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「逆噴射小説大賞2023」 ライナーノーツ 前編(青き憤怒)


⚫︎はじめに


 本稿は文章力・小説の書き方などに関するハウツーやTips、或いは作品内容の解説を主題とする記事ではなく、作品完成に至るまでの自分語りが中心となる記事です。ひとつのエッセイとしてお読み下さい。


 「逆噴射小説大賞2023」。娯楽パルプ小説の冒頭800文字を競う奇祭コンテストに、俺は以下の2作品を投稿しました。
 1作目は怪奇色のあるノワール現代劇、2作目は唐代(平安時代)のシルクロードを舞台にした冒険ファンタジー。どちらも全力投球したので、お楽しみ頂けると幸いです。そして読んで下さった皆様、本当にありがとうございました。


 ……さて、本コンテストには作品解説文ライナーノーツを書く文化が存在する。とはいえ作品解説文と言いつつも、本稿に記すのは執筆に至るまでの記録──いわば備忘録。今回の「前編」では1作目「青き憤怒 赤き慈悲」と、昨年に投稿した「DISARM」について語っていきたい。


⚫︎昨年の作品、ネタ被り発覚


 2023年7月上旬、俺は猛烈に凹んでいた。

 昨年の逆噴射小説大賞にて、俺はWEB小説デビューを果たした。普段エッセイとコンテンツ語りを行っている俺にとって、本コンテストはとても楽しく刺激的な奇祭であった。
 投稿したDISARM」「不殺生共同戦線はどちらも最終選考入りを逃したものの、共に二次選考を突破し、多くの読者の方よりお褒めの言葉を頂戴することが叶った。前者は特に反響が大きく、俺の名刺代わりになったと自負している。
 その「DISARM」について、俺は衝撃的な事実と対面することとなった。まずはこちらの800字を読んだ上で、以下に引用した漫画をお読み頂きたい。

出典:『ジュウドウズ」1巻 P.5。
『少年ジャンプ』公式サイト 試し読み範囲より引用。
著者の近藤信輔先生は現在『忍者と極道』で大活躍中。

必要いらない」というルビ演出
「人間の手では到底壊せそうにない物を圧壊させる剛腕」の強者表現

 何気なく購入した『ジュウドウズ』の1ページを読み、俺は本気で頭を抱えた。「DISARM」の独自性として自信満々に描写した場面・文脈と類似するシーンが、投稿より8年前──2014年の商業作品、しかも第1話の1・2コマ目で既に表現されていたと知ったためである。
 わずか3巻で終わっているとはいえ、掲載誌は天下の『週間少年ジャンプ』。しかも、当該作品の存在について俺は「DISARM」ライナーノーツで堂々と言及している(「被らないようにしよう」との文脈で)。たった1ページでも試し読みをしていれば、この被りは絶対に起こさなかっただろう。自らの「創作アンテナ」の感度の弱さを嘆くばかりだ。穴があったら入りたい……。恥ずかしさが俺の脳を支配した。
 ともあれ、「DISARM」は『ジュウドウズ』のパクリではないと、どうか皆様に信じていただきたい。本作はあくまでもシルヴェスター・スタローン氏が主演・脚本を務めたアームレスリング映画「オーバー・ザ・トップ」から題材のみ着想を得て、物語の意識的な引用はせずに執筆した作品である。


 「おやすみ、ナナセ」の投稿直後位からだろうか。先述の事実を知り、俺は完全なスランプ状態に陥った。どのような単語・物体を目にしても、それらに繋がる先行作品を連想してしまうようになり、挙句に俺は考えた。自分にオリジナリティのある作品が作り出せるのか?仮に「作り出せたと感じた」としても、自分が無知なだけで、先行作品が世の中に存在するのではないか?その場合、盗用と思われてしまうのではないか?と。
 だが、時間は待ってはくれない。オリジナリティがあろうとなかろうと一刻も早く執筆に取り掛かり、推敲の余裕を確保しなくては……。「ネタ被りの恐れ」からは一旦強引に目を背け、俺は新作の題材を練った。


⚫︎唐突に降ってきた「刺青」と「彫師」



 スランプ真っ只中の7月半ば。箱根へ温泉旅行に行った際、脱衣所で目撃した「刺青NG」の文言から俺は天啓を得た。刺青・彫師を題材にした物語で「逆噴射小説大賞2023」に挑もうと。
 刺青は様々な物語で登場する。例を挙げるまでもなく、娯楽作品におけるマフィア・ヤクザは大体刺青と共に描写されよう。刺青そのものを題材とした小説では、未読だが『蛇にピアス』が有名だろうか。谷崎潤一郎氏も『刺青』なる作品を遺している(こちらも未読)。また彫師に関しては、以前創作の助けとなるよう購入した『職業設定類語時点』でも紹介されていた。キャラクターの職業設定としては特段珍しくはない、と言えるかもしれない。


 日本の刺青──和彫の絵柄には神仏の作例が多くみられるが、その尊格を主題に据えた著名な先行作品は聞いたことがない。『蛇にピアス』にも『刺青』にも、あらすじを読む限りそうした要素は入っていないらしい。2003年に『週刊少年ジャンプ』で連載されていた刺青バトル漫画『TATTOO HEARTS』も、登場する図柄は一般的な花や生物・文字等に限られていたようだ。
 また、俺は仏教の尊格に関する知識は人並み以上にある……と自負している。この題材ならば手持ちの知識カードと組み合わせられる上、少なくとも「ありがちな物語」に陥らずに済みそうだ、との確信を持った。
 血眼になってweb上を探せば、類似する作品が見つかる可能性はある。だが、一度しっくりくる題材を決めてしまった以上、その可能性から目を背けるしかない。背けたかった。



 題材とほぼ同時に、物語の方向性も定まった。
 刺青(或いはその下絵)は、全て何らかの意図を込めて刻まれる・描かれるはず。善かれ悪かれ作者の想いが発現し、人心に影響を及ぼすとしたら……?そのような疑問と発想を、俺は「青色と赤色」の尊格──五大明王の内でも代表的な二尊:不動明王と愛染明王に託した。色の要素を強調した理由は、仏教に馴染みがない方でもイメージ(色彩、そして「対」となる印象)を想起しやすいと感じたためである。
 目指す先は怪奇色のあるノワール。人心を乱す絵。絵に込められる思い。彫師としての矜持と禁忌。師弟の愛憎。憤怒ふんぬの表情をたたえたままの不動と愛染。「なぜこのような状況が訪れたのか?」「今後物語はどのように転がっていくのか?」「登場人物の真意は?」と関心を抱いてもらえるような、かつ先行作品の影響を受けない作品にしようと意識しながら、俺はひたすら執筆に励んだ。

⚫︎迷走と完成




 7月末の時点で物語は完成し、表題も確定した。当初は今以上に情報量を絞っていた上に婉曲表現を多用し、読み方次第でオカルトホラー的な解釈・数通りのミスリードが可能な結末を付けていた。「信頼できない語り手」の要素も入れ込んでいた。時間的な余裕も生まれたため、こちらの短編を投稿したりもした。ネタ被りは覚悟の上だった。

akuzumeさんのお誕生日企画小説。当初はakuzumeさんと「うなりくん(成田のゆるキャラ)」が交流するほのぼのエピソードを書くつもりがグルメ物に。



 そして9月半ば頃。推敲を続けた末に完成した「自分なりの決定稿」を友人に自信満々に見せたところ、「全く内容を理解できない。どう読めばいいのかわからない。だから面白さの是非について何も言いようがない」といった旨の一言が返ってきた。昨年の作品を絶賛してくれた友人からの手厳しい返答だ。心に刺さった棘は痛かったが、正直な意見に大変感謝している。



 俺は「わからなさ・謎が、面白さと先への興味に繋がる」と考えていた。だが、第一印象で「わかり辛い」「わからない」と思われてしまえば、先を気になって貰えるはずもない。今までの凝り固まった考え方を抜本的に変える必要があった。以後は本筋と無関係の装飾文や説明に近い文章(例:不動明王の姿の説明)といった文章を削り、物語の進む方向性・以後の主人公の行動に関する「動線」的な描写を、文字数制限の許す限り加筆した。



 結果的に「青き憤怒 赤き慈悲」は、投稿開始日(10月8日)の夜に最後の推敲を終え、自分なりに納得のいく状態で投稿することができた。投稿開始(10月8日 0:00)と同時に放たれた作品群とネタ被りを起こしていなかったことに安堵したのは、ネタ被りを過剰に気にしていた証左だろう……。


⚫︎『金剛番長』の導き、そして次回作へ



 作品を投稿した直後。ある程度心と時間に余裕ができた俺は、逆噴射オフ会「東京パルプ飲み2023」で多くの皆様からお薦めされた漫画『金剛番長』を購入した。『魁!!男塾』のパロディを入れつつ現代風にアップデートした良作であったが、単行本巻末(新装版3巻 P.353)に記されていたエピソードが何よりも忘れられない。
 何と入稿予定の最新話の内容が、他誌で発表されたばかりの『浦安鉄筋家族』最新話とネタ被り(キャラクターが乗車した車の床を踏み抜く・サメが登場する)を起こしたことが判明し、トラブルを防ぐため急遽描き直した……というのである。巻末には差し替え前の該当話も載っていた。



 商業作家でも偶発的なネタ被り・シンクロニシティは起こりうる。もう気にするだけ無駄だ。気にして何も描けなくなっては意味がない。
 そのような境地に至り、今度こそ俺はネタ被りを恐れなくなった。そもそもこのコンテストは「ネタが他作品と被らないかどうか」など争点にしていない。800字の先を気になってもらう、即ち読む人に楽しんで貰う文章表現を主目的とするものであった。

「この続きを読みたいと思わせる、最もエキサイティングなパルプ小説の冒頭800文字」を表現した作品が大賞を受賞し、その応募者は大賞の栄誉とともにCORONAビールを獲得できます。

応募要項より部分的に引用。


 この期に及んで、俺は酷く思い違いをしていた。消極的な考えを抱きながら、何かに怯えながら書くのはやめよう……。そのような心持ちが、2本目「迦陵頻伽かりょうびんがの仔は西へ」の執筆に繋がっていく。


※「後編」へ続きます!


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