雨は遅く、僕が連れていく

急な雨に降られた。私は小学校のグラウンドにいた。ナイターで照らされていて、その光がはみ出して周りの家々も明るかった。
奈落に浮かぶ島のよう。

光の先から急に雨が現れているようで、反射して落ちる雨は均等に遅く見てた。光の帳の中がそれでいっぱいになって流れていく。
土が徐々に濡れて色が濃くなって固まっていった。雨は強くなる一方だったので校舎の軒先へと移動した。

「これ止みますかね〜」

「雨雲レーダーちょっと見てみるわ」

どうしても人といる空間では問う必要があるように思えた。ただ僕は答えを聞きたいわけではない。それが人よりも小さいその中で確定されている情報など知りたくなどなかった。

「21:45にやむってこのサイトじゃなってる」

「あ〜、、いま9時過ぎだからやむのを待つと40分待たないといけないってことですね」

「だから俺、雨は嫌いなんだよな〜」

「だから」の理由はわからなかった。この人は脈略もないまま「だから」を使う人で、「ねっ」や「あの〜」と呼吸をするように無意識に言葉として発する高校の先生や昨今ニュースで取り立てられている政治家の類なのだと腑に落ちた。

「僕は雨好きです」

「え、なんで?」

「逆に何で嫌いなんですか?」

「ジトジトベタベタするし、濡れるの嫌だし気分下がるじゃん」

「それって期待してるからじゃないですか?天気に」

「何言ってんの」

「僕は好きなんです。部屋の中から雨が当たる音好きです。中途半端に濡れると不快感あるかもしれないんで諦めて全部ビタビタになればいいんじゃないんですか?」

「え、嫌だよ」

「そうですよね〜。僕はもうこんだけ降ってたら関係ないので帰りますね。」

「お、おう。気をつけてな。」

「唯一外に洗濯物干せないところは嫌ですね、お疲れ様です。」

「お疲れ〜」

僕は携帯を濡れないように後ろのポケットにしまって自転車に跨った。雨は未だ遅く感覚的に避けられるような気がしているが、それに反して服の色は点々に濃くなっていき面になった。
瞼の上に雨粒が溜まって耐えられなくなって目に落ちる。前が見えなくなって手で拭う。

浮かぶ島の先は本当に無であるように暗い。
だけれども落ちて自分が失くなることはない、きっと。光を抜けた先は一寸の闇と地続きな生活。

僕は光の島を抜けた。雨は姿を消したがまだ降っていた。スピードを上げると顔を手で拭う感覚が狭くなっていく。履いている靴はじんわりと重くなり足と中敷の間に変な感触が当たる。
さっきまでいたグラウンドの大きなナイターが遠くなっていく。
すでに濡れることを受け入れた僕がこの夜の帳を連れていく。

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