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淡くどうでも良い

淡く過ごしやすい夜になっていた
私をおいて万物と移っていった夏の背を追いかけた
逃げ水のように辿り着かなかった

人も建物も空気もすべて影を残し揶揄していた
毛量が多くうねった黒髪に反して、肌は白い
「気持ちの悪い」に制約されて過ごした

緩く吐き気を誘う風はいつの間にか、
次へと移っていった万物たちの跡に風が吹き込む
ノスタルジーと橙な麗らか

閉め切った窓が開き、

どこかの庭で犬が強く吠える、夜に裂け目ができてそこに排ガスが吸い込まれる

子供の泣き声が聞こえてアパートの階段を強く下る空洞な音がして
だが隣のファミレスは灯りがついたまま

2階から弾けて星がひとつだけ輝きを増すような声が聞こえた
そこには何もなかった
円になる蛍光灯が黒ずみそこは棲家
漏れた光も窓からは出れず足掻いて熱

ピアノの音に誘われて一時の重力が滑稽になる
音が外れ戻されてまた誘われて
深く深く潜りたい
私の物質はやがて遠く塵になるまで

繋がりは内側から漏れる波しかなかった
夏の終わりまでの隙間を見つけて
蚊も蛙も鳴り止まない

過ごしやすいと思ってる生き物だけが理
私も蚊も蛙ももう少しだけの生き残り

波を溶かして私の中で漣がなる
万物とのすれ違いが私を生かして生成する

明日はこない
それのほうが日常で
それでも明日はやってくる

眠れない どうでも良いところで私と万物は
邂逅する



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