野池政宏

「住まい」と「環境」が重なるところをテーマに仕事をしています。趣味は球技(サッカー、テ…

野池政宏

「住まい」と「環境」が重なるところをテーマに仕事をしています。趣味は球技(サッカー、テニス)とアコギ。大阪在住。

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  • 寄稿&インタビュー「手刻みの未来を考える」

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    日本の技術継承と手刻みの可能性について様々な角度から発信しています

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2050住宅部門カーボンニュートラル推考⑧全館空調問題(続編)

「TEAM2050」の再確認続編に移る前に、昨年から私が提唱している「TEAM2050」とはどんなチームなのかをここで改めて再確認しておきたい。 TEAM2050というのは、2050年に向けて「我が国全体の住宅の温熱環境の最良化」と「住宅部門カーボンニュートラル」の両方の実現を目指すチームのことだ。国が目指すカーボンニュートラルには、(当たり前だが)温熱環境についての目標は定められていない。しかし我が国の住宅の温熱環境はまだまだ不快で不健康なものであり、この課題も一緒にクリ

    • 2050住宅部門カーボンニュートラル推考⑦全館空調問題

      最近になって暖冷房の方法の多様化が進んだ。その基本的な方向は全館連続に向かうものであり、これまでの貧しい居室間欠に比べると温熱環境を改善することは間違いないが、エネルギー消費量は増加する。このトレードオフをどのように考えるかは我々にとって極めて重要な課題だ。今回はこのテーマについて少し深掘りしてみよう。 新しいタイプの暖冷房の整理最近になって再注目されたり、登場してきた暖冷房の方法は次のように整理されるだろう。 ①集中管理型ダクト式全館空調システム ヒートポンプを使ってつく

      • 2050住宅部門カーボンニュートラル推考⑥戸建てチームのシナリオ解説(その1)

        前回では2050年住宅部門カーボンニュートラルを実現すると推定する、以下のような2つのシナリオを提示した。 ①既存太陽光設置重視型 ②既存改修重視型 今回から、この内容について補足解説していこう。 新築(平均BEI)■平均BEIが意味すること                       まず「平均」というのは、設定している期間についての平均値であり、たとえば2030年までであれば、2022年~2030年の期間の平均値を示している。実際のBEIは向上していく(数値的には

        • 2050住宅部門カーボンニュートラル推考⑤戸建てチームのシナリオ

          またまた重い仕事が重なって、前回の投稿から大きな間が空いてしまった。いま住宅部門のカーボンニュートラルに関する議論がどうなっているかは不明だが、とりあえず私としての現時点での結論(戸建てチームが向かうべきシナリオ)をご紹介しておきたい。 国交省のシナリオまずは国交省のシナリオ(計画)を再度整理しておこう。なお、以下の数値には国交省から公開されているもの(たとえば新築の戸数割合)と私が国交省の資料等から推定しているものとが混在している。これをいちいち注釈すると読むときにややこ

        2050住宅部門カーボンニュートラル推考⑧全館空調問題(続編)

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        • 2050住宅部門カーボンニュートラル推考⑥戸建てチームのシナリオ解説(その1)

        • 2050住宅部門カーボンニュートラル推考⑤戸建てチームのシナリオ

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          2050住宅部門カーボンニュートラル推考④太陽光発電、総合評価

          前回は太陽光発電を除いた省エネ量の計算について述べた。そもそも国交省の住宅部門の省エネ量計算は太陽光発電を加味したものではないからだ。しかし当然ながら実際には、太陽光発電の評価を加味した上で2050年に住宅部門の一次エネルギー消費量がどうなるかを見る必要がある。ということで、今回はそのあたりから始める。 太陽光発電の評価計算 ご存知のように、国は新築戸建て住宅への太陽光発電の設置割合を60%にすると言っている。ツールでは、まずはこうした評価ができるようにし、それ以外に新築

          2050住宅部門カーボンニュートラル推考④太陽光発電、総合評価

          住宅部門2050カーボンニュートラル推考③ツールの紹介と国交省の省エネ計算

          さて今回からは実際にシミュレーションをやっていこう。今回はツール(住宅部門2050エネルギーシミュレーション)の全体をご紹介しながら、国交省の省エネ量の計算方法や結果を確認する。 戸建て住宅の入力と計算 次の画像は「戸建て住宅の計算」のシートの最初のところだ。このシートには改修による省エネ量の計算も含まれているが、まずここでは新築の計算を行う。 新築の計算を行うために、まず新築住宅の性能を設定するのだが、このツールでは「1)国交省の想定による方法」と「2)新たなパターン

          住宅部門2050カーボンニュートラル推考③ツールの紹介と国交省の省エネ計算

          住宅部門2050カーボンニュートラル推考②国交省の省エネ量計算を分析した理由

          2回目の今回は、タイトルにもあるように、私がなぜ膨大な時間をかけて国交省の計算分析をしたのかについて述べたい。が、その前にこの連載に使っている写真が気になる方がいると思うのでそのことについて触れておこう。ここにある「TEAM 2050」というのは、2021年10月に初めて発表した言葉で、「2050年の住宅について、快適・健康の最大限の実現とカーボンニュートラルを目指すチーム」という意味だ。 これは何かの団体をつくろうというわけではなく、このことに賛同する人や会社が「自分は(

          住宅部門2050カーボンニュートラル推考②国交省の省エネ量計算を分析した理由

          住宅部門2050カーボンニュートラル推考①国交省の省エネ量計算の考え方

          昨年開催された再エネタスクフォースやあり方検討会を追いかけ、ブラックボックスだらけの国交省の省エネ計算ロジックを分析してつくったシミュレーションツール(住宅部門2050エネルギーシミュレーション)を公開したのが昨年の11月。その後何かと重量感のある仕事が続いてしまってこのテーマの記事を書けない状況になっていたが、ようやくそのあたりの仕事が片付いた。満を持して書き始めることにしよう。 2030年時点での省エネ量2030年温室効果ガス46%削減(2013年比)という新たな目標が

          住宅部門2050カーボンニュートラル推考①国交省の省エネ量計算の考え方

          温室効果ガス46%削減と今後の住宅施策(第6回 2021年8月16日記載)

           8月10日にあり方検討会の最終回が開催され、今後の住宅・建築物分野の省エネ対策のあり方・進め方のとりまとめがほぼ完了した。17日にはタスクフォースも開催されるので最終的にどうなるかはまだ不明なところはあるが、おそらく基本的なところは見えてきたと判断してよいだろう。  ということで、今回はあり方検討会のとりまとめの内容を簡単に分析しつつ、その評価をしてみたい。 全体としては大きな進化を遂げた あり方検討会やタスクフォースの委員の人たちの相当な努力、そして河野大臣の厳しい指

          温室効果ガス46%削減と今後の住宅施策(第6回 2021年8月16日記載)

          温室効果ガス46%削減と今後の住宅施策(第5回 2021年7月21日記載)

           昨日は再エネTFから差し戻しされた格好のあり方検討会が開催された。このシリーズの第2回でまとめた「今後の注目点」を見ながら、今回のあり方検討会の内容について簡単にコメントしておこう。なお、このあり方検討会は少なくともあと1回は開催される。 ■住宅・建築物の太陽光発電の普及の責任省庁がどこになるのか?  最後に竹内さんがこの件についてどうなっているかを聞いたが、「協議中」という回答だった。本当は決まっているけど、これは追加開催される予定の再エネTFで言うべきと考えての発言

          温室効果ガス46%削減と今後の住宅施策(第5回 2021年7月21日記載)

          温室効果ガス46%削減と今後の住宅施策(第4回 2021年7月20日記載)

           今回からは少しマニアックな内容になるが、これまで国交省や経産省がどのように温暖化対策に向かってきたかの流れを整理し、そこでの疑問や問題点を指摘する。過去の話なのだが、ここでの問題点を明らかにすることによって今後の再エネTFやあり方検討会での議論や、今後出てくる施策を適切に評価できるようになるはずだ。 大きな流れ■2015年1月 「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について(第一次答申)」提出。「2020年までに適合義務化」「2030年までに平均でZEH」という文

          温室効果ガス46%削減と今後の住宅施策(第4回 2021年7月20日記載)

          温室効果ガス46%削減と今後の住宅施策(第3回 2021年7月8日記載)

           とてもたくさん書かなきゃいけないこと(書きたいこと)がある。今回は「バックキャスティング」に焦点を当てたい。 前回の補足  本題に移る前に、少しだけ前回の補足をしておこう。エネルギー政策についてはエネルギー基本計画が基本になっていると書いたが、もうひとつ重要なのが長期エネルギー需給見通しだ。これは2017年に提出されたもので、温暖化対策としては「2030年温室効果ガス26%削減」に合致するような内容になっている。  2021年度に見直しが予定されているエネルギー基本計

          温室効果ガス46%削減と今後の住宅施策(第3回 2021年7月8日記載)

          温室効果ガス46%削減と今後の住宅施策(第2回 2021年7月7日記載)

           第1回をアップした後、個人的に大きな動きがあった。facebookでもこのあたりのことについてコメントしていたこともあってか、新建ハウジングの三浦さんから5月19日開催の「第3回あり方検討会(脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会)」の公開取材にゲスト参加してほしいと声がかかったのだ。その流れで「あり方検討会&脱炭素施策」に対する意見を書くことになり、専門家・団体リーダーからの提言として私を含めて9人の方の意見が新建ハウジングのサイトで公開されることにな

          温室効果ガス46%削減と今後の住宅施策(第2回 2021年7月7日記載)

          温室効果ガス46%削減と今後の住宅施策(第1回 2021年5月15日記載)

           管首相の発言を受け、住宅分野でも様々な議論が始まっている。また、都道府県では独自の施策も打ち出されるようになっている。今回はこのあたりについて私見を述べたい。 住宅の省エネと温熱環境  今後の住宅施策を考えるにあたって、極めて重要な視点が「温熱環境にどこまで踏み込むか?」だ。現在の省エネ基準は「外皮性能」と「エネルギー消費性能」の2本立てで評価されるが、外皮性能(UA値とηAC値)の基準を設けることで、一定の温熱環境を確保しようとしている。ただし、この基準をクリアするこ

          温室効果ガス46%削減と今後の住宅施策(第1回 2021年5月15日記載)

          住宅の省エネ基準再考③

          外皮計算を楽しくやる  ①で私は次のように書いた。 「温熱環境について(熱の移動について)学び始めるときにはもっとも大事なもの」と考えているので、外皮計算をできるだけとっつきやすく、楽しいものにする努力を続けてきた。  これは極めて重要な内容であり、国もこうした努力を真剣に行う必要があるとこれまで強く思ってきたし、いまもそう思っている。外皮計算をやる会社は増えてきたが、それでもまだ多くの会社は「(面倒だけど)申請のためにやらないといけないからやっている」という状況だ。「

          住宅の省エネ基準再考③

          住宅の省エネ基準再考②

          前回の補足  前回では私の提案として「実現すべき室温のための建物性能と暖房スケジュール(暖房範囲、暖房時間、設定温度)の組み合わせに対する基準」を設ければ良いと書いた。この意味が理解しにくかったと思うので補足しておきたい。  たとえば、次のような室温を実現させることを基準と考える。 ・LDK:使用時には21℃を維持。起床時も18℃以上確保。         ・寝室:使用時には18℃以上確保。                   ・脱衣室、ホール、トイレ等の非居室:16℃

          住宅の省エネ基準再考②