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蚊遣香が慕わしい追憶を連れてくる


初夏より秋まで様々な品種が楽しめる桃。
桃の一大産地のひとつである岡山の桃の果皮は乳白色のものが多く、産直に並ぶ収穫されて直ぐの白桃などは淡く緑がかったものも多い。ほんのりと紅い桃が一般的だった地域に住んでいたので、大層不思議な気持ちにさせられる。
追熟をゆっくりと待ち、優しい芳香が立つ頃に食べる桃。まさに天上人の食べものだとしみじみ思う。少し冷やしてそのまま食べても美味しいが、桃モッツァレラにすると永劫的に食べていられる。

中々お見受けしない蟠桃が恋しく、ワイン用の葡萄の収穫のニュースが流れ、今年もまた桃から葡萄へと売り場が変化していくのを静かに見守っている。



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◎ひとりでカラカサさしてゆく - 江國香織

或る大晦日に八十代の三人が猟銃で命を絶つ事件が世を騒がせる。残された身近な人らは喪失感に何を想いどのように生きていくのか。三人の生涯とはどんなものだったのだろうかと各々振り返り偲ぶ。

自死という触れ難いテーマを扱ってはいるが、江國香織さんの独特な情趣ある雰囲気はそのままに、曖昧という生々しさと年齢を重ね得ることが出来る優雅さを垣間見る。後悔はあれど、この小説の三人の様に濃密に人生を重ね生きたい。

生者よりも死者の方を身近に感じるなんてへんですね。

p.227 より

家族や恋人や子どもの有無に問わず、生きていく上で決断をするときは、自身の力で、ひとりで、決めねばならないのだ。望まなくとも日々刻々と変化する様々な事柄に、わたしたちは何となしに折り目を付けて生活は続いていく。


◎炉辺の風おと - 梨木香歩

八ヶ岳の山荘での暮らしを綴られたエッセイ。"生活"をするということは何なのか振り返る機会をくれた。

梨木香歩さんの書く文章は自然そのものだと思う。図鑑を思わせる豊富な山野草や野鳥に、四季の移り変わりの壮大さや豊かさを表現する思考力と真摯な姿勢に、畏敬を感じずにはいられない。

散策していて自然が何気無く齎す美しさに目を奪われて立ち止まったとき、絵画の中に吸い込まれてしまった様な気持ちになる。強い風が駆け抜けていくひやりとした寒さにはっと引き戻される。

曇り空の湿原や潟が好き
水が青く見えることにしっくりきていない

自然の中を探索したいという気持ちでいっぱいになるのだが、北国から瀬戸内海へと引越してきておおきな環境の変化に辟易としてしまい、足を伸ばせていない。


◎坊っちやん - 夏目漱石

或る週末に愛媛で開催されている展示を見に行こうと決まり、日本三代古泉のひとつである道後温泉にも足を伸ばすことにした。愛媛の松山といえば「坊っちゃん」。随分と近代文学に触れていないと思い、青空文庫のアプリを再ダウンロードしてみる。

不器用で頑なな青年が愛媛で教師となり奮闘したひと月の物語。個性豊かで人間味溢れる人らと関わり、様々な理不尽へと立ち向かっていく。
キャッチーな登場人物と軽やかに物語が展開されるので、酷暑のはじまりの一冊に丁度良い。青空文庫は歴史的仮名遣いを選択することも出来るので、辞書を片手にじっくり浸るのも楽しい。

湯玉と白鷺の装飾があちらこちらにあってかわいい

道後温泉の泉質はアルカリ性単純温泉だそう。なめらかで湯温も落ち着いているので、ゆっくりと旅館で湯治を楽しむのに向いている。火照った身体に流し込む道後ビールや爽やかで甘い蜜柑のジェラートは至高が過ぎた。

わたしは国重要文化財のひとつである萬翠荘に、歴史好きの夫は坂の上の雲ミュージアムへと足を伸ばしお互いにじっくりと良い小旅行を過ごせた。古いものを大切に活用している松山のまちがとっても好きになった。


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猛暑日が続いて殆ど家で過ごしていた。強い陽射しに洗濯物が気持ち良く乾くものだから、普段は億劫な洗濯が楽しくて仕様がない。天空の城が隠れていそうな入道雲を傍らに涼しくしたお部屋でそれはそれはまったりと口福を楽しんだ。

「金魚」
金魚が泳いでいるかと錯覚してしまう位に造形美がきらめく錦玉羹。檸檬や黒豆が美しい庭園の池を模しており、その中でのびのびと泳ぐ金魚を眺めている気持ちにさせられる。
もち食感ロール、高知県産ゆず&レアチーズクリーム
ローソンに売っているもち食感ロールがとても好きで、期間限定のものを見つけるとつい購入してしまう。さっぱりとしたクリームのものを口にしたのははじめてで、幸福もひとしお。
「水牡丹」「琥珀」
上生菓子をあたたかいとうもろこし茶と頂く。夏は涼し気な寒天が使われた御菓子を選びがち。特に「琥珀」には大徳寺納豆が使われており、きっと本物の琥珀を口にしたらこの様な風味なのだろうという濃厚な甘さだった。
カンパーニュたち
商店街へ足を伸ばす度に気になっていたパン屋さん。ボードにあったバジルと伊予柑のカンパーニュにそそられて。もちもちとした食感に小麦の優しい香りのお惣菜カンパーニュに、ごはんもおやつも充実した楽しい時間に。



「きのう何食べた?」のドラマをNetflixで見返している。

史朗さんの工夫がいっぱい詰まった美味しそうな家庭料理に、一筋縄でいかないもどかしさと人を理解をするということの難しさに胸が締め付けられる。ふたりの楽しい生活にも年齢ならではの悩みや尽きない不安に泣いてしまうこともしばしば。

随分と年数が経ちふと振り返ったとき、出来るだけ後悔がないように日々を大切に過ごしたいと考えることが増えた。その為に自身の選択に後悔のないように、重い腰を軽く出来るように、知見を広げていきたい。もうひとりではないのだから、わたしたち夫婦にとっていい選択をしていきたいと日々ぐるぐるしている。
手始めに昨晩は栗ごはんを炊き、栗のほっくりとしたフルーティーな香りに夢現な重陽の節句を過ごした。




ここまで読んで下さりありがとうございます。 お気持ちとても嬉しいです🕊🌿