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僕と命のロウソク

第四十八話 悲劇

 事情聴取から2日が経った。

 3日ぶりに登校してきたゆかりちゃんは、少し痩せていて憔悴しきった状態だった。頭の上のロウソクも、沈んだ気分を象徴してかブルーの小さな炎を灯している。

「ゆかりちゃん、大丈夫?」

 血の気の失せた表情を見せるゆかりちゃんを心配して、僕は声をかけた。

「うん、ありがとう。私は、大丈夫……でもないかな。ちょっと落ち込んでる……最後に千里先輩にお別れが言いたかったのに、お葬式に出れないなんてちょっとショックだったし……」

 昨日、学校からの連絡で、今日、執り行われる朝霧先輩の葬儀は、亡くなった状況が自殺ということもあって身内だけで行われると知らされたからだ。

「千里先輩、なんで自殺なんかしちゃったんだろう……」

 ゆかりちゃんが、ポツリとつぶやく。

「そっか、ゆかりちゃんは、見えないから原因がわからないのか……」

 と、思ったことをそのまま口走ってしまい、僕は『しまった!』と思った。

 案の定、ゆかりちゃんは、僕の言葉を聞き逃してはくれず、すぐに問い正してきた。

「私は見えないから、わからない……? 晶君、千里先輩の何を見たの! もしかして例の能力で亡くなった原因がわかったの!?」

「いや……あの……」

 僕が口ごもって言葉を濁していると、ゆかりちゃんは、僕の腕をつかんで必死の形相になって頼み込んできた。

「お願い、晶君! もし知ってたら、千里先輩が亡くなった原因を教えて! このままじゃ、千里先輩が浮かばれない! 可哀想すぎるよ!」

 泣き崩れるゆかりちゃんに、クラスメイトのみんなが驚きの視線を向ける。

 『山崎、自分の嫁を泣かすなよな』と、クラスの男子がからかってきたけど、僕はそれにかまっている余裕はなかった。

(ゆかりちゃんに、朝霧先輩について本当のことを言っても何もいいことはないんだけど……)

 僕は、話すのをためらったけど、ゆかりちゃんの涙を見たら無下にすることもできず、結局のところすべてを話すことにした。

「多分だけど、朝霧先輩は妊娠してた……と思う……」

 他のクラスメイトもいることもあって、僕はゆかりちゃんだけに聞こえるように小声で話した。

「それも夏休み中に中絶してる……。朝霧先輩が美術室で泣きわめいていたのを見たとき、頭の上のロウソクが真っ黒に変色してたから……」

「…………うそ」

 ゆかりちゃんが絶句している。

「僕だって信じたくないよ。でも、三輪先輩が言っていた金井先生との密会。2学期初めの体調不良による学校の休み。精魂こめて書き上げた絵の、それも母親と赤ちゃんの顔を塗りつぶす行為。極めつけは、彼女の光り輝いていたロウソクの色が真っ黒になっていること。総合して考えたら、どうしてもその結論が出ちゃうんだよ……」

 そこまで話していたら、担任の加山先生がやってきたので、僕は会話を終了した。

 去り際にゆかりちゃんを見ると、机に突っ伏して声を押し殺して泣いていた。

 僕は、やっぱり言わなきゃよかったと後悔した。


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