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モノ書きは、紙とペンさえあれば戦える─ 『シルベスター・スタローン物語』に、モノ書きの決意と勇気を学ぶ


●前書き



シルべスター※・スタローン氏(以下スタローン)。俺が最も敬愛する映画人──俳優・監督・そして脚本家。創作者としての多大なる業績と俺の偏愛ぶりに関しては、以前「備忘録」にて述べた通りである。
 本稿では、そんなスタローンの半生を描いた俺の愛読書:漫画『シルベスター・スタローン物語』について紹介し、その真の魅力である“文豪としてのスタローン”描写について特に熱く語りたい。そして日々noteを投稿されている皆様に、本書が持つ“モノ書きに対する圧倒的な熱量”を伝えることができたら幸いである。




※過去記事では基本的にスタローンの名を“シルヴェスター”と表記しているが、本稿の主題となる漫画では“シルベスター”と表記されているため、それに準ずることとする。


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●『シルベスター・スタローン物語』の概要


 本書はジェフ・ロビン著『炎の男スタローン』(1986)等のスタローン関連文献を基にし、2012年に原作:中大輔氏、作画・水木繁氏によって執筆されたスタローンの伝記的漫画作品である。いわゆる『マンガ 世界の偉人』的なテイストだ。なお、同じコンビによって『ブルース・リー物語』『ジャッキー・チェン物語』も著されている。




 本書で語られるのは、スタローンの生誕(1946)から「エクスペンダブルズ」公開(2010)に至るまでの様々なエピソードとなる。
 生誕時の医療ミスによる顔面神経麻痺。幼少時代の荒れた環境。映画・演技の魅力に取り憑かれた青年時代。極貧時代における成人向け映画への出演。努力の果てに脚本・主演を射止めた企画「ロッキー」の大成功。大人気アクションスターへの転進。作品のマンネリ化や女性関係のトラブル。老年期の活躍によるキャリア復活。
 ──山あり谷あり。そんなスタローンの激動の半生が、本書は劇画的なタッチによって描かれている。



 また、作中では「ロッキー・ザ・ファイナル」までの「ロッキー」シリーズ全六作、「ランボー」シリーズ二作についての内容がダイジェスト的に漫画化されている。あくまでも原作映画を知る人向けのかい摘んだ内容ではあるが、ストーリーの大筋を振り返るには十分だ。
 更には、巻頭にスタローン代表作の名シーン写真集、巻末にはカメオ出演・日本未公開作品も含めた作品リスト(2012年時点)が掲載されており、資料的価値も非常に高い。よって、スタローンファン・アクション映画ファンならずとも、映画ファンならば一読の価値があると言えよう。




 ──いや、映画ファンに限らない。俺は本作を“モノ書き”の必読書とさえ思っている。モノ書きにとって大切な心構えが丹念に描写されているからだ。
スタローンとモノ書きに何の関係があるの?と首をひねる方も多いだろう。その点に関する解説は、次の章にて述べさせて頂きたい。


●脚本家:シルベスター・スタローン


 スタローンはアーノルド・シュワルツェネッガー氏と並ぶ“筋肉アクション俳優”としてのイメージが強いと思われるが、一方では脚本家としての顔も持っている。アカデミー脚本賞にノミネートされた経験まである、れっきとした作家なのだ。  
 Wikipediaの情報によると、2021年10月現在、脚本家として携わった作品(共著も含む)は合計二十六本あるという。なお、役者として参加した作品(カメオ・友情出演・ノンクレジット含む)は約八十本であった。




 脚本家としての代表作は、やはり「クリード チャンプを継ぐ男」以外の「ロッキー」シリーズ七作品、そして「ランボー」シリーズ全五作品だろう。他は「コブラ」(1986)「クリフハンガー」(1993)「ドリヴン」(2001)あたりが有名か。更には自身が主演しない映画──「サタデー・ナイト・フィーバー」の続編映画「ステイン・アライブ」(1983 )、ジェイソン・ステイサム氏に出演権を譲った「バトルフロント」(2013)の脚本も手掛けてもいる。




 俺自身は部分的に脚本を監修した「ブルックリンの青春」以外の全スタローン脚本作:二十五作品を全て鑑賞済みだが、第49回アカデミー脚本賞にノミネートされた「ロッキー」(1976)以外では、「ランボー」(1982)「オーバー・ザ・トップ」(1987)「ロッキー・ザ・ファイナル」(2006)「クリード 炎の宿敵」(2018)の四作品が特に評価に値する脚本と考えている。
 とりわけ俺が素晴らしいと感じるのは「クリード 炎の宿敵」。かつて「ロッキー4  炎の友情」で描かれたロッキー・アポロ・ドラゴ 三者の因縁譚を“次世代に継承された戦い”という形で総括した大傑作だった。アカデミー脚本賞にノミネートされていないことを今でも不思議に思う。




 スタローンが執筆した作品のジャンルは、ヒューマンドラマ・社会派ドラマ・アクション・ミュージカル…と非常に多岐に渡る。しかし、その作品全てが世間的に評価されている訳ではない。アカデミー賞の前夜に発表される“最低の映画”を決めるジョーク賞:ゴールデンラズベリー賞※に幾度も選ばれてしまっている。
 正直に言うと、スタローン信者の俺でさえ全てが名作だとは思っていない。例えば「コブラ」はスタローン作品史上最高潮に盛り上がる前半に対し、中盤以降の尻すぼみ感が酷い。また、「ステイン・アライブ」は前作の陰鬱なストーリーがどこかに消え去り、主人公が軽薄で感情移入し辛いキャラクターに変わってしまっていた。
 かと言って、これらの失敗はスタローン自身の(或いはスタローンの良作群の)評価を下げるものではない。人生同様、作品も山あり谷あり。山は山として、谷は谷として割り切り、愛すれば良いだけだ。




※スタローンはゴールデンラズベリー賞の常連としても有名で、過去に何度も“最低男優賞”を受賞している。しかし2015年に「クリード チャンプを継ぐ男」で病に侵された老年のロッキーを熱演しアカデミー助演男優賞にノミネートされたことにより、栄えある“名誉挽回賞”を獲得した。是非脚本家としても名誉挽回を成し遂げてほしい。




 …さて、話題を『シルベスター・スタローン物語』に戻そう。本作はアクション俳優としてのスタローンよりも、脚本家としてのスタローンに着目した描写が多いのが特徴である。
 スタローンは仮にも一度アカデミー脚本賞の候補者になった男。となれば文豪と言っても過言ではないだろう。そんな文豪の若き時代の姿が、漫画でどのように描かれていたのか?それについては、次章にて具体的に述べたい。


●モノ書きにとって、本当に必要なものとは



 スタローンの代表的な脚本・主演作といえば「ロッキー」。スタローンが本作を執筆したきっかけは、脚本家としてのスタローンのエピソードの中で最も有名であろう。
 1975年のチャック・ウェプナー氏VSモハメド・アリ氏のボクシング試合を偶然テレビで観戦し、かませ犬扱いだった中年ボクサー:チャック氏の大健闘に触発されたスタローン。その出来事を基にして、スタローンは僅か三日で脚本の初稿を書き上げた。
 やがて完成した脚本は多くの映画会社から大絶賛され、当時の人気俳優を主演に据えた映画化が計画される。しかし無名俳優だったスタローンは自分を売り込むため“自分が主演を務めること”を条件にし、脚本の映画化にこぎ着けた。
 無名の若者達によって、低予算でアイデアを凝らしつつ作られた「ロッキー」は空前の大ヒットを記録。1976年のアカデミー作品賞と監督賞を受賞し、脚本賞ほか七部門にもノミネートされた大傑作となった。




 本書ではこの有名な逸話についても克明に描かれている(誇張表現も含まれてはいるが)。
 しかし、俺がそれ以上に胸を打たれ心を震わせられたのは、「ロッキー」で成功を収める以前のスタローンの描写だった。出来ることなら作品の該当ページを転載したいところだが、著作権に引っ掛かってしまうため、代わりにどうか俺の文章でご勘弁願いたい。



 時は1969年──。
 映画と文学をこよなく愛し、演劇と出会い演技の魅力に取り憑かれた学生時代のスタローン。彼は大学を中退し、ニューヨークでプロの役者を目指すことを決意した。占い師として活動する母は、息子をこのように占って導く。
「おまえは最初7年間は俳優として苦労するだろう。失敗も多いだろうね。
でも最後には脚本家として成功する。そう…おまえの人生は脚本によって救われるんだよ!」



「確かに俺は演じること以上に書くのが好きかもしれねぇ…」
 こうして彼は、“原稿に集中できる最高の環境”としてオンボロの安ホテルを根城に、脚本家としての修行の日々を送った。生活費を親に頼ることは一切せず、昼は日雇いの仕事に精を出す。夜はひたすら戯曲を読み、脚本を書き殴る日々を送る。しかし一年経っても脚本は評価されず、ついに財産が尽き、住処を追い出されることになった。



 僅かに残った硬貨を手に、彼は呟く。
「さて…この金で何を買おうか」
 大役のオーディションにも、脚本のコンペにも引っかからない。人生の先が見えない。そんな絶望的な状況の中、彼は自分を慰めるひと時の快楽──酒や煙草や食べ物ではなく、文房具屋に向かいノートとペンを買った。
「俺は希望を買うぜ!」
 “希望”のかけらを手にした彼は、自身に言い聞かせるように力強く宣言した。
 彼が「ロッキー」を執筆し、主演を務め、大スターの仲間入りを果たすのは、それから約五年後のこと──。



(セリフ部分は『シルベスター・スタローン物語』より引用。その他の文は漫画の描写を参考に、のざわが付け足しました。)



 本書は基本的に伝記漫画であるが、この部分は流石に誇張した創作だろう。いくら何でも芝居がかっていて格好良すぎる。
とはいえ、この描写はモノ書きをする人々の背中を押し、勇気を与えてくれるワンシーンであるとも思うのだ。(漫画内での)スタローンにとっては、良い脚本を書くことこそが希望だった。それはノートとペンによって生み出されるもの。それを“希望を買う”だなんて、何と素敵かつ的を射た表現だろうか!
 モノ書きで生計を立てている人間ではない俺が、モノ書きの在り方について語るなど失礼千万だろう。それを承知の上で、どうか語らせて欲しい。




 居心地が良い部屋も、高級机も、高級文具も必要ない。
 モノ書きは、ノートとペンさえあれば戦える。
 書いて書いてまた書いて、戦い続けるしかない。

 戦い続けた先にしか、希望は見出せないのだから。




 俺はnoteを書く時、様々な妄念に襲われて筆が進まなくなることがある。読み直すと文章の展開が面白くない。言葉が余計でとっ散らかりすぎ。もし完成しても多くの人に読んで貰えるのか、評価されるか自信が無い…。
 そんな時、俺はこのシーンを読んで勇気を貰い、自分を奮い立たせる。悩んでも何も解決しない。道具は揃っている。あとは気持ち次第。漫画に描かれた若き日のスタローンのように、一心に机に向かい、ただひたすら書くしかないのだ。



●再販への希望──後書きにかえて



 そんな素晴らしい本書は2012年以降再販されたという情報が無く、残念ながら現在では古本でしか手に入らない。俺自身も、Amazonで古本を手に入れたクチだ。
 本書はいわゆる“コンビニ書籍”なので、紙質が悪く保存性に乏しいのが大きな難点。将来を考えると、保存に適した紙質にして単行本化してほしいものだ。
 また、本書の刊行後、スタローンは「ロッキー」シリーズの第七作目「クリード チャンプを継ぐ男」(2015)にてゴールデングローブ助演男優賞を受賞・アカデミー助演男優賞にノミネートされ、世界的に認められる名優へと返り咲いた。この歴史的な出来事が掲載されていないのは、発刊時期的に仕方が無いとはいえ非常に勿体無い。




 ──といった理由で、俺は大幅加筆した新装版『シルベスター・スタローン物語』の発売を強く希望している。布教したくなるほど素晴らしい内容の漫画であっても、書店に置いておらず手軽に購入できければ、布教の意味がないのだから。
 よって竹書房様!是非とも本書が日の目を浴びるよう、新装版(或いは再販)の刊行をお願い致します!


書誌情報
『シルベスター・スタローン物語』
著者    水木繁/中大輔
発行所 (株)竹書房
2012年12月24日 初版発行

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