橘 竜の介
自作の小説をまとめております。
あらすじ 山崎晶は、小学生の時の交通事故の後遺症で、人の頭の上にロウソクが見えるようになった。 頭の上のロウソクを観察していくうちに、ロウソクの大きさが寿命と関係していることや、ロウソクの色がその人の性格を表していたり、炎の色がその時の感情を示していることに気づく。だが、自分の頭の上のロウソクだけは見ることができなかった。 人の頭の上のロウソクを見て、寿命や性格判断、恋愛問題や重症な病気を予測したりできるようになった。 高校生になると、事故の時の病院で同室であったゆ
エピローグ 今日も晶君は、お見舞いに来てくれた。 「はい、これ」 カバンから用紙の束を取り出し、私に手渡す。 私が授業に遅れないように、ノートをコピーして持ってくるのが日課になっていた。 彼は、はにかみながら、いつも優しく私のことを見守ってくれている。 小学生の時、医療ミスがあって死にかけたときも私を助けてくれた。 今回も彼に助けられた。 私が医師から死亡宣告された時、『まだ死んでいない!』と最後まで諦めなかったのは、身内ではなく彼だった。
第五十五話 奇跡 3 僕が意識を取り戻したのは、その日のお昼過ぎだった。 倒れたのが夜中の0時半だったので、半日も意識がなかったようだ。 倒れた僕を診断した医者は、『極度のストレスによる失神』と診断したようだけど、本当の原因は僕にしかわからないだろう。 僕の失神でその場にいた人たちを驚かせたみたいだけど、もっと驚かせたのは、ゆかりちゃんが息を吹き返したことだった。 死亡宣言を行った医者も慌てたようで、朝までゆかりちゃんに付きっ切りで看護していたそうだ。
第五十四話 奇跡 2 (どうしたらいいんだよ……どうしたらいいんだよ! 死んでいくことがわかっても、助けられないんじゃこんな力、意味ないだろ!) どのくらいフロアにあるソファでぼーっとしていたのだろうか……。いつの間にか、隣にいた母さんはいなくなっていた。 (こんなことしてる場合じゃないんだ……せめて、ゆかりちゃんのそばにいないと……) 僕は、泣き腫らした顔を洗うために、トイレの洗面所に行った。 洗面台の鏡には、赤い目をした情けない顔の僕が映っている。 水
第五十三話 奇跡 もう深夜0時を過ぎようとしていた。 ゆかりちゃんが、事故に合って病院に担ぎ込まれたのが4時を回ったところだったので、すでに8時間が経とうとしていた。手術開始からだと7時間半も経過している。大手術だった。 途中、心配になった僕の両親が駆けつけた。 お母さんは、傷心するゆかりちゃんのお母さんを無言で抱きしめた。おばさんは涙をポロポロと流す。お母さんは、おばさんの手を握ったまま、隣のソファに座った。 お父さんは、ゆかりちゃんの家族に挨拶をすると
第五十二話 緊急手術 2 しばらくして、仕事中だったゆかりちゃんのお母さんが駆けつけてきた。 「お父さん! お母さん! 晶君! 何があったの!?」 学校で起きたことを僕が説明して、ゆかりちゃんの現在の状態をおじいさんが説明した。 ゆかりちゃんの状態は、最悪だった。左前頭骨の骨折、右肋骨多発骨折、肝臓破裂、脾臓破裂、出血性ショックで重体だという。 「覚悟しておいたほうがいい……」 おじいさんの言葉を聞いて、ゆかりちゃんのお母さんは、両手で顔を覆って泣き崩れた
第五十一話 緊急手術 事故現場に駆け寄ると、トラックの左前輪と後輪の間に上半身を突っ込むようにして横たわっていた。 屈みこんで覗くと、目を半開きにして意識を失うゆかりちゃんの顔が見えた。 (頭の上のロウソクが!!!) 根元から切り倒された木のように、ロウソクが根元から折れ、横倒しの状態になっていた。よく見ると無色の炎が上がり、尋常じゃないスピードでロウソクが溶けていく。 トラックの運転手が、『この子がいきなり飛び出してきたんだ!』と大声を上げていたけど、僕の耳
第五十話 悲劇 3 「どうした!」 悲鳴を聞いて駆けつけた大川部長は、階段下を凝視し、言葉にならない声を発しているゆかりちゃんを見た。 「ああっ!」 ゆかりちゃんの視線の先に金井先生が倒れているのを見て、大川部長は、急いで階段を駆け下りた。 うつ伏せになって倒れている金井先生は、全く意識がなかった。 「青山さん、何をやってるんだ! 早く職員室に行って先生を呼んで来るんだ!」 大川部長に怒鳴られたゆかりちゃんは、青ざめた顔をしながらも急いで職員室に向かって
第四十九話 悲劇 2 授業中、僕は何度もゆかりちゃんのことを見た。優等生のゆかりちゃんが、授業も聞かずにずっと突っ伏しているからだ。 頭の上のロウソクも、炭の熾火のように小さい赤黒い炎を灯すだけで、そのまま炎が消えてしまうんじゃないかと心配したくらい小さい炎だった。 一日の授業も終わり掃除当番も終えると、放課後になってやっと僕はゆかりちゃんに声をかけた。今まで声をかけなかったのは、ゆかりちゃんの『放っておいて!』という無言のオーラをビンビン感じたからだ。 「ゆか
第四十八話 悲劇 事情聴取から2日が経った。 3日ぶりに登校してきたゆかりちゃんは、少し痩せていて憔悴しきった状態だった。頭の上のロウソクも、沈んだ気分を象徴してかブルーの小さな炎を灯している。 「ゆかりちゃん、大丈夫?」 血の気の失せた表情を見せるゆかりちゃんを心配して、僕は声をかけた。 「うん、ありがとう。私は、大丈夫……でもないかな。ちょっと落ち込んでる……最後に千里先輩にお別れが言いたかったのに、お葬式に出れないなんてちょっとショックだったし……」
第四十七話 事情聴取 2 「3年前、バスから降りた私を追いかけて、突然『病院に行って検査したほうがいい』って言ったことあったでしょ! あれ、君だよね!?」 真剣な目で訴えかけてくる小早川さんに圧倒されながら、 「そう言えば、リハビリテーション・センターに行く途中で、そんなことをした覚えがあるようなないような……」 僕がそう答えると、 「あったのよ! あなたがそう言ってくれたおかげで、今の私の命があるの! ――あの時、あなたが、いきなり『最近、体調が悪いこととかな
第四十六 事情聴取 (なんで、こんなことになったんだろう……) 僕は、頬杖をつき、外を眺めながら、昨日の惨劇を思い出していた。 (三輪先輩の話を聞いた後、あの時点で相談すれば、こんな悲劇は生まれなかったのだろうか……。いや、朝霧先輩の黒いロウソクが僕の予想通りならば、あの時点ではすでに遅かったはずだ……) 美術室で半狂乱になっていた朝霧先輩。その頭の上の黒く変色したロウソクが、目に焼きついて離れないでいた。 (頭の上のロウソクは、他人の死に直接関係した場合、黒く
第四十五話 凶変 2 泣いていたゆかりちゃんでさえ驚いて顔を上げるくらい、その悲鳴は校舎に響いた。 僕も驚きながらも、すぐに窓を開けて悲鳴が聞こえた中庭に体を突き出すようにして覗き込んだ。 渡り廊下が邪魔になってよく見えなかった。けど、さらに幾人かの女子生徒の悲鳴と、男子生徒の叫び声が聞こえた。 『誰か先生を呼んで!』『どうした!?』『なんだよ、これ!』『救急車だ!』と、怒号が飛び交う中、野次馬が徐々に集まり出しているが見えた。 「ゆかりちゃん、何か事故が起
第四十四話 凶変 2学期に突入して1週間が過ぎた。 今日も授業を終え、僕とゆかりちゃんは部活のために美術室に向かった。 昨日、大川部長が、『山崎君は、模型のジオラマ制作や紙粘土のフィギュア制作が上手だったから、絵を描くことよりも物を作ることのほうが合ってるかもしれないね』と言って、今日から本格的に陶芸に挑戦することになった。 入部して間もないころに少しだけ陶芸を教わったけど、その時は、大川部長が難しい作業のところをすべてやってくれて、僕は最後の仕上げだけやる感
第四十三話 2学期 2学期に入り学校が始まると、久しぶりにクラスのみんなに再会した。 夏休み中にイメチェンしたのか、髪の毛を染める男女も多く、さらには化粧をするようになったクラスメートの中には、『誰?』と尋ねずにはいられないくらい変化している人もいた。 でも、そのおかげで、色白だった僕とゆかりちゃんが、真っ黒に日焼けしていたとしてもまったく目立たずに助かった。もし僕らの日焼け具合に気づかれたなら、詮索好きのエロ魔人こと田中に、夏休み中のできごとを根掘り葉掘り追及さ
第四十二話 秘密 「つい先日、あたしは家族旅行で軽井沢に行ったんだ。いつもなら親戚がいる田舎に行くんだけど、あたしが受験勉強もあるし、親戚一同が集まっててうるさい田舎には行きたくないって言ったらさ、パパが『それじゃあ、避暑地の軽井沢にでも行ってみるか? 受験勉強ばかりじゃなく、気分転換もたまには必要だろう』ってことになったの。実際旅行に行ってみたら、予約したホテルも軽井沢では有名なホテルでさ、それも泊まった部屋がホテルの最上階! 見晴らしはメチャいいし、室内は豪華で広いし、