円で見ると、一時131円台まで円高が進んでいたが、現時点では、133円台まで戻している。全般的にリスクオフが一段落した印象となっている。
 この市場の落ち着きは、昨日のヨーロッパ並びにアメリカ市場の動向を受けたものである。以下に簡単にまとめておきたい。

ヨーロッパではECBが0.5%の利上げ実施

 昨日(3/16)のヨーロッパ市場では、ECBが利上げを実行するのかどうか、実行するとしたら予告通り0.5%なのか、あるいは0.25%にとどめるのかといった感じで、思惑が入り乱れていた。
日本時間の午後10時15分にECBから0.5%の利上げが発表されると、市場はそれを織り込みに行った。当初、多少の迷いはあったようにも見えたが、基本的には、特段の波乱はなかった。結果的に、ヨーロッパの株式市場は、一部の例外を除いて、上昇して終わっている。
 ヨーロッパでは、何といってもクレディ・スイスの問題が大きいと考えられるが、スイス中央銀行が7兆円規模の流動性を提供するという支援策を打ち出したことが安心感を誘った。当面、クレディ・スイスが、経営危機に至ることはなく、このまま通常業務を継続しながら、経営の立て直し策を講じることができることが前向きに評価されたと言えよう。
 さすがにクレディ・スイスを見殺しにすることはできないだろうという見方は、元々あったが、中央銀行による具体的な支援策が提示されたことで、市場の不安心理を抑えることができたと理解される。
 ECBの0.5%利上げについては、インフレ抑制策を最優先するというメッセージが出たと同時に、ECBとしては金融システムに不安が生じさせることはないという意思表示だったとも考えられる。仮にEU域内の銀行に何等か不測の事態が生じたとしても、ECBはスイス中央銀行同様に、金融危機に至らないような施策を打つものと見られる。
 ラガルド総裁は、記者会見で、「すべての手段を使って対応する用意がある」と述べ、金融システムの安定性を保つことを強調している。この点に関しては、当たり前のことではあるが、再確認できたことで、市場の安定化につながったものと評価される。

アメリカでも不安を払拭するための施策が打たれている

 アメリカ市場では、シリコンバレーバンクとシグネチャーバンクの相次ぐ破綻によって、地方銀行などの金融機関の経営を不安視する声があり、いくつかの地方銀行の株価が急落するような事態に至っていた。
 金融当局は、破綻した2行の預金の全額保護を宣言し、預金者の動揺を鎮めようとした。さらに、経営が不安視されていたファーストリパブリックバンクに対する、具体的な支援策が発表されている。アメリカの4大銀行を含む全11行が、総額300億ドル(約4兆円)の資金を、ファーストリパブリックバンクに預金するというものである。これによって、ファーストリパブリックバンクの一般預金者の不安感を払拭し、預金流出に歯止めをかけようというものである。日本で言うところの奉加帳方式に近いものであるが、民間主導で金融システムの安定性を維持しようという試みは、非常に高く評価できるだろう。

FRBの金融政策はどうなる

 3月21日から22日にかけてFOMCが開催されるが、その結果がどうなるのかという点が、注目されている。現時点の予想としては、0.25%の利上げが有力視されているが、利上げ見送りという予想をしている市場参加者も増えている。CMEのFedWatchツールによれば、3月16日時点では、0.25%の利上げの可能性は86.4%、利上げ見送りの可能性は13.6%とされている。可能性はさほど高くないものの、利上げ見送りとなれば、これまでの急激な金融引き締め政策の大転換と受け止められるため、市場は大きく動くことになるだろう。
 また、FRBの引き締め策は、金利の引き上げだけではなく、資産規模の急激な縮小というものもあるが、足元の状況を受けて、FRBの総資産規模は、再び膨らんでいる。FRBは金融機関が資金繰りに窮することがないように、民間銀行向けに貸し出しを実施している。3月8日時点で45億ドル程度だったFRBによる民間銀行向け融資額は、15日時点では1,528億ドルに達しており、わずか1週間で33倍に急増したことになる。
 その結果、FRBによる量的引き締めは、一時的に逆方向に向かっているようにも見える。2022年6月から始まったFRBの量的引き締めは、12月末時点で3,777億ドル実施されたが、今回の民間銀行への貸し出し増は、その4割近くに相当する金額である。その分だけ、市場に資金が供給されたことにはなる。
 FRBは、おそらく0.25%の利上げを実施するであろうが、流動性の供給については、今後も柔軟に対応してくものと見られるため、大きな混乱要因とはならいと考えられる。

アメリカ経済並びに世界経済に対する影響

 むしろ気になるのは、アメリカ経済の長期的な成長率が低下するかもしれない点である。今回の金融不安騒動で、直接的には、スタートアップベンチャーへの投資にブレーキがかかる可能性が高い。もともと、金融引き締めの影響もあって、スタートアップへの投資は、減速が明らかであったが、シリコンバレーバンクの破綻を受け、一旦は、休止状態に陥っている。本格的な再開には、新たなスタートアップのエコシステムの構築が必要となろう。その再構築には、相応の時間を要するものと考えられるが、その間、スタートアップに対する新規投資が、ある程度停滞するのは、避けられないと見られる。
 スタートアップベンチャー企業は、アメリカ経済の長期的な成長ドライバーであり、資金面での制約が、成長を減速させる要因になるのではないかと懸念される。アメリカ経済のみならず、世界経済の長期成長率にも影響する可能性は否定できない。スタートアップエコシステムの早期の再構築と、長期的な成長加速を期待したいところではある。

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