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2050住宅部門カーボンニュートラル推考⑧全館空調問題(続編)

「TEAM2050」の再確認

続編に移る前に、昨年から私が提唱している「TEAM2050」とはどんなチームなのかをここで改めて再確認しておきたい。

TEAM2050というのは、2050年に向けて「我が国全体の住宅の温熱環境の最良化」と「住宅部門カーボンニュートラル」の両方の実現を目指すチームのことだ。国が目指すカーボンニュートラルには、(当たり前だが)温熱環境についての目標は定められていない。しかし我が国の住宅の温熱環境はまだまだ不快で不健康なものであり、この課題も一緒にクリアしていくべきであることは明白だ。

この2つの実現に向けて、我々は何を指標にしていくべきかを考えると、温熱環境については我々独自(つまり民間)でその指標(計画)をつくっていくしかなく、カーボンニュートラルについてはとりあえず国交省の2030年までの計画が基本的な指標になる。いまのところこれしかないからだ。

ここでカーボンニュートラルのほうについて「国交省の計画を信じていくしかないでしょ」というスタンスもあるだろうが、私は本気で2050年カーボンニュートラルを実現したいので、国交省の計画を信じてよいのかということを考えるためにその計画を分析した。

そして、その計画におけるひとつの大きな問題点として「国交省が想定する暖冷房よりもエネルギー消費量を増やす方向の暖冷房が増えていけば(たとえば全館空調)、国交省の省エネ目標は達成できなくなる可能性が高い」ということがわかった。

「だから全館空調(新しいタイプの暖冷房)はダメだ」という話ではない。こうした暖冷房はもうひとつの目標である温熱環境の最良化に寄与するはずだからだ。

大事なのは、原則的には温熱環境メリットがある「新しいタイプの暖冷房」が実際にどれくらいそのメリットを実現しているかを把握することと、実際にどれくらいのエネルギー消費量になっているかを把握することだ。こうした作業をすることによって「どんな性能の住宅に、どんな暖冷房を行えばよいか?」が見えてくる。

全館空調のエネルギー消費量

エネルギー消費性能計算プログラムでの標準値

前回も述べたように、このプログラムでは全館空調のエネルギー消費量が計算できる。ただし、そこで必要な情報がメーカーからほとんど提出されていないということも前回述べた。

一方、建築研究所のサイトにある技術情報には、国が想定する標準的な全館空調に関する入力値(定格能力試験の結果数値)を求める方法が書いてある。これに従って、「UA値=0.46で設備の省エネも結構しっかり考えた、熱交換換気がついている住宅」を想定して国が考える6地域での標準的な全館空調のエネルギー消費量を求めてみた結果が以下だ(上から順に「暖房の入力」「冷房の入力」「結果」となっている)。

暖房の入力
冷房の入力
計算結果

計算結果の「暖房一次エネ=27,558MJ、冷房一次エネ=12,769MJ」というのは、かなり多い。全体の85,592MJを見ても、国交省の省エネ計画でBEI=1.0という省エネ基準ギリギリの一次エネ消費量とほぼ同じだ。

「イヤイヤ、右下にBEI=0.71となっているじゃないか?」と反論する人がいるかもしれないが、全館空調を選択すれば暖冷房の基準値も変わってしまうので(大きくなる)、こんな良い数値が出てくることを理解しなければならない。

ここからがとても重要なことなのだが、国交省の省エネ計画は居室間欠暖冷房しか想定していない計算方法になっているので、この計算方法に従えば(つまり居室間欠暖冷房の基準値を使えば)、上の計算結果でのBEIは1.0程度と判断するしかない。上に挙げた計算例は外皮性能も設備の省エネ性能もかなり良い住宅だ。それでも国交省の計算上ではBEI=1.0程度にしかならないわけで、もしもっと性能が低い住宅であればBEIはさらに悪くなる。

ここで改めて国交省の計画(新築戸建て)を見てみよう。

このように、これからBEIが小さい戸建て住宅を建てていこうという計画なのだが、このBEIは居室間欠暖冷房を想定した数値なので、上に挙げた計算例の住宅(国が標準的と考える全館空調の住宅)はBEI=1.0のレベルと見なされるわけだ。G2レベル(等級6レベル)の断熱性能でこのBEIなのだから、全館空調が増えていけばこの計画は破綻することがわかるだろう。

しかし、本当に全館空調はこれほどの暖冷房エネルギー消費量になってしまうのだろうか?

実際の全館空調における暖冷房エネルギー消費量はどれくらいか?

実際の全館空調の暖冷房エネルギー消費量のデータはほとんど公開されていないのだが、Z空調はそのサイトで簡単な実測の結果を公表している。また私が個人的に知り得たデータがある。
Z空調のほうは断熱性能の情報がなく、推測するしかない。個人的に知り得たデータのほうはある程度断熱性能別としての結果がわかるものだ。

その推測から判断すれば、全館空調の暖冷房エネルギー消費量は、「エネルギー消費性能計算プログラムにおいて想定している居室間欠暖冷房」と、先に挙げた「国が標準的と考える全館空調(エネルギー消費性能計算プログラムにおいて標準と設定している全館空調)」との間になりそうであり、あくまでざっくりとした推測だが、多くても「国が標準的と考える全館空調」の70%程度になるんじゃないかというのが現時点での私の判断だ。

言葉の表現をできるだけ正確に書こうとしているので、何だかややこしくて理解しにくいだろう。ということで、この内容を理解してもらうための補足説明をしよう。

まず、「エネルギー消費性能計算プログラムにおいて想定している居室間欠暖冷房」のエアコン運転スケジュールは以下の通り。

ここで注目すべきなのは「就寝時に暖房していない」というところ。これでは健康的な室温が確保できない「貧しい暖房」ということになる。冷房についても、実際にはこんなに細かくon-offはしないだろう。

この運転スケジュールを頭に入れてもらいつつ、先の標準的な全館空調での計算条件と同じにして「居室間欠暖冷房(エアコンは規定値)」の暖冷房エネルギー消費量を計算してみると次のようになる。

先の結果と並べつつ、私の推測である「実際の全館空調の最大値(標準の70%)」も一緒にした一覧表が以下になる。

このように、13,623MJと40,327MJとの間になると私は推測している(もちろん、上記の計算条件の場合)。ただし、この28,229MJという数値でも、先に挙げた国の計画において想定しているBEIにしようとするのはかなり厳しい。

なお、以上は「情報が不十分な粗い推測」なので、これを確定値だと思ってもらっては困るし、他人に伝えるときにも表現に慎重さを持ってほしい。

また、これは推定最大値であり、これよりもエネルギー消費量が少なくなる可能性が高い全館空調があることを私は知っている。

まとめ(今回いちばん伝えたかったこと)

今回は全館空調に焦点を絞ったが、前回述べた「新しい暖冷房」のすべてについて、こうした実際的なエネルギー消費量を把握していくこと、そしてその室温の状況(どこまで目指す室温が実現されているのか?)も把握していくことが極めて重要な解決すべき課題として我々の前にある。

各居室に1台の壁掛けエアコンで居室間欠暖冷房する場合でも、適切な室温を確保するために暖冷房する時間を増やせば、当然エネルギー消費量は増えていく。このことも頭に入れながら、これからTEAM2050のメンバーとしてどのような暖冷房に進んでいくかをしっかり考えなければならない。


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