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「愛がなんだ!ってんだコノヤロウ!!!」第六話-その2【長編小説】

※第一話はコチラ! 第二話はコチラ! 第三話はコチラ!第四話はコチラ
 第五話は
コチラ

↓ 前回のおはなし。



——足元を見つめながら、ボンヤリとした頭で、トウリが淡々と話す内容とあの日の光景が重なっていた。オレが知ってるのはここまでだ。

「それで、イっちゃんからユキヨくん家の場所教えてもらうの忘れたから、アタシの家にタクシー呼んで行ったの」
 トウリがそう言うと、ユキヨは恥ずかしそうな顔で俯いている。
「店員さんの手を借りよっかなって思ったら、急に立ち上がって、あれイチカはどこですか? って言ってキョロキョロしてるから、イっちゃんは終電近いからもう帰っちゃったよって言うと、何でですか? アイツ帰りやがって! とかって言いながら動き出したから、これなら大丈夫かな? と思って、ユキヨくんにお金もらって一緒に支払いも済ませて、その間にタクシー呼んでもらったりもしたんだ」
 あすかはポカンとして、
「え? その間ユキヨクンは普通に帰り支度とかしてたってこと?」と、不思議そうに聞くと、
「うん。その時はけっこう普通に見えたんだ。テキパキ動いてたし、店員さんともやり取りしてたし。でも、アタシのこと見ても、ぽわんとした表情してたから、これわかってんのかな? とか、時折、イチカーなぜ帰るーって喚くから、なんかおかしいなとは思ってたんだ。でも、タクシー着くまで席で大人しくして、お冷とかもらってちょっと雑談したりしてね」
「その時のことって覚えてる?」あすかはユキヨに聞いた。
「それが……全然……。覚えてなくてですね……」申し訳なさそうに顔を赤らめた。
 そりゃそうだろう。あの時の飲みっぷりだとすぐには起きないから。オレはその事をよく知っていた。だから、敢えて放っといたんだから。
 トウリは話を続ける。「それでタクシーが着いたって教えてもらって、じゃあ、行こっ! って言ったら、フラフラ歩き始めて、それでタクシーまでは行けたの。だから、大丈夫かな? って思って様子見てたら座席に、もたれかかったまま寝ちゃってて、運転手さんが声を掛けても反応しないから、慌ててアタシが乗り込んでとりあえず出してくださいって言って。舞城くんに家どの辺? って聞いても返事がないから、運転手の人もその様子を見て、どちらに行かれますか? って聞いてきて、仕方なくアタシの家に向かってもらうことにしたの。簡単に道を伝えてね。すぐ着いちゃって起きる気配ないから、お金払って肩貸して、そしたら舞城くんも私に寄りかかるようにして降りてくれてね。それでありがとうございましたって運転手の人に声掛けたら、部屋まで連れてくの手伝おうか? って聞かれたから、いえ大丈夫です。お気遣いありがとうございます。って返して。そしたら、ちょっと不憫そうな顔して、お嬢ちゃんも彼氏さんがこんなだと大変だね。頑張ってね。って言われちゃって。そうですね。って笑い返して」トウリが複雑な顔しながら、照れ臭そうにそこまで言うと、
「ふーん。なるほどねぇ」と、あすかはその後を想像するように視線を上にあげた。

——トウリはアパートの階段をコトコト音を立てて上がる。近所迷惑にならない様にゆっくりとできるだけ音を出さないようにして。私の肩に凭れ掛かったユキヨはスースーと寝息を立ている。かろうじて足は動いているけれど行き先は分かってないだろう。私は片手をバッグに突っ込んで鍵の在処を探る。ジャラっと音を立てると金属の冷たい感触がした。指で摘んで引っ張り上げると鍵の束を指先の感覚だけで当てる。玄関口は街灯で微かに照らされているものの、手元まではよくわからない。けれど、慣れた手付きで片手で鍵を選り分け鍵穴に差し込む。彼の重心は前に行ったり後ろに行ったりしているけれど、私に体重を預けない様に気を遣ってるみたいで、凭れ掛かられてもそれほど大変じゃなかった。玄関を音を立てない様に慎重に開けると、彼に部屋に入る様に促す。彼の背中をぽんぽんと叩くと、そういうおもちゃみたいにトコトコと私の部屋に足を踏み入れた。彼は自分で靴が脱げないみたいで、私はしょうがないなあって笑うと、玄関から伸びる廊下にバッグを放って彼の靴を脱がす。少しくたびれた、艶やかな黒い革靴。それを私のヒールの横に揃えて置いた。彼は私の肩を借りながら、廊下の壁に手をついて、トウリさん……と呟く。はいはいトウリですよ、って返すと彼はスースー寝息を立て始める。気まぐれに目を開けては、私のことを見つめる。そんな彼を部屋に招き入れて、ベッド脇に横たわらせる。彼は寝息を立てながら目を瞑ってしまった。私は、しょうがないなって呆れ顔をしながら台所から水の入ったコップを持ってくる。部屋の中央に置かれた座卓には彼の鞄と水の入ったコップが乗せられた。私が、彼に、ほら水飲んでって囁くと、彼はトウリさん……ってボソリと言い、そのまま体勢を変えて私の肩から背中に向かって手を回してしなだれかかる。私は彼の背中をさするともう片方の手で頭を撫でる。そのまま彼は私の肩に顔をうずめて、両手でぬいぐるみを腕で挟むように抱きついた。優しく。柔らかく。私の心まで抱きしめられた気分になる。私は彼の肩をちょっと押して胸元を見ると、寄れたネクタイと一番上まで閉められたシャツのボタンに目をやる。彼はスースーと寝息を立てて心地良さそうだ。ちょっと首元がきついんじゃない? と私が言うと、コクンと首だけ振って頷いた。私はふふって笑って彼の首元に手をやってネクタイを外し、シャツのボタンを上から二つ外す。シャツの隙間から彼の鎖骨が覗く。トウリさん……彼はそう呟くと、私のワンピースの隙間から右手を入れて素肌に直接抱きついた。何してんの、って微笑みながら言うと、譫言のようにトウリさん……トウリさん……と、呟いて、左手は腰元から背中に向かってワンピースの上からぎゅっと。右手は私の左肩を通って素肌に。彼の右手の親指がブラのホックに引っかかった。私は、ちょっと、って言っても、彼は目を半開きにして寝息を立てる。半開きの視線の先に何を見ているんだろう? 私は彼の顔を覗き込む様に顔を近づける。ベッドの壁側の窓から月明かりが白い帯のように差し込む。台所の小さな窓には街灯の灯りがボンヤリと光っている。私は月明かりに照らされた彼の表情を窺う様に鼻先を近づけて、彼の背中に回していた両手を自分の肩に持っていくと、両肩に掛かったワンピースを腕から外す。彼の腕を手をやって誘導して、私の肩からワンピースが離れる。黒いレースがついたブラジャーが顕になる。ほら、来て。そう言って、私が両手を広げると彼は私の右肩に顔をうずめるように抱きついた。ふふって私は笑って、ほらこっちだよって彼の手を胸へ導く。その時に彼と目と目が合って、自然と彼の鼻先を通って唇と唇が近づく。彼の手は促されるままに私の右胸を下から挟み込む様に柔らかくにぎって、二人の口は一回だけ、ちょんと触れ合って、そして瞳を見つめ合いながら、唇と唇が力強く重なって……——。

 あすかがそこまで描写したところで、
「はいはい! ストップ! ストップ! 何でそんな言葉がほいほい出てくんだよ! 官能小説家か!」と、オレが流れ出る言葉を止めた。
 あすかは照れたそぶりでおちゃらけて「これが本業なもんで……つい」と、舌を出して戯けてみせた。
「いや! お前は官能小説家ではないだろ! そんな仕事もしてたのか⁉︎ って二人を見ろよ! 顔真っ赤にして見てらんねえわ!」
 トウリとユキヨは耳まで真っ赤にして、あすかの官能ワンナイト妄想物語を聞いていた。たぶん、恥ずかしくて言葉が出なかったんだと思う。そもそも、トウリの家はアパートじゃなくてオートロック式のマンションだし、玄関はスマートロックで鍵穴に差し込まなくたってドアが開くタイプの部屋だ。
 けれど、二人の反応を見てると、近からず遠からずといった雰囲気だったのだろう。悪いけれど、オレだってあすかの妄想に近い事を頭の中で想像していた。
 ユキヨが「あのー。もうやめて次いってください。そうなったようななってないような感じのトコまでいったって体で話を進めていいですから」と、顔を真っ赤にしたまんまに言った。
「やることやってんじゃんユキヨちゃんよおー」と、オレが揶揄って言うと、
 トウリが「もう! 茶化さないでよ! めっちゃ恥ずかしいんだから!」
「恥ずかしい何かがあったってこと?」
 あすかが臆面もなく聞くと、
「うーーーん……近いことになった! なったの! でもね、本格的な雰囲気になるって時に、ばっ! って目が覚めた感じに……覚醒してね。キョロキョロして、ここどこですか? って私に聞いたの」
「ユキヨらしいわ。思い浮かべたらマジで笑える!」オレは腹を抱えて笑った。
 ユキヨは「笑い事じゃあない! 俺、マジでびびったんだから。どこ? ここ? って。全く知らない綺麗な部屋で、目の前にトウリさんがいるし。思わず立ち上がって、どこですか? どうなってるんですか? って聞いちゃったんだぞ」
 オレは一層笑いが止まらなくなった。
 あすかが「その時に酔いが覚めたってこと?」と聞くと、ユキヨは頷いて、
 「なんか、柔らかくて甘い香りがして少しクラクラして気持ちいいなあって……そんなボンヤリした感じがあって、ここで寝ちゃいたいなって心地よいなぁってこのままやわらかい世界で休んでたいな……って思った時に、ん? 何でこんなフワフワのやわらかい感じになってるんだ? って思って、あれおかしいぞ! って思ったら頭が働いてきて、目が冴えてきたら、目の前にトウリさんが居て、ユキヨくん……って言ってて、え? え? ってなって、服ははだけてるし、なんか抱きついてるし、コレよくない! って思って、ばって立ち上がって、どこ! って」
 ユキヨはトウリから顔を背けて、青ざめながら言った。
 そこまで聞いていたトウリは口を開いて、
「アタシ言ったの。ここは私の家だよ。続きしよって。そしたら、いやいや! だめだめです! って言うからアタシ頭にきちゃって」
「すんごく怒られました。は? 何考えてんの? ここまできてダメってなに? って。何考えてんの? って」ユキヨは背中を丸めて足元を見ながら言った。
「マジで想像できるわ」オレは笑いが堪えられなかった。
 トウリはオレの笑った姿を見て「イッちゃん! アンタのせいなんだから笑うんじゃない!」と、怒って、
「ユキヨくん謝んだよ。ごめんなさい! 知らなくて、酔ってて。って言って、ぺこぺこ頭下げてね。それに説教したの。貴方ね、女の子の家上がって途中で逃げ出すって頭おかしいんじゃない⁉︎ って」
「そりゃ狂ってるとしか思えんわな」オレが笑うと、トウリはギロリと睨みつけて、
「それはアンタが余計なことしたせいでしょうが! ユキヨくんは、そんなつもりもなかったし、まさかそんなことになってるなんて、ってうろたえてて、私がふざけんな! って言ったら、本当にごめんなさい。でも、初めて会った人とその日にするとかって自分は嫌なんです! って言って、荷物纏め始めるから、ちょっと待て! って言って、したいんでしょ? したことないから、したいしたいってイッちゃんに言ってたんでしょ! って言ったら、何のことって顔して、いや……わからないです……。って。酔った時に言ったのかもしれないけど、基本的に俺はそういう感じに思ってなくて、一夜限りの……とかっていうのは考えてないって。それで、日和ってんだろって思って、ふざけんな! 謝れ! ってクッション投げつけて。そしたら、ユキヨくんがごめんなさいって床に額つけて謝ってさ。それにまた腹立って、だからウジウジなんだよ! ってキレて、荷物抱えさせたまま、服もはだけたまんまで部屋追い出して、もう二度と来んな! いじけ虫が! って言葉ぶつけてさ」
 ユキヨはどんどん縮んでいく。それに比例してオレ笑いが膨らんでいく。
「やべー。マジ想像したら、ヤバい。想像つくわ。笑える!」って止まらない笑いを続けながら言った。
 ユキヨが、「でもさ、なんかおかしいなって思って、だって俺ん家近いのにトウリさんの家に居る意味がわかんないし、イチカには帰る時にはトウリさんに迷惑かけたくないから連れて帰ってくれよって頼んでたし、その場合ってタクシーで俺ん家の場所教えてもらってって流れになってたから、イチカが何か忘れてんだか、それとも変なことしたなって」
「アタシもおかしいなって気づいたんだよ。飲んでる時に時間は気にしなくていいし、イチカに頼んでるから帰りも迷惑かけないんで。って言ってたの思い出して、あれ? ってイッちゃんそんな事言ってなかったなって。それで、おかしいぞって。イっちゃんにLINEしてさ。そしたら一日経っても返信こないの! それで、ユキヨくんの連絡先も交換してたの思い出して、でも、二度と来んな! とか言っちゃってるから、送りにくくて……。でも、事の次第を確かめなきゃなって。それでユキヨくんに連絡して」
 あすかはその話を頷きながら聞いていた。真面目な顔をして聞き手にまわっていたけれど、そこで会話に挟む様に、
「ユキヨくんに聞いた訳だ。あの時になんで帰ろうとしたの? って。飲み会のことから詳しく教えて? って」
 うん。と、トウリが頷いた。ユキヨが、
「トウリさんから連絡があって、怒ってるのかな? って怖かったんだけど、詳しく話を聞かせてって言われて、俺は二人で普通に飲もうって聞かされてただけです。って。それで、トウリさんのことは何にも知らなかったし、イチカに帰る時に手伝って伝えておいたつもりだったんです。って返信して」
「それで、何かおかしいな? って。イッちゃんに何回かLINEしたの。あの日にユキヨっ子と寸前までいったのに逃げられたんだけど何で? って。そしたら、アイツはそういう奴だから仕方ねえよ、って返ってきてさ、何か変かもって思ったから、ユキヨくんはイッちゃんに帰りの介抱を頼んだって聞いたんだけど。って送ったら、そこから音沙汰なしなの。それで頭にきて、もう二度と連絡するもんか! って思って、とりあえずユキヨくんに、この間は暴言浴びせちゃってごめんなさい。イチカちゃんと連絡とれないから、たぶんイチカちゃんが悪さしたんだと思う。ホントごめんなさい。って送ったの。」
 イチカはユキヨを見ながら申し訳なさそうに言った。
「俺もそれを見て、おかしいなって思って、今度イチカに会った時に聞いてみます。こちらこそ情けない姿をしてしまい、すみませんでした。って返したんだ」
 そう言うと、ユキヨはやっとイチカの方を向いて、あらためてごめんなさいと誤った。
 イチカもこちらこそごめんねと言った。その姿を見て、
「それで、今日改めて話し合いましょうってなったんだね」と、あすかが補足するように言った。
 そして、こちらを向くと「で、イチカちゃんはこの事に対してどうお考えですか?」と、聞いてきた。
「どうお考えったってなあ。悪かったなとは思ってる。さっきは笑っちゃったけど、でも、ユキヨの為になるかな……って思ってやったからさ……」
 語尾につれてボソボソ呟くように言うと、ユキヨが割り込むようにして、
「イチカさ! そういういらん気遣いはやめてくれよ! 俺はさ、あの時、確かに男としてこれはダメなのかもしれない。女の人の家に上がり込んで、その上しなだれ掛かっておいて逃げるなんてダメだ、って。でもさ、イチカさんが泣いてるからさ、泣きながら行かないでよ! って言うからさ、これはダメなんだ! って思ったんだよ。イチカさんがどういう気持ちで家に招いてくれたか、それでどんな気持ちで介抱してくれたか、それを考えたら余計に悪い気がして、それに嫌なんだよ。そうやって一晩でも気持ちの穴を埋めたいからって後付けで理由付けてでも、いい加減な夜を過ごすってのがさ。だから、謝ったんだよ。だってさ。気持ちがまだわからない間に近づきすぎちゃうと傷つけちゃうかもしれないだろ!」
「そんなんだからダメなんだよ」
 オレは、ぼそりと呟いた。
「ダメなのはイッちゃんだよ。私、悲しかった。イッちゃんが私を利用したんだっていうのも、ユキヨくんが頭下げるのも惨めに感じて。ユキヨくんは私の前で何度も謝るの、傷つけてごめんなさい、でも、トウリさんの気持ちがわからないままにそういうことをしたくないんです、って。その言葉に惨めさを感じて辛くなって、物いっぱい投げて追い出して、ぐちゃぐちゃになった部屋を見返してまた泣いてさ。イッちゃんの事が嫌いになってっちゃったよ」
 トウリは言いながらポロポロと涙を溢していた。その姿を三人で黙って見ていた。
 オレは後悔した。あの時、これでいいって思ったことも、その後に二人から来る文章に返事しなかったことも。逃げてた。ユキヨを心配してっていうのは口実だった。ユキヨと一緒にいる為に何かしてやりたいって気持ちがおかしくなって、変な考えに魔が刺した。でも、言えなかった。ごめん。って。オレはまた足元を見た。
 そうするとユキヨが、「それでさ。あの後に何回もイチカに聞いたじゃん。どう考えてんだ! って。お前は笑ってはぐらかそうとして、そんなんだから男になれないんだよ! とか無茶苦茶言ったりして。でも、反論はしなかったから、こんなこと言ってない! とか、そんな話してない! とか、そういう言葉を使わなかったから。だから、お前はお前なりに反省してんだろうなって思って言わなかったんだよ。いつか、トウリさんを交えて、ちゃんと話し合う時までは取っておこうと思って」
「それで今日集まることにしたんだ」あすかが言った。
 ユキヨはイチカとトウリに顔を向けて頷いた。
「うーん。第三者的に聞いてて思ったんだけど、今日はイチカちゃんとトウリちゃんの仲直りをさせようって会にしたかったってことな気がしてきたんだけど。合ってるかなユキヨクン?」あすかはユキヨに爽やかな視線を送った。
 ユキヨはトウリを見つめながら、
「はい。そうしたいなって思ってました。普通に言っても逃げようとするし、イチカが喰いつきそうな話題でも作らないと、まともに話し合おうとしないだろうなって思って」
 そう言ってからトウリにハンカチを手渡した。トウリはありがとう。と小声で言って、ユキヨを見つめた。
 あすかは「そうゆうことらしいよ、イチカちゃん! おてんば娘のイタズラが行き過ぎたから、手を貸してくれるって言ってるんだよこの子。素敵じゃん」あすかはオレを見て、何か喋るように促した。
「オレは……。オレは。ごめん。本当に悪かった。ユキヨの為とか言って勝手やって、トウリちゃん傷つけちゃって。本当にごめんなさい」
 オレは頭を深く下げて謝った。二人に対して心から謝った。
 あすかはフフフって笑って、
「ちゃんと謝ったし、許してあげてもいいんじゃない? トウリちゃんもここに来てくれたってことは、イチカちゃんと向き合って話して仲直りしたかったんだろうし」
 イチカは無言で頷いた。ハンカチに顔をうずめながらうんうんって。
 ユキヨはオレを見ると清々しい表情で笑った。その後にイチカを見て、
「イチカさん。今日来てくれて嬉しかったです。ちゃんと話せてよかったって思います」と、言った。
「そうゆうこと言うからこんなんになっちゃんうんだよ。もう!」と、言ってユキヨを小突いた。
 オレは二人の姿を見て、自分がどう思われてるのか少しだけ理解できた気がした。大切にされてんだな……って。オレがユキヨを構ってるんだと思ってたけど、ユキヨがオレを構ってくれてた部分もあったんだって知って不思議な気分がした。誰にでも優しい。それってオレに対しても優しいんだなって。だからか……って。二人をボンヤリと見つめながら視界が滲んできた。柄にもなく感傷的になってる自分が恥ずかしかった。
 あすかは三人の姿を見て「じゃあ、少し仕切り直して、乾杯して、ちょっと歌おっか!」と言った。
 オレはトウリちゃん涙ぐんでるしまだ早いだろって言ったけど、トウリは、いや! せっかく四人集まったんだし盛り上がろうよ! って言って、ハンカチをバッグにしまってリモコンを手にした。あすかはルームサービス♪ と楽しそうに言って、メニュー表を眺めた。トウリはユキヨの腕をとって、一緒に歌おうよ! と誘ってる。相変わらず未練があるんだな、と思いつつ、ユキヨは普通にそれに付き合って選曲画面を指差している。オレはレモンサワーを一気に飲み干して、
「おっしゃあ! デケェ部屋で、このメンツなんだ! 今日は騒ぐぞー!」って言って景気付けに四人分の酒でも頼もうぜ! と、あすかの肩に手を回して言った。
 あすかもそれ賛成ー! と言って一緒に盛り上がった。


―― 第7話はコチラから!

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