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2050住宅部門カーボンニュートラル推考⑥戸建てチームのシナリオ解説(その1)

前回では2050年住宅部門カーボンニュートラルを実現すると推定する、以下のような2つのシナリオを提示した。

①既存太陽光設置重視型

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②既存改修重視型

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今回から、この内容について補足解説していこう。

新築(平均BEI)

■平均BEIが意味すること                       まず「平均」というのは、設定している期間についての平均値であり、たとえば2030年までであれば、2022年~2030年の期間の平均値を示している。実際のBEIは向上していく(数値的には減少していく)はずであり、たとえば2030年の1年間に限定すれば、その1年間でのBEIの平均値は0.65よりも小さくなっていないといけない。もし直線的に減少していくと仮定すれば、2022年~2030年の中間の2026年において、すべての新築戸建てのBEIの平均が0.65になっていないといけないことになる。なので、いますぐにでもBEI0.65になるような新築戸建ての仕様や性能を具体的に進めていかないといけないわけで、それはとくに本気で2050年カーボンニュートラルを目指したい住宅事業者が引っ張って進めていく必要がある。なのでそうした住宅事業者は高い理念の元に、「2026年でBEI0.65」を目指すのではなくそれよりもできるだけ早い時期に実現させてBEIの平均値を押し下げることを強く期待する。

■とても重要な注意点                        ここでとても重要な注意点がある。ここでのBEIというのは「太陽光抜き(自家消費分を差し引かない)」という条件であること、そして「暖冷房スケジュールは居室間欠の場合の基準値を使う」というところだ。

とくに「暖冷房スケジュールは居室間欠の場合の基準値を使う」という点がややこしいが重要になる。当然BEIの算出は建築研究所のサイトにある「エネルギー消費性能計算プログラム」を叩くことによって行うことが基本になるわけだが(このあたりも補足が必要なので後述する)、居室連続や全館連続(全館空調)などを選択すれば暖冷房エネルギーの基準値が大きくなる。そしてこの基準値に基づいたBEI0.65を目標に進んでいけば上のシナリオは破綻し(想定より増エネになる)、2050年カーボンニュートラルは実現できなくなってしまう。

このことについては次回に具体的な数値を挙げて解説するが、とにかく実際には居室連続や全館連続の住宅であっても、そのBEIを計算する際には、居室間欠(実際には居室だけをエアコンで暖冷房する)という設定での基準値を用いて計算する必要があることはしっかり頭に入れておいてほしい。

■リアルBEIの算出                           「リアルBEI」というのは、エネルギー消費性能計算プログラムを使った結果のみで求めるのではなく、暖房と冷房に関して、さらに精度の高い(実際に近い)方法によって求めるBEIのことを指す。

現時点で、暖冷房以外のエネルギー消費量の計算結果の信頼性がもっとも高いのがエネルギー消費性能計算プログラムであり、暖冷房以外(換気、給湯、照明)のエネルギー消費量を求めたい際にはこのプログラムを使うのが適切だ。しかし、暖冷房に関しては次のような問題がある。         ・居室間欠を選択した場合には、その暖冷房スケジュールが固定されて計算される(暖冷房スケジュールを入力者が設定できない)          ・しかも、とくに居室間欠暖房のスケジュールは「就寝時に暖房しない」という想定になっていて、これでは健康的な冬の室温を確保できない     ・全館連続暖冷房(全館空調)を選択する場合、入力に必要な情報が全館空調メーカーからほとんど提示されておらず、標準値を採用すればおそらく実際の全館空調よりもエネルギー消費量が大幅に大きく計算されてしまう   ・床下エアコンや小屋裏エアコンなどは選択肢がなく、計算できない 

ということで、適切な温熱環境の実現に極めて関係が深い暖冷房に関してエネルギー消費性能計算プログラムでそのエネルギー消費量を計算しても実際(リアル)から離れてしまう可能性が極めて高い。

ここでいま議論しているのは、補助金をもらうとか国の枠組みに従うこと(たとえばエネルギー消費性能計算プログラムの結果に従わないと絶対ダメだと考えること)を前提にしたものではなく、「実際に2050年住宅部門カーボンニュートラルを実現するためには」という前提での議論なので、とくに暖冷房に関してはエネルギー消費性能計算プログラムから離れるべきだ。

■ではどうすればよいのか?                             次の2つの方法がある。                             ①詳細な計算ができるツールを使う                                    これについては、たとえばホームズ君パッシブ設計オプションやSIM/HEATを使って暖冷房のエネルギー消費量を計算すればよい。ただし、壁掛けエアコンの場合が大前提になる。                               ②実際のエネルギー消費量の実績を使う                            ホームズ君パッシブ設計オプションでも床下エアコンの計算は条件が限られるし(かなり理想的な条件の場合しか信頼性のある結果は得られない)、全館空調システムの計算はできない。なので、こうした暖冷房を行う場合のエネルギー消費量は実績値を使うしかない。

そしてもちろんその実績値は信頼性の高いものでなければならない。たとえば限られた条件での1棟だけの結果を使うべきではないということだ。十分な知識があり科学的なアプローチができる専門家と一緒に、複数の実績結果を分析して「このあたりが妥当だろう」という数値を求める必要がある。

まとめ                 

そうやって実際に近いと思われる暖冷房のエネルギー消費量を求め、暖冷房以外はエネルギー消費性能計算プログラムの数値を使い、リアルBEIを算出する。つまり暖冷房とそれ以外を合体させてリアルBEIを求めるわけだ。

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こうやって求められたBEIとして最低0.65以下になるような住宅を形にして進んでいく。いかがだろう? ご理解いただけただろうか?

こうしたアプローチ(つまりテキトーな判断や定量化されない判断での省エネ住宅に基づいたものではないアプローチ)で新築住宅を建てていく住宅事業者がどれだけ現れるかによって、2050年カーボンニュートラルの実現可能性の基本的なところが決まってくるだろう。

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