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僕と命のロウソク

第五十五話 奇跡 3

 僕が意識を取り戻したのは、その日のお昼過ぎだった。

 倒れたのが夜中の0時半だったので、半日も意識がなかったようだ。

 倒れた僕を診断した医者は、『極度のストレスによる失神』と診断したようだけど、本当の原因は僕にしかわからないだろう。

 僕の失神でその場にいた人たちを驚かせたみたいだけど、もっと驚かせたのは、ゆかりちゃんが息を吹き返したことだった。

 死亡宣言を行った医者も慌てたようで、朝までゆかりちゃんに付きっ切りで看護していたそうだ。

 ゆかりちゃんが目を覚ましたのは、二日後の朝だった。

 周囲の心配をよそに、第一声が、

「お母さん、お腹すいた……」

 って言うんだから、相当キモが太いのかもしれない。

 あれから、僕は毎日病院に通っている。もちろん、ゆかりちゃんの見舞いのためだ。

 ゆかりちゃんの回復は目覚ましく、再度検査した結果、摘出した臓器までほとんど復元していて大騒ぎになった。

 入院から4日目に、小早川警部補が見舞いに来た。

 ちょうど僕も見舞いに来ていたので、事件の報告を聞いた。

 やはり予想していた通り、大川部長が金井先生を手に掛けていた。

 ゆかりちゃんが職員室に助けを呼びに行っている間に、傍にあった消火器で金井先生の頭を殴りつけるという犯行だった。

 あの晩、僕が小早川警部補にすべてを話し、小早川さんは、すぐに鑑識を引き連れて再度学校に訪れた。その結果、事故現場にあった消火器には金井先生の血痕が付着しており、大川部長の指紋も検出されたことによる逮捕だった。

 犯行の動機は、金井先生とゆかりちゃんが言い争ってときに、金井先生が朝霧先輩の妊娠させ、堕胎させたことを耳にしたことだった。『朝霧君を自殺に追い込んだ金井先生を許せなかった』と本人は言っていたという。

 本当に悲しい事件だと思う。けど、周囲はそんな気持ちには関係なかった。

 当然、事件を聞きつけたマスコミは、『天才美少女画家と教師との禁断の恋』と題して、センセーショナルな事件として大々的に報じた。

 今も連日マスコミが学校に押し寄せていて、職員はその対応に追われている。

 亡くなった朝霧先輩が悪く言われるのは、僕としては不本意だったけど、ゆかりちゃんが殺人者としての汚名を着せられることがないようにするには仕方なかった。

 僕は、今日も病院に見舞いに来た。

 僕が入院した場所だったけど、再び通うことになるとは思ってもみなかった。

 ゆかりちゃんが入院して10日目。ゆかりちゃんの病室は、本館4階にある個室。さすが保険外交員をしているゆかりママだけあって、保険をうまく活用して相部屋の値段で個室を利用している。

 病室の前まで来て、入院患者の名前が書かれたプレートを確認してから、僕は一応ノックをして中に入った。

「あ、晶君、いらっしゃーい!」

 ゆかりちゃんが、満面の笑みで僕を迎えてくれた。

「調子はどう?」

「元気、元気!」

 明るい笑顔は、まるで真夏に咲くひまわりように爽やかだ。

 子供の時に見せてくれたあの笑顔と、何も変わっていないことが僕には嬉しかった。

 頭の上のロウソクを見ることはできなくなったけど、この笑顔が見れるだけでもう何もいらないと、僕はそう思った。

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