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#日記

果物と果実

果物と果実

今日はなんとなく悲しい
悲しい理由はない

もしあるとすれば、
友達が果物から果実になった理由を知ったこと
本棚が崩れて読みかけの小説が部屋から逃げたしたこと
二の腕にいつの間にかデキモノが生まれたこと

街のリズム
川は水かさを増して逆向き

果実になった友達のそれは
甘かった
甘かったけど美味しくなかった
美味しくはないけどうなずいた
甘い、甘いとうなずいた

だから、皮は庭に埋めた
春の土で

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頬に夜の灯

頬に夜の灯

月の後ろを飛行機が通りすぎた

灯がそれは違うって
そんなはずはないよ
月の明るさに機体が
ひととき消えたんだ

飛行機は誰かを乗せたまま
消えたんだ
灯、ねえ灯

呼んでいるんだけど、灯
月の裏側は深夜で
それも醒めない深夜だって

それでも灯は飛行機は
ムーンライトの呪いにかかったって

灯、じゃあ私を染めて
月じゃない灯
私を消さずに染めて
それを愛だと俗物だと

行き交う人がそうやって名前

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揺蕩

揺蕩

取るに足りない日常のある日を、何かに触発されて思い出す時がある。それは例えば、パターソンを鑑賞した時だとか、すべて忘れてしまうからを寝る前に読んだ時だとか、朝にカネコアヤノを聞きながら駅まで歩く時だとか。その日常のある日は、ひょんなことから絢爛とした記憶となって私を巡る。

朝、カーテンを開けて、それから窓を開けると澄んだ鳥の声が網戸を越して私に届く。鳩の鳴き声は信号のように周期的なのに突然終わっ

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沈みつつ、朝

沈みつつ、朝

ソファに沈んだまま二人は朝を迎えた。
アサが先に起きて、キッチンまで行き水を一杯飲んだ。
タナカはその様子を沈んだまま、視界は霞んだまま眺めていた。

「明けましておめでとうございます」

アサにそう言われ携帯を確認する。
5:03と仰々しい文字の下に、1/1 sat。

「うん、明けましておめでとう」

タナカも立ち上がりキッチンで水道水を一杯飲む。
本能的に体の内に閉じ込めていた熱が、水の冷た

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漂う絵本

漂う絵本

「俺、絵本しか読まないんだ」

私が毎晩のように本を読んでいると、彼は隣でこう言っていた。
財布、携帯。出会った頃、彼はできるだけ荷物を持ちたくない性分であったが、いつしかそれに似つかないほど大きなカバンを持つようになった。小麦色で中身の重みによって湾曲したカバンは、マドレーヌのよう。

彼はそのカバンに、財布、携帯それに絵本を2冊入れていた。

「いつも思っていたんだけど、何で絵本1冊じゃなくて

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淡くどうでも良い

淡くどうでも良い

淡く過ごしやすい夜になっていた
私をおいて万物と移っていった夏の背を追いかけた
逃げ水のように辿り着かなかった

人も建物も空気もすべて影を残し揶揄していた
毛量が多くうねった黒髪に反して、肌は白い
「気持ちの悪い」に制約されて過ごした

緩く吐き気を誘う風はいつの間にか、
次へと移っていった万物たちの跡に風が吹き込む
ノスタルジーと橙な麗らか

閉め切った窓が開き、

どこかの庭で犬が強く吠える

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雨は遅く、僕が連れていく

急な雨に降られた。私は小学校のグラウンドにいた。ナイターで照らされていて、その光がはみ出して周りの家々も明るかった。
奈落に浮かぶ島のよう。

光の先から急に雨が現れているようで、反射して落ちる雨は均等に遅く見てた。光の帳の中がそれでいっぱいになって流れていく。
土が徐々に濡れて色が濃くなって固まっていった。雨は強くなる一方だったので校舎の軒先へと移動した。

「これ止みますかね〜」

「雨雲レー

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