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僕と命のロウソク

第五十話 悲劇 3

「どうした!」

 悲鳴を聞いて駆けつけた大川部長は、階段下を凝視し、言葉にならない声を発しているゆかりちゃんを見た。

「ああっ!」

 ゆかりちゃんの視線の先に金井先生が倒れているのを見て、大川部長は、急いで階段を駆け下りた。

 うつ伏せになって倒れている金井先生は、全く意識がなかった。

「青山さん、何をやってるんだ! 早く職員室に行って先生を呼んで来るんだ!」

 大川部長に怒鳴られたゆかりちゃんは、青ざめた顔をしながらも急いで職員室に向かって走った。

 大川部長は、ゆかりちゃんが他の先生を呼びに行ったのを見届けた後、金井先生のことを冷めた目でジッと見つめていた。



 図書委員の仕事が終わって、僕は急いで美術室に向かった。

(金井先生が話があるって言ってたけど、何の話しなんだろう……)

 そんなことを考えながら向かっていると、人だかりができているのが見えた。

 階段下で人が倒れていて、それを覗き込むように2人の先生がいる。その横では、ゆかりちゃんと大川部長が心配そうに見つめていた。

 僕が近づくと、屈んでいた先生の一人が首を振って『亡くなっている…』という声が聞こえた。倒れている人をよく見たら、金井先生だった。

 ゆかりちゃんと大川部長に声をかけようと近寄った時、僕は愕然とした!

「な、なんで……? なんでロウソクの色が黒いんだ……!?」

 目を見開き、呆然と立ち尽くす僕の姿に気づいたゆかりちゃんは、僕の視線とその言葉にハッとして両手を頭の上にやって何かを隠すしぐさをした。

「あ……晶君、見ないで! わ、わざとじゃなかったの! 金井先生がいきなり腕をつかんできて、それを振りこうとしたら………そしたら、先生が階段から落ちて……血が、血がいっぱい流れて、私どうすることもできなくて……他の先生を呼びにいったんだけど! ――あああああああああああああああああああっ!!!」

 話しの途中で、ゆかりちゃんが、いきなり絶叫しながら駆け出した!

「あっ! ゆかりちゃん! 待って!」

 ゆかりちゃんを追いかけたけど、足の悪い僕との差はどんどん開いていく。

(ゆかりちゃん、違うんだ! 違うんだよ!)

 僕は、足を引きずりながら必死に追いかける。

 ゆかりちゃんは、大声で泣きながら校舎を飛び出し、正門に向かって走っていく。

「ゆかりちゃん、待って! ちょっと落ち着いて、僕の話を聞いて!」

 大声で呼び止めても、ゆかりちゃんが立ち止まる様子はまったくなかった。

(ゆかりちゃん、誤解だ! 君は勘違いしてるんだよ!)

 僕がやっと校舎から出たとき、ゆかりちゃんは正門を抜け、そのまま目の前の大通りを突っ切った。

 一心不乱に駆け出すゆかりちゃんを、僕はスローモーションで見た。

 右からトラックが現れ、

 ゆかりちゃんを跳ね飛ばし、

 転がったゆかりちゃんの上を片方のタイヤが乗り上げるまで、僕はハッキリ見てしまった。

「ゆかりちゃん!!!」

 僕は、喉が張り裂けんばかりの大声を上げていた。

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