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僕と命のロウソク

第五十二話 緊急手術 2

 しばらくして、仕事中だったゆかりちゃんのお母さんが駆けつけてきた。

「お父さん! お母さん! 晶君! 何があったの!?」

 学校で起きたことを僕が説明して、ゆかりちゃんの現在の状態をおじいさんが説明した。

 ゆかりちゃんの状態は、最悪だった。左前頭骨の骨折、右肋骨多発骨折、肝臓破裂、脾臓破裂、出血性ショックで重体だという。

「覚悟しておいたほうがいい……」

 おじいさんの言葉を聞いて、ゆかりちゃんのお母さんは、両手で顔を覆って泣き崩れた。

 刻々と時間が過ぎていく。

 事故が起こって4時間が経ったけど、手術が終わることはなかった。

 そこへ、見知った人物が現れた。

 濃いグレーのパンツスーツを着た小早川警部補だった。後ろには、お供の田村刑事もいる。

 小早川さんたちは、警察手帳をかざし、簡単に自己紹介を述べた。

「お嬢様が大変な時に事件のことをお話しするのは心苦しいのですが、少しだけお時間をいただけないでしょうか?」

「はい……学校で何があったのでしょうか……」

 か細い声で、ゆかりちゃんのお母さんが答える。

 込み入った話になると思って、僕がその場から立ち去ろうと腰を上げかけると、小早川さんが僕を制した。

「山崎君、君も一緒に話しに加わってください。君にも確認したいことがありますので」

 そう言って、事件のあらましを話してくれた。

「まず初めに、階段から転落した金井先生がお亡くなりになったことは、収容先の病院で確認されました。その時の状況を美術部の部長の大川君、それに青山さんが職員室に呼びに行って救護に駆けつけた角田先生と高梨先生から聞き取りをしました。大川君によると、美術室の外、階段のすぐ横で金井先生と青山さんが言い合っていたようです。直接は見ていなかったと言っていましたが、青山さんの悲鳴を聞いて美術室から飛び出すと、すでに金井先生が階段から転落した後だったようです。青山さんが言うには、腕をつかんできた金井先生の腕を振りほどこうとした際に、誤って金井先生が階段下に転落したということでした。救護の先生2人は、駆けつけたときにはすでに金井先生の脈は止まっていたとの事です」

 その話を聞いて、ゆかりちゃんのお母さん、おじいさん、おばあさんが顔を青くした。

 僕も現場を見ていたわけではなかったので、詳しく説明できなかったため、まさかゆかりちゃんが原因で金井先生が亡くなったとは夢にも思ってなかったようだった。

「山崎君は、その時の様子をどこまで知っていますか?」

「僕が現場に行ったときは、もう金井先生が横たわっていて、先生2人が救護してる状況でした。僕を見て、青山さんが『わざとじゃない、金井先生につかまれてふりほどこうとしたら落ちた』ようなことは言っていました。その時には、興奮していてとても話しができる状態ではありませんでした。彼女は急に駆け出し、正門を出て道路に飛び出したところトラックにはねられました」

 僕は、その時の状況を一つ一つ思い出しながら説明していった。

 そして、いくつか質問されそれに答えると、

「こちらの聞き取りと合致してますね。――わかりました。もし、何かありましたら、ここへ御連絡ください」

 名刺を渡し、おばさんの携帯番号を聞いてから立ち去っていく。

 小早川警部補と田村刑事が、フロアから出ようとしたところを僕は呼び止めた。

「小早川さん、ちょっといいですか?」

 僕の声に足を止めた。

「なんでしょう? 山崎君、他に気づいたことでもありましたか?」

「気づいたというか、お聞きしたいのですが……。金井先生が転落したあと、青山さんが職員室に先生を呼びに行った際、その場には大川部長と金井先生しかいなかったんですか?」

 それを聞いて、小早川さんの目が光ったように感じた。

「そのようですね。他に目撃者もいませんし、大川君もそのように言っていました」

「そうですか……」

(やっぱりそうか……。黒いロウソクを見て動揺したけど、それなら納得できる。ゆかりちゃんは、頭の上のロウソクを見て驚いたと勘違いしたけど、僕が驚いたのは、そのすぐ後ろにいた大川部長の頭の上のロウソクが黒かったからだ……)

 嫌な予感が的中しそうで、僕の気分は落ち込んでいった。

「その様子ですと、山崎君、何か詳しい事情を知っているようですね……。どうか、私に聞かせてもらえませんか?」

 優しく話す小早川さんに、僕は救いを求めるように今までのことを話していった。

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