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温室効果ガス46%削減と今後の住宅施策(第4回 2021年7月20日記載)

 今回からは少しマニアックな内容になるが、これまで国交省や経産省がどのように温暖化対策に向かってきたかの流れを整理し、そこでの疑問や問題点を指摘する。過去の話なのだが、ここでの問題点を明らかにすることによって今後の再エネTFやあり方検討会での議論や、今後出てくる施策を適切に評価できるようになるはずだ。

大きな流れ

■2015年1月 「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について(第一次答申)」提出。「2020年までに適合義務化」「2030年までに平均でZEH」という文言が登場。

■2015年7月 長期エネルギー需給見通し発表。「新築住宅における省エネ性能の向上で314.2万klの省エネ」「既存住宅の断熱改修で42.5万klの省エネ」と記載。

■2015年7月 cop19に従い、日本の温室効果ガス削減目標(2013年比で2030年に26%削減)を提出。そのままパリ協定における約束となる。

■2015年11月~12月 cop21にてパリ協定採択

■2016年4月 日本がパリ協定に署名

■2016年5月 地球温暖化対策計画閣議決定

■2016年11月 パリ協定発効

■2019年1月18日 国交省 社会資本整備審議会 建築分科会 建築環境部会 「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方(第二次報告)」とりまとめ

■2019年1月31日 国交省「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方(第二次答申)」提出

■2020年10月 管首相「2050年温室効果ガス排出量ゼロ(カーボンニュートラル)」を宣言

■2020年12月1日 再エネTFの開始                

■2021年2月24日 第5回住宅・建築物をテーマにした再エネTF

■2021年4月19日 あり方検討会の開始

重要な2つの答申

 ここでもっとも重要なのは「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方」の2つの答申だ。第一次答申は2015年に、第二次答申は2019年に提出されている。この答申の内容や計算根拠資料を見ることで、国交省が具体的にどんな想定で省エネを進めていこうとしているかがわかる。

 そうなのだが、それ以前にこの2つの答申における住宅・建築物分野の計算根拠資料はつい先日まで公開されていなかったという大問題がある。2021年2月24日に前さんが「省エネの根拠資料がない」と突っ込んで、初めて出てきた。

 去年、それまで予定していた省エネ基準の適合義務化が突然説明義務化に変わったとき、「えっ、それで計画している省エネ目標は達成するの?」と思い、その計算の根拠資料をかなり真剣に探してみたことがある。しかし、それを見つけることができなかった。当然のことながら、方針が変わったら「こんな計算になるから方針が変わっても大丈夫ですよ」と説明すべきだが、それもなかった。だから前さんが突っ込んだときに「おっしゃる通り。根拠資料を出せよとにかく」と激しく同意した。

第一次答申における計算根拠資料の内容

 こうした流れで2021年3月29日にしぶしぶ(?)国交省が出してきた資料のうち、まずは第一次答申における計算根拠資料がどんなものかを見てみよう。

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 まずこれは対策を実施するときに想定した性能別の一次エネルギー消費量の想定。

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 次は基準年(2013年度)に近い2010年度と目標である2030年度の性能別の住宅ストックの想定(計算結果)。

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 次は、2030年度の住宅ストック数の根拠になっている、性能別の新築住宅の着工割合。別のところに着工数の想定も書いてあるが割愛した。

第一次答申の計算根拠資料における疑問

 上の資料には疑問がめちゃくちゃたくさんあって、全部挙げると大変なので大きなところだけに限定しよう。

 上の表1で、たとえば「戸建て住宅/省エネ基準」の一次エネルギー消費量の想定は80GJとなっている。この数値がどんな想定で算出されているかの説明がまったくない。理屈からすると全国の平均値と考えるべきだろうが、まず間違いなくこの数値は建築研究所のエネルギー消費性能計算プログラム(WEBプログラム)で算出しているはずだ。であれば、具体的に省エネ地域区分をどこかに設定する必要があり、たとえばそれを6地域としたのであれば、6地域の省エネ基準レベルのUA値を0.87と入力して計算しているはずで、そうして計算した結果が全国平均になるとは限らない。

 もし全国平均をきちんと出そうと思ったら、少なくとも省エネ地域区分別の既存戸数や新築着工戸数を想定した上で、それぞれの地域の性能別のUA値やηAC値や設備の想定をして一次エネルギー消費量を計算し、戸数の比率にかけ算するという方法になるはず。私はこの資料が出てきたとき、そんなレベルの相当なボリュームの資料だと思いながら読み始めた。でも実際にはたった9ページ。なんじゃそりゃ。

 少し細かい話になるが、表1の「省エネ基準超」は69GJとなっている。一方、表4の注釈には「省エネ基準超はBEI=0.8」と書いてある。省エネ基準レベルは80GJなので、それに0.8を掛ければ64GJになるんじゃないのか。

 とにかくこんなふうに想定(地域、UA値、ηAC値、設備)や算出方法についての説明がまったくないから、表1の数値になることを我々は(誰も)再現できない。再現できなければその妥当性も評価できない。

 表4についても、飛び飛びの年度しか数値が書いてなく、その間をどう想定しているのかがわからない。なので、ここでも国交省の計算を我々は正確に再現できない。

 こんな資料しか出てこなければ、国交省はテキトーに計算しているだけじゃないのかという疑念が沸いてくる。もし本当にテキトー計算ならば、我々はひどい役人集団をつくり、それを許していたことになる。それはあまりにも悲しい。

第二次答申における計算根拠資料の内容

 気を取り直して、次の第二次答申の計算根拠資料を見てみよう。

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 まずは性能別の一次エネルギー消費量の想定。第一次答申のときから「誘導基準」「トップランナー基準」「ZEH基準以上」が加わった。また数値が微妙に違うが見直しが図られたのだろう。なお、ZEH以上は太陽光発電も含んだ数値になっている。ここは極めて重要なポイントになるので、次回以降に詳しく述べる。

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 次はストック数の想定。こちらも第一次答申とは微妙に数値が違うが、何より注目すべきが、「2030年にZEH以上が313万戸になる想定」というところ。ものすごいペースでZEHを建てていかないと到達しない数字だ。でもこれには「裏」がある。このあたりも次回以降に。

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 最後は性能別の新築住宅の着工割合。

第二次答申の計算根拠資料における疑問

 こちらも第一次答申とまったく同じで、詳しい想定や算出方法の説明がないから、我々は再現できない。再現できなければその妥当性も評価できない。

 そしてこうやって出てきた計算根拠資料に対し、再エネTFではさらに委員から様々な疑問、質問が噴出し、極めて重大な内容を含んだいくつかのことが明らかになってきた。このあたりは次回以降に。

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