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#雨の日の午前3時

30
古性のちと佐田真人のゆるい共同マガジン。 10日に1度、お互い交代でお題を出しあい同じテーマでショートショートを書いています。 24:02に更新。 やさしい時間をとどけます。
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2018年2月の記事一覧

不器用だからこそ見えるもの

不器用だからこそ見えるもの

(今週の共通テーマ:手のひら)

心の中にある感情を、うまく言葉に変換するのが苦手だ。
言葉を噛み締めて、じっくりじっくり、考えてしまう。
ようするに、口下手な人間だ。

「多分あのとき、こう言いたかったんだな」と気付いたときには、相手はとっくのとうにその場からいなくなっている。
おかげさまで、相手に届かずに志半ばで死んでしまった言葉たちのお墓の敷地は、広がるばかり(たまにお参りにいく)

ペラペ

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きっとそれは日常が色付く魔法のようなもの

きっとそれは日常が色付く魔法のようなもの

(今週のテーマ:手のひら)



日中の日差しが恋しくなる少し肌寒い日のこと。今日もいつもと変わらず1日アポ続きで、本日最後、4件目の打ち合わせだった。

夕方になる頃にはやや疲れが出てきたが、ジャケット一枚羽織って歩ける、心地よい気温が唯一の救いだった。

最後のアポイントは、とある大手企業との打ち合わせで、今回が2回目の訪問だった。このための準備はしっかりとしてきたし、何事もうまくいくような

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雨の空港

雨の空港

(今週のテーマ:空港)



夜中の空港は昼間の活気とまではいかないけれど、これから始まるであろう大なり小なりの心踊る”なにか”を感じることができる。

友達同士で旅行の最終計画を練っている人たちやカフェでPCとにらめっこするビジネスマン、ベンチで肩を寄せ合うカップル。

ここをはなれるまでのほんの数時間、みな思いおもいのひとときを過ごす。夜中の空港は昼間のそれとは違い、一人ひとりの旅路を鮮明に

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君が思い出になる前に

君が思い出になる前に

(今週の共通テーマ: 空港)

「到着便のご案内をいたします。アルゼンチンからのEK318は、ただいま到着いたしました」

ついに来た。

指先に、ぐっと熱がこもる。僕は片手に持っていた、もうすでにだいぶぬるくなってしまった缶コーヒーをぐいっとあおった。甘さで舌がざらつく。

僕は空港が嫌いだ。
世界中とつながっているせいで、大切なものを、手のとどかないほど遠くまで、簡単に運んでいってしま

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真夜中のさんぽ

真夜中のさんぽ

(今週の共通テーマ:真夜中の散歩)



またどこからか、何度目かわからぬ夜がやってきた。

右、左、右、左、右。
自分の足が地面をとらえていることに、それを頭がきちんと自覚できていることに、とたん、嬉しくなる。
静かなまち。誰もいない道。ドクン、ドクン、と一定のリズムを刻む自分の心臓の音だけに、耳がかたむいていく。

どうやら今日もちゃんと「わたし」が帰ってきた。
おかえりなさい。
ただいま。

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真夜中散歩

真夜中散歩

(今週のテーマ:真夜中の散歩)



スマホとサイフ、家の鍵をポケットに入れ、まだ冷めきらぬ身体を外に出す。まだ乾ききらない髪の湿気を振るいながら、歩き始める。

白いTシャツに肌触りのよい短パンの寝間着姿だったが、日中の暑さからは一転し、すこし肌寒いぐらいだった。

自宅から徒歩9分歩いたところに、ひっそりと住宅街に溶け込むコンビニがある。そこでまずは食べたいアイスを買って散歩するのが、毎週休

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大人になったなあって思う瞬間

大人になったなあって思う瞬間

(今週のテーマ:喫茶店)



軽快なジャズピアノが流れる店内。久しぶりに友人と話す場所としては、我ながらナイスな選択だった。

「大人になったなあって思う瞬間、ある?」

唐突に友人が、そう尋ねてきた。彼のブラックコーヒーを眺めながら、初めて喫茶店に訪れたときのことを思い出す。

とある男性が、質素なブレックファーストにホットのブラックを飲んでいる最中、ある女性と出会う。映画冒頭のワンシーンの

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喫茶「ねこのひたい」

喫茶「ねこのひたい」

(今週の共通テーマ:喫茶店)



カラコロと小気味よいベルの音が、乾いた大地に響きわたる。細くあけたドアの間からは、パラパラと細かなオレンジの砂が舞い込んできた。
今月は、まだ雨が降っていないからだろう。ぽつり、ぽつりとわずかに生えた緑たちも首をうなだれている。

オレンジの砂の山の向こうに見える空が夜のベールを脱ぎ、薄紫色の化粧をはじめている。こういう日は特別に暑く、雲ひとつなくなること

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