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僕と命のロウソク

第四十五話 凶変 2

 泣いていたゆかりちゃんでさえ驚いて顔を上げるくらい、その悲鳴は校舎に響いた。

 僕も驚きながらも、すぐに窓を開けて悲鳴が聞こえた中庭に体を突き出すようにして覗き込んだ。

 渡り廊下が邪魔になってよく見えなかった。けど、さらに幾人かの女子生徒の悲鳴と、男子生徒の叫び声が聞こえた。

 『誰か先生を呼んで!』『どうした!?』『なんだよ、これ!』『救急車だ!』と、怒号が飛び交う中、野次馬が徐々に集まり出しているが見えた。

「ゆかりちゃん、何か事故が起こったみたいだよ」

 後ろにいる目を腫らしたゆかりちゃんにそう告げたとき、外にいる野次馬の集団の中から切羽詰まった大声が上がった。

「飛び降りだ! 女子が屋上から飛び降りたぞ!」

 その声を聞いて、僕とゆかりちゃんの目が重なった! 驚きのあまり目を大きく見開いている。

 すぐに僕らは悲鳴の上がった中庭に急行した。

 足を引きずって走りながら、僕はものすごく嫌な予感がした。

 先を走るゆかりちゃんと共に野次馬をかきわけ、事故現場に到着した。

 アスファルトに仰向けに横たわる女子生徒。それを挟むようにして屈みこむ男性教師2人。さらに、遠巻きに心配そうに見つめる生徒たち。

 女子生徒の顔の右半面は血だらけで、右足のかかとがあさっての方向に折れ曲がっていた。

 きれいだった顔は見る影もなく、鼻はつぶれ、唇はめくり上がって折れた前歯をさらしている。

 無残な姿をさらして横たわっていたのは、朝霧先輩だった……。

「……ち、千里……先輩……うそ……うそよ! うそ! うそ! うそ! うそ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 発狂したように悲鳴を上げ、頭を抱えてうずくまるゆかりちゃんの横で、僕は呆然と立ち尽くした。

 僕たちが見守る中、救急車が到着し、朝霧先輩は担架に乗せられ病院へ直行した。

 僕らの無事を願う気持ちは届かず、事故発生から1時間後、朝霧先輩の死亡が病院で確認された。



 次の日、学校で臨時集会が開かれた。

 全校生徒が体育館に集められ、部外者完全シャットアウトの態勢で行われた。

 ちょうど天才美少女画家として、朝霧先輩がテレビ番組に扱われた後だったこともあり、学校正門前にはマスコミで埋め尽くされていた。

 朝のテレビワイドショーでも扱われていたので、朝霧先輩の死は、少なからず周囲に影響を及ぼしているようだった。

 臨時集会は、黙祷から始まり、校長からの事故説明と朝霧先輩への哀悼の意を捧げる話、マスコミへのかん口令を敷くことが伝えられて終わった。

 朝霧先輩への悲しみの言葉を口にする校長だったが、校長の持つロウソクを見たらそんなことは1mmも感じられなかった。マスコミや保護者への対応、自分の学校で自殺者が出たという不名誉で、朝霧先輩に対して内心苛立ちを覚えているように見えた。僕は、そのことが無性に腹が立った。

 臨時集会が終わり教室に戻ったが、今日の授業はすべて自習。それも授業は午前のみとなった。

 当然、すべての部活動も行われない。そのことに対して不満を述べる生徒もいないわけではなかったが、ほとんどの生徒は、朝霧先輩の死を悼んでいた。

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