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「愛がなんだ!ってんだコノヤロウ!!!」エピローグ【長編小説】

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↓ 前回のおはなし。


・エピローグ


 たまちゃんを何とか東京に留め置くことが出来たはいいけど、俺は仕事を放って駆け出してしまったし、たまちゃんなんて辞表突き付けて東京駅に佇んでた訳だから、二人の喜びが薄れて現実が襲ってきたら、明日からどうしよう! って、二人で恐れ慄いた。
 俺は、とりあえず心当たりある、あすかさんに連絡を入れた。前に融通効かせてくれるって言ってたのを今使ってもいいですか? って、慌てながら言うと、それはトウリちゃんの件で使ったじゃんって容赦なく言われた。そこを何とか! って言うと、
「キミの午後の仕事は私の急な予定変更でおじゃんってコトになってるから問題ないよ、キミの会社にも連絡入れといたし、勝手に飛び出しちゃったんだから、これからこってり絞られてきなね。あ! それと、たまきちゃんも一緒でしょ? なら、すぐ代わって」と言われて、色々混乱しながら、スマホをたまちゃんに手渡した。あすかさんが話があるって、と言って、たまちゃんは驚いてたけど、一瞬で覚悟決めた表情をして電話を受けた。
 えー。はい。はい。あー。そうですか。なるほど。はい。わかりました。ありがとうございます。はい。失礼します。三十秒も経たずに電話を切ると、俺に返しながら、私……仕事辞めなくていいみたい。と、言った。
 え? 何で? そう聞くと、人事部の真利ナギサさんが受理手続きを怠って、今日ではなく明日付けで退職ってコトになっている様だ、と、あすかさんに言われたと聞かされた。
 何故あすかさんが、そんな事情を仔細に知ってるのか不思議でしょうがないが、そんなコト言ってられない。二人で時間を確認し合って、会社までの最短ルートと所要時間を計算して駆け出した。キャリーバッグを俺が担ぎ上げて、たまちゃんはスマホで順路を確認しながら、電車に飛び乗ると、二人ヒソヒソ声で方々電話を掛けまくった。
 けれど、不思議なコトに、俺側はあすかさんが、たまちゃんはナギサさんが、先回りしたみたいに時間を稼いでくれていたみたいで、何が起きたか分かってない二人は唖然とした顔しながら電車を降りて会社へ向かった。
 ちょうどお昼時の一時頃だったのでオフィスには人気がなく、誰にも見つからない様に身を屈めてコッソリとデスクに戻った。
 ふぅ……と一息ついて、どんな言い訳しよか悩んでいると、パソコンのモニター越しに顔をひょこっと出した高田さんが、おっ! 舞城! 戻ってきたか! あすかちゃんから聞いたぞ! と言って、やたらニヤニヤしていた。ほらほらちょっと待て待て、と言いながらスマホ画面を操作すると、
「こんなことになってたなんてなぁ。オマエもやるじゃんかよ!」と言って、画面をコッチに向けた。
 そこには、さっきまでの俺とたまちゃんのやり取りと、抱きしめ合うまでの一部始終が、動画で克明に記録されていた。
 驚き飛び退いて、デスクを叩き飛び出して、高田さんが見せつける画面に顔を思いっきり近づけると、冷や汗が止まらなかった。
 俺とたまちゃんのやり取りは野次馬に撮り切り取りされて全世界に拡散されていた。
 俺は、あすかさんから聞いたんですか!?  と、高田さんに聞くと、
「そうそう、オマエが飛び出してすぐかな? 電話が掛かってきて、舞城の仕事の件はこっちで何とかしますんでヨロシクって、それと、舞城が東京駅で公開プロポーズするから、その為に駆け出したんですよ、今回の事は大目に見てあげてくださいね。ってな。多分、盛大なプロポーズになると思うんで、SNSで“東京駅 プロポーズ”で検索掛けたら、その内、すぐにでも見れるようになると思いますよって。楽しそうに語ってくれたワケ」
 俺は真っ赤になりながら、あの……ちょっと席を外してもいいですか? って聞くと、別に昼休み中だから問題ないぞ、お前時間休になってるし、それと人事部に駆け込んで話し合わなきゃいけない事も沢山あるだろうしな。と、ニヤニヤしながら言われた。その言葉に一層顔が赤くなって耐えられなくて、お言葉に甘えます! って飛び出した。
 たまちゃんに連絡して、今どこ? 大変な事になってる! と、送ると、私は四階の人事部の前にいるよ。私も話したい! と、返事があった。
 階段を駆け登って、たまちゃんの元に急ぐと、たまちゃんは青ざめた顔した立っていて、俺の姿を見るとこっちに駆けてきた。
「え? もしかしてダメだった? 辞めなきゃなんないの? それヤバいよ!」
 俺は真っ青になった彼女を見て、退社扱いになったんだ! と勘違いした。
「ちがうの! ナギサさんが間違って全部取り下げちゃってました。だから、会社を辞めたいなら、また半月はかかるって言われたの! でも、辞めませんって言ったら、じゃあ残るんですね、ってアッサリ通っちゃって、それで何が起こってるんだろうってナギサさんに連絡入れたら、この動画見たんだけど、この様子じゃ辞めないだろうと思ってね。こっちが勝手に手を打っておいたからって……。それでさ……これ」
 たまちゃんは例の動画を表示させると、俺に突き付けた。
「なんかしらないけど、いつの間にか撮られてて、今めちゃくちゃバズってんの。#東京駅 #プロポーズ ほらほら……色々出てくる……」
「こんなに拡散してるんだ……。あのさ、高田さんも知ってたんだよね。この事。あすかさんに聞いたって。でも、そのおかげで時間休扱いの、午後は普通に働けって。お咎めなしになったんだ……」
 二人は、狐につままれた不可思議な感覚になって、目を見合ったまま固まった。
 多分、コレは予想でしかないけれど、あすかさんとナギサさんはこの事を予測してたのかもしれない。いや、そんな筈ないんだけど、そうとしか思えないくらい可憐にフォローアップしてみせて、その上、この動画を社内くまなく拡めようとしてるみたいだった。
 何でこんな事する意味があるのか、大いなる謎だけど、少なくとも目前の危機は回避できた。仕事は辞めなくて済むし、たまちゃんは有給扱いで場をしのぐことが出来た。巻波あすかと真利ナギサは二人の窮地を救った。そして、新たな窮地を生み出した。だって、社内中に知れ渡ったんだから。二人だけのやり取りだと思ってた全てが。
 その事を思うと、俺は真っ赤になって、たまちゃんは真っ青になった。どうしよう……。愕然とした。
 でも、たまちゃんがボソリと、
「何でもかかってこい! って言ったよね。それなら一緒になんとかしよ」って言って、俺を見た。
「確かに言った。間違いなく言った。言った」
 俺はたまちゃんを見つめると、彼女の両肩を掴んで、真正面に二人見つめ合った。そのまま軽くハグすると、お互い仕事に戻って周りの様子を確かめようって結論に至った。そのまま互いのデスクに足を運んで、連絡取り合いながら、何が起こってるのか観察しよう。俺は、できること何だってやるからって。たまちゃんは、うんうんと何回か頷くと、緊張しながら互いのすべき事に向かって動き始めた。
 びっくりするくらいの剣幕で言い争っただけあって、動画はみるみるうちに拡散されていった。たまちゃんの元には他の男からの連絡が鳴り止まなかったみたいだけど、それら全部どうでもいいようにあしらってるみたいだった。大丈夫? 俺が何かしようか? って聞いてみたけど、まいちゃんが出張っても、状況が変わるワケじゃないし、ボッコボコにされるのがオチだから無理しなくていいよ、って返事された。俺は複雑な気分で皺寄せてクソー! とか思ったけど、たまちゃんに何かあったら俺が盾になればいい。そう考えて、とりあえず落ち着く事に決めた。
 さて、俺は何をすべきだろうか? デスクに座って、午後の予定を整理する。レジュメの纏め、明日以降のスケジュールの調整、方々への電話連絡。——手垢がついた方法でも、同じ事をしちゃならないなんてコトは誰が決めたワケでもない。奥の手があった。事の次第を確かめる為に彼女に電話を掛けた。





 ——巻波あすかに呼び出されて、いつもの居酒屋のいつもの席に向かった。
「おっ! イッちゃん来たね! 待ってたよー!」と、あすかが手を振って迎えた。
 急に連絡が入って、今日の夜にユキヨくんと飲もうと思ってるんだけど一緒にどう? っていうか、イチカちゃん居ないと盛り上がんないから来てね! って、乱暴な連絡を寄越された。また面倒事じゃないだろうなって疑って断ろうか悩んだけど、ユキヨとあすかを二人きりにさせるのも何か癪だし、また良からぬ計画を立てられても嫌なので、大人しく一緒に飲むことを約束して、待ち合わせ時間に居酒屋に向かった。
 手を振るあすかに、手を挙げて返すと、向かいにユキヨが座ってるのが見えた。あれ? いつもより奥の席だな? と、疑問に思った。確か、あそこは六人席だったはずだけど……。その瞬間に六人の意味に気がついて、慌てて店を飛び出そうと思った。
 あすかはオレの勘が働いた事を悟って、
「イッちゃん。ここまで来たからには付き合いなー。今日は大人数で飲み会しようっていう、楽しい楽しい会なんだからさ」
 と、ニヤニヤしながら呼びかけてくる。ユキヨも振り向きながら手招きして席へ座れと促してくる。まぁーたやられた……。オレは仕方なく席へ向かった。
 手を振るあすかと、ニヤリと笑うユキヨの他に、真駒たまきと桝本ユキノが座っていて、コチラへ軽く会釈した。
「なるほどな。まーた怒られんのか? 不意打ちかましやがって。えーと……。どうも、胡田イチカです。ユキヨくんには、いつもお世話になってます」後半につれて照れ隠しにボソボソと話すと、
「どうも、桝本ユキノです。イチカちゃんの日記。楽しく拝見させてもらってます」
「未駒たまきです。舞城くんの事を今日は色々聞かせてもらおうと思って来ました。ヨロシク」
 二人はそれぞれ自己紹介した。
 オレはあすかとユキヨを睨んで、「何でこんな事になってんだよ。二人が集まると碌でもないな。とりあえず説明しろよ」と、奥に座る、ヒロイン二人から視線を逸らせて、説明を求めた。
 桝本ユキノが「まぁ。身から出た錆ってコトだよ。イチカちゃんの悪さのせいで、ユキヨくんを取り巻く女性陣がこんなに増えちゃったんだからさ」と、意地悪に言ってみせた。あすかは、ユキノが我先に斬り込んだ事にビックリしてみせて、怒らせちゃいけない人を怒らせたねイッちゃん。と、笑っていた。
 ユキヨが、仕切るように説明を始めた。
「お前さ。まずは、この動画のこと知ってる?」そう言うと、スマホに映し出される例の動画をオレに見せつけた。俺は何にも知らなかったから驚いて、
「うーーわっ。コレめちゃくちゃ恥ずいやつじゃん。やられたなぁー。こりゃ一生モンの恥だぞ」と、言って、引きながら被りついて動画を眺めた。
「で、それでだ。この動画が流されたから、どうしたらいいだろうって? 初めに知ってたのは、あすかさんだったから連絡入れたんだ。そしたら、ユキノさんが前もって、あすかさんに連絡を入れてたって聞いたんだ。それで、ユキノさんのトコに行って事情を聞いた訳なんだ。そこで話し合った結果、今ここに居るってコトなんだよ」
 一瞬解りかけた気がしたが、
「その流れで何でオレが呼ばれるんだよ?」
「それはワタシが会ってみたいってユキヨくんにお願いしたから。動画の元凶と話してみたいなって」桝本ユキノはイチカを揶揄う様に言ってみせた。
「動画の元凶? 今回はオレ関係ないぞ!」
「それはね。こういうことなの。イチカちゃんとあすかちゃんが出会う→ユキヨくんの情報を事細かにあすかちゃんに漏らす→あすかちゃんが方々に喋る→たまきちゃんがそれを見て居なくなりたいって思う→止める為にユキヨくんが東京駅へ。って具合でね。そう考えるとイチカちゃんのせいなんじゃないかな? って思ったの」ユキノはイチカの苛立ちに臆せず、サラッと言ってみせた。
 「んなアホな理屈ねぇだろうよ。確かにオレはマズいことしたのかもしれないけど、だからって……。なぁ……。そんな悪いか?」
 頭を掻きむしって頭を整理しても、何が正しいか、何が何だかオレは一向に分からなかった。
 未駒たまきは口を挟んで、「ユキノさんはそう言って揶揄ってるけど、別にイチカさんのせいじゃないですよ。イラっとはしてますけど。でも、今日のコレはユキノさんへの恩を返す為に呼び出されたってコトなんで。イチカさんは、とばっちり喰っただけです」と、ハイボールに口をつけて、あんまり興味なさそうに言った。
 ユキノは「ふふ。たまきちゃんの言った通り。今日はワタシがイチカちゃんに会ってみたいって言って集まってもらっただけだから」と言って、笑ってみせた。
 オレは、とりあえず落ち着いて、じゃあ何でこんな大人数になったのか、改めて説明を求めた。
 あすかは「ユキノさんがアタシに連絡くれたの。人事部から未駒さんが辞めるって話がきてるんだけど、どうにかして阻止できないかって。それでアタシは考えた。どうしたってこのバカップルはやり合うだろうって。で。賭けたの。残る方に。だから何か動きがあったら社内に向けて噂を広めて辞めにくくしてやる! ってね。」ニヤニヤと、それはそれは愉快な顔して喋った。
ユキノは、そんなあすかを見て呆れながら、「人事のナギサくんに連絡して、あすかちゃんにも連絡を。共通の知り合いは二人しか知らなかったからね。舞城くんと未駒さんの橋渡し。まぁクセの強い二人を選んじゃったから評判は拡まる一方。会社辞めるなんて二度といえない空気になっちゃったけど」苦笑いしながら言う。
たまきは、「感謝してます。結論。辞める気なんてなかったし。でも、何でそこまでしてくれるんですか? 周りの方々にそこまでの恩義があった訳でもないのに、何故だかみんな必死になってくれてるのが不思議で」狐に摘まれた顔して疑問を投げかける。
「それはさぁ。面白いからだよ。二人がどうなっていくかを確かめたいだけだってコトよ」
「ワタシは悩んだよ。でも、こうなるんだろうなって予感に乗っかっちゃったんだ。結末としては綺麗かなって」
イチカはすこーしずつ掴めてきた。ユキヨが火事場のバカをやらかすのを知ってた上で手助けしてる。そんな感じ。未駒たまきを見つめると不思議な感覚になる。悪女だと思ってたのに、フツーのOLって感じだし、この中では無垢に見える。ユキヨと隣り合わせに座る彼女は似たり寄ったりの朴訥さを感じさせる。何故だろう。まぁ、酷い目に遭ったらみんなこうなるもんか。オレとしては、もうどうだっていい。ここに居るのはダルいけど、それでも居なきゃなんない。
「まぁ。よかったじゃん。結局は元の鞘ってコトだろ。んなら、いいじゃん別に」
「よかないわ。こっからどんだけめんどいことか……。テキトーに言うな! テキトーに!」「んなこと言ったってなぁ。知らねえんだよオレにゃあ。痴話喧嘩は猫も食わねえってんだろ」「それは夫婦喧嘩は。だね。イッちゃんらしいワードチョイスだけど」「でも、ワタシだって見てらんないなって気分だったんだから。どうせ何もしなくたって引き寄せ合う感じしてたからさ」「ユキノさんまでそんな事言わないでくださいよ」「私達ってそんな風に思われてたんだ。意外」「隣の芝生はなんとやらってね。たまちゃんは意外とウブだね」「なんですか! あすかさんまで揶揄って!」「面白! なんかバカみたいだな。この会話。無意味と無意味が隣り合わせで正座してるわ」「ちょっと黙ってろよ」「そうそう、イチカさんは口挟まないで」「んだよ。オレを呼ぶ為に姑息な手を使ったんだから何言われても仕方ないだろ。唯々諾々飲み込めや」「ふふ。そんな言い方しなくたっていいのにさ。ツンデレってやつだね」「これってデレてるの?」「イチカちゃんは笑いながら貶す時が一番尻尾振ってる時だから」「んな事ねぇわ!」「へーそうなんですね。だから、舞城クンとサシ飲みで尻尾ブンブン振ってるってワケですか」「ちょっとたまちゃん」「たまちゃんか。笑えるね。初めて生で聞いたその呼び方」「あすかさん笑わないでください! 舞城クン! TPOをわきまえて!」「フッ。たまきちゃんって案外脇が甘い感じなんだ」「ちょっと! 桝本さん! やめてください! 舞城クンとは違って私はアホっぽくないですから!」「アホが移ったんじゃねえの?」「んなわけあるか!」「うわ! ハモったよ」「だから、あすかさん茶化さない!」「本当に和やかだね」「それもそうですよ。色々紆余曲折あって落ちる所にやっと落ち着いた二人なんですから」「まぁ、そりゃ言えてるわな」「なんですか三人して!」
 ハァーッ……。大きく溜息つく。ユキヨはたまきを見つめると、子犬の様な目で柔らかい視線を送った。たまきはそれを感じ取ると、視線を合わせて少しだけ口角上げて微笑み返した。
 たぶん、気に食わねぇなって思ってんだろな。そりゃそうだろうよ。余りにも安直な顛末と都合良く進む物語。んなもんあるわけないって話だ。そうやって心の中で黄昏ても、今はこうやって談笑してるだけでなんかいいかなって気分になる。んなもんかな。どうだろ。そこら辺の事は残り一人が来てから考えっか。たぶんそろそろ来るはずだからさ。
「ごめんなさい。遅くなりました! だいぶ待ちましたか?」
 及川トウリが手を振って小走りでやって来た。
「おっ! 来た来た! 本命登場だ!」
 オレは手を振り返すと、あすかはトウリちゃーん!って大声上げて、ユキヨは微笑んで、ユキノとたまきは目を丸くして彼女を見ていた。この子が例の……。ってやつだろうな。
 たまきは複雑な表情で目を細くして、長い脚を畳んで座る彼女を見て、ユキヨを軽く小突いた。ビックリするユキヨ。そっぽ向くたまき。ユキノは二人を観察して思案気な表情だ。あすかは察知してニヤニヤし始めてる。トウリは丁寧に挨拶する。ユキノは深々お辞儀し、たまきは軽く会釈する。何の話してたの? って。まーた振り出しに戻るのか。ユキノは微笑みながら話し出す。一部始終を。トウリの嫉妬を見たがってるのか? それとも、この物語を更に膨らませようとしてる? わっかんねぇ人達だなってつくづく思う。でも、楽しいかもしれない。
 ここに居るみんな一つの出来事を共有して、無理繰り何かを生み出した六人。そういう解釈で云えば、それぞれに何か変化があって。それぞれ何かのチャンスがあった筈だ。おんなじ方向を見て紡ぐ出来事にハッピーもへったくれもありゃしない。オレだって複雑なモヤモヤが残る。でもさ、大きなカブみたいなことなんだよ。二人じゃ足らねーから一人また一人加わって大きな物語を引っこ抜く。
 今、ユキヨは周りの視線を浴びて冷や汗かいてやがる。オレはニヤニヤしてそれを見て、あすかと一緒に揶揄って遊ぶ。ユキノは肩肘つきながら様子を眺めて微笑んでるし、トウリは困惑と嫉妬が綯交ぜだ。たまきはそれが気に食わないっぽい。全くユキヨを見ねえ。それがたまらなくおもろい。酒を煽って、ユキヨにちょっかい出すと、たまきが視線を送って止めようとする。面白い。マジで。トウリは二人を観察して微妙な顔。さっきオレが思ったコトを考えてんだろな。似たもの同士。なのかもって。んな事ない筈なのにな。何だかそう思っちまうのも頷ける。

 話を肴に飲んで、はしゃいで、楽しんでる。なぁーにやってんだってハナシだけどそれでいいんじゃないのか。まあるく収まってもイイ事だってある筈じゃんさ。だからさ、盛り上がってるテンションで言っちゃって申し訳ないけど、この話はこれで終わっからね。
 オレは衝立に寄りかかって、アタシは立って踊って、ワタシは眺めて楽しんで、私は彼の背中をバシバシ叩く、それをアタシは口を尖らせながらチューハイを煽る、俺は何が何だかで反応に困ってしどろもどろだ。
 そんな乱痴気きの最中でも言いたい事があるんだ。この物語は十四万文字じゃ到底収まらない。何故ならコマを増やせば増やす程にストーリーが連なってゆくから。ナギサって誰なの? あすかは何者? ユキヨとイチカの出会いって一体なんだったのか? ユキノとユキヨのやり取りの意味は? 他のルートはなかったの? 実はユキノとたまきが対峙する予定だった。とかさ。まぁこっちも色々あんだよ。でも、これでおしまい。この話で伝えたいことってのは、愛がなんだ!って思ったって止まんなよってハナシさ。止まったら終わる話も止まんなきゃ進むんだ。ユキノの物語もこの一瞬一瞬に進んでる。だから、時を刻んで踏み出すのを忘れて欲しくないから。だから、救いのストーリーにした。それだけのことなのさ。僕が思ってた一番いいエンディングはコレだったってコトなんだけど、もっと文字を重ねればストーリーは変化するかもしれない。でも、人生だってそんなもんでしょ。小説みたいにあっさり終わりなんてこない。日々は続く。だから、生きよって思いなよってね。アタシから言えるのはこれだけ。ゾウにバナナあげて何もなかったようにスッキリした顔して仕事してりゃあイイんじゃない? ってね。転がれば芽は出るもんさ。だから、諦めないでね。僕はキミが転がる日々を見守っているからさ――。



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