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僕と命のロウソク

あらすじ

 山崎晶は、小学生の時の交通事故の後遺症で、人の頭の上にロウソクが見えるようになった。
 頭の上のロウソクを観察していくうちに、ロウソクの大きさが寿命と関係していることや、ロウソクの色がその人の性格を表していたり、炎の色がその時の感情を示していることに気づく。だが、自分の頭の上のロウソクだけは見ることができなかった。
 人の頭の上のロウソクを見て、寿命や性格判断、恋愛問題や重症な病気を予測したりできるようになった。
 高校生になると、事故の時の病院で同室であったゆかりちゃんと偶然クラスが一緒になった。そのゆかりちゃんの勧めで美術部に入部することになったが、プロの画家として活躍する朝霧千里が、夏休み明けてしばらくした後、学校の校舎から飛び降り自殺をしてしまう。その事件の原因と思われる美術部の顧問の金井を問い詰めるゆかりは、誤って金井を階段から突き落としてしまい、自分が殺したと思って半狂乱になったゆかりは、学校から逃げ出し、道路に飛び出した際に車に轢かれて重体になってしまう。
 その瀕死の重傷を負ったゆかりを助けるべく、晶はロウソクの不思議な力を使う。
 

第一話 不思議な力

「晶、起きなさい! 遅刻するわよ!」 

 お母さんが、階段下から2階の僕の部屋に向かって大声で叫んだ。だけど、お母さんの声は深い眠りについている僕の耳にまったく届かない。

「まったく……」

 呼んでも返事がないので、お母さんは仕方なく階段を上がって僕の部屋にやってくる。

 トントントントンという階段を上がってくる足音が、僕の眠りを少しだけ浅くした。

「晶! 登校初日から遅刻するつもり!」

 部屋の紺色の遮光カーテンを一気に開けて、お母さんが怒って言った。

 暗闇に包まれていた部屋に明かりが差し、朝のまぶしい光が僕の目蓋をこじ開けて入ってくる。

「遅刻しても知りませんからね!」

 お母さんが部屋から出て行く気配を感じながら、僕は枕に顔を突っ伏したままベッドの脇に置いてある目覚まし時計を手探りで掴んだ。

 目覚まし時計は、中学の卒業記念にクラスメートの男女14人でディズニーランドに行った時に買ったお土産だ。シンデレラ城の形をした時計で、アラームをセットした時間がくるとディズニーのテーマソングが鳴り響き、『ウェイク・アップ! ウェイク・アップ!』とミッキーの声で起こしてくれる。でも今日のミッキーは、朝から働く元気がなかったのか起こしてくれなかった。その代わりといっては何だけど、ドナルドのようにお尻をふりふりと動かす母さんが、ガーガーと怒鳴りながら起こしにきた。

 僕は、寝ぼけ眼で目覚まし時計を見ると、時計の針は、8時を少し回っていた。

「うそ! 8時04分!?」

 時計が示す時刻は、もう一度枕に顔を埋めようとする誘惑を消し飛ばすのに十分だった。

 僕はものすごい勢いで起き上がると、パジャマを素早く脱ぎ捨て、壁に掛けてある真新しい黒い詰襟の学生服をパジャマ代わりのTシャツの上から急いで着込み、机の上に置いてあったナイロン製の学生カバンを手に取って、今日学校で使う上履きをつめ込んでから階段を駆け下りた。

 1階のリビングに入るとカバンをソファに放り投げ、僕はキッチンの椅子に座って靴下を履きながらぼやいた。

「お母さん、遅刻しちゃうよ! なんでもっと早く起こしてくれないのさ!」

 僕が不満顔で言うと、

「人のせいにしないの! 起きられない自分が悪いんでしょ。高校生にもなって母親に起こしてもらおうという考えが甘いのよ!」

 さらにお母さんは洗い物の手を休めずに小言を続けた。

「あれだけ明日から学校が始まるから早く寝なさいって言っているのに、遅くまでテレビなんか見ているからこうなるんでしょ。ホント、だらしないところは昔から変わらないんだから。――それで朝食はどうするの?」

「いらない! 食べてたら完全に遅刻だよ!」

 僕は靴下を履き終わると、洗面所にいって顔を軽く洗い、整髪用ムースたっぷりつけて跳ねた後ろ髪をブラシで撫でつける。

 首を捻りながら頭の後ろを鏡で見て、寝癖がちゃんと直っているのを確認してから、僕は家を飛び出した。

「いってきまーす!」

「車には気をつけるのよ!」

 キッチンから聞こえてきた母さんの声が、僕を学校へと送り出す。

 学校へは徒歩で20分ほどの短い道のり。早足で歩くと、早朝の爽やかな風がわずかに残っていた僕の眠気を吹き飛ばしてくれた。

 僕の名前は、山崎晶。先日、県立高校に合格したばかりの15歳の高校生だ。

 僕は美形ってわけでもないし、長身というほど背が高いわけでもない。頭がめちゃくちゃ良いというわけでもないし、スポーツ万能でもなければ、ケンカが強くてアウトロー的存在ということでもまったくない。まあ、言い換えるならば普通と平凡という言葉の既製服を着て歩く、どこにでもいる学生ということだ。

 でも見た目には平凡で普通の学生に見えるけど、僕には他の人が持っていない不思議な力を持っているんだ。

 僕がその力に目覚めたのは、忘れもしない小学校6年生の夏だった……



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