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温室効果ガス46%削減と今後の住宅施策(第6回 2021年8月16日記載)

 8月10日にあり方検討会の最終回が開催され、今後の住宅・建築物分野の省エネ対策のあり方・進め方のとりまとめがほぼ完了した。17日にはタスクフォースも開催されるので最終的にどうなるかはまだ不明なところはあるが、おそらく基本的なところは見えてきたと判断してよいだろう。

 ということで、今回はあり方検討会のとりまとめの内容を簡単に分析しつつ、その評価をしてみたい。

全体としては大きな進化を遂げた

 あり方検討会やタスクフォースの委員の人たちの相当な努力、そして河野大臣の厳しい指摘によって、最初のとりまとめ案からは大きな進化を遂げたと評価してよいだろう。「こうやってみんなが頑張れば、良い方向に進むんだ」ということがわかって、ホッとしたし、うれしくなった。まだまだこの国も捨てたもんじゃない。

 この間、ここでもかなりいろんなことを厳しく書いてきたし、「この国は大丈夫か?」と述べてきたが、よし、これから自分も国と一緒に頑張ろうじゃないか!と思えるようになった。

いくつかの確認

 全体感としては上に書いた通りなのだが、オモテには(国交省からの提出資料には)出ていない事柄について、いくつか確認しておきたいものがあったので、その作業についてご紹介しておこう。読んでもらえればわかるように、まだまだ課題はある。

①2050年のストックでBEI=0.8を実現することは可能か?

 まずはここから始めよう。とりまとめでは、2030年で実現しようとする住宅ストックの状況は次の内容になっている。

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またそれまでの新築着工戸数の計画は次の通り(戸建てのみ)。

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このように、2030年まではそこそこ詳しい計画の内容や計算方法が示されているが(まだ問題点や不明な点はたくさんある。このあたりは後で)、2030年以降についてはそういった資料は示されていない。これはまあ仕方がないことだと思うが、基本的に「2050年にあるべき姿からのバックキャスティング」をすべきであり、それが見えないことについてあり方検討会でもタスクフォースでも度々指摘されてきた。

そこで今回のとりまとめでは「目指すべき2050年の住宅・建築物の姿」としてこのような記載が加えられた。

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 具体的な数値目標が示されたことは評価すべきだろう。なお、ここで「ZEH基準の水準の省エネ性能」とはBEI=0.8という意味。

ここで私は「2050年の住宅ストック平均でBEI=0.8というのが実現可能なのか?」ということを確認したくなった。もしこの実現可能性が低いのであれば、2030年までの目標レベルを引き上げる必要があるからだ。

そこで簡単に計算してみたところ、この目標が達成される2030年~2050年の新築戸建て住宅の平均BEIは次のような結果になった。なお、この計算は2050年の住宅ストック数(2030年よりも減ると予想されている)を考慮し、国交省が示している2030年までの改修計画がそのまま2050年までも実施されるという仮定で行っている。

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ここで滅失比率とは、2030年~2050年までのストック戸数の減少数(657万戸)のうち、戸建ての減少分の比率のこと。(都市部の)共同住宅よりも(地方の)戸建て住宅が減っていくことが予想されるが、その比率の下限を75%としてみたわけだ。このように、この滅失比率の影響はそこそこ大きい。

もし滅失比率が75%~80%だとすれば、2030年~2050年の新築住宅の平均BEIは0.5にしなければならない。なかなかの数値だ。

しかし、エネルギー消費性能計算プログラムを使って、「換気:高効率の第3種」「給湯:高効率のハイブリッド給湯器&節湯水栓」「照明:LED、調光等実施」というふうに、換気や給湯や照明設備の省エネをめちゃ頑張るという想定で入力すれば、「6地域、UA=0.87、間欠暖冷房」という想定でもBEI=0.5になる。

なお、いろいろわかっている人からは「給湯や照明による省エネは経産省管轄(住宅分野ではカウントしない)なので、この想定はどうか?」という突っ込みが入るかもしれない。2030年以降のこのあたりの割り振りを国交省と経産省がどう考えているかはわからないので(まだ考えていない可能性も十分にある)、とりあえずこうした想定をしてみたと理解してほしい。

もちろんUA=0.87では健康的な室温はまったく得られないが、そういうことを無視すればBEI=0.5は実現可能なレベルということだ。しかし、これを無視してよいのか? 以前ここでも書いたように(前さんも主張しているように)、今回のとりまとめの中に、2050年の住宅が目指すべき姿として「健康確保(適切な室温の確保)」を記載すべきではなかったか。後にも述べるように、この問題は非常に影響が大きい。

②「2030年新築戸建て住宅の60%に太陽光設置」の具体的な想定は?

次はこの話。国交省提出の資料にはこんな記述がある。

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ここで私が注目したのは、最後の「2030年に新築戸建住宅に約90億kWh(約7GW)の導入を想定できます。」という内容。これは「2030年までに」という意味だと理解できるので、その場合1戸あたりにどれくらいの設置容量として想定しているかを計算しようと考え、やってみた。

そこで2019年の戸建て住宅の太陽光発電設置件数を調べてみると、約12万戸ということがわかった。一方、国交省が計画しているのは「2030年に20.5万戸(新築戸建住宅約34万戸の60%)」。つまり19年間で1.7倍にしようという計画だ。

こうした想定で「2030年までに7GWの導入」として1戸あたりの設置容量を計算してみると、約2.3kW/戸となった。うーん、そんなもんかという印象。おそらくいまの平均は4kW/戸くらいなので、もう少し大きな想定でも良いじゃないか。

③全館空調が増えたら省エネ量の試算は破綻するのでは?

国交省の計算の前提として、各基準レベルの一次エネ消費量の想定はこのようになっている。

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この想定をもとに、いまから2030年までの新築着工戸数の想定や省エネ改修の想定を行って、住宅分野での省エネ量として「住宅分野で344万キロリットルの省エネ(建築物を入れると889万キロリットルの省エネ)」を弾いているわけだ。

しかし、たとえばBEI=1.0の一次エネ消費量の80.7GJ」というのは、まず間違いなく6地域の居室間欠暖冷房を想定しているものだ(このあたりが不明であるという問題はすでにここで書いた通り。この問題はまだ解消されていない)。おそらく今後全館空調が増えてくるということを考えると、この想定で計算することには大きな問題があると言わざるを得ない。

エネルギー消費性能計算プログラムで「住戸全体を暖房・冷房する」を選択し、私が知っている全館空調システムの入力値を使って計算してみると、暖冷房の一次エネ消費量は居室間欠暖冷房の1.7倍ほどになる(6地域としてZEHレベルのUA=0.6で計算)。なので全館空調では、国交省が想定しているZEHレベル(BEI=0.8)の一次エネ消費量が「68.8GJ→81GJ」になってしまう。こうした住宅が増えてくれば、省エネ量の計算が変わってしまい、目標到達できない。粗い想定で試算しているという問題が、たとえばこんなところで露呈する。

(これもすでにここで述べた通り)私は「全館空調一択」で世の中が進んでいくことには反対だが、基本的には「全館空調(全館連続暖冷房)の方向」に進むべきと考える。もちろんそれは健康的な室温確保のためだ。こうした発想が国交省にないために、居室間欠暖冷房のみを想定した計算をしてしまっている。

さらに言えば、省エネ基準適合義務化となればこうしたエネルギー計算の提出が必須になる。そのとき、審査機関は全館空調や全館空調的なものをどこまでチェックすることになるのだろう? 少なくともいま調べた限りでは、いくつかある全館空調システムのサイトに「エネルギー消費性能計算プログラムではこうやって入力してください」という説明は見当たらない。ZEHの申請時などで住宅会社側はどのように資料を提出し、審査機関はどのようにチェックしているのだろうか。また床下エアコンも同じ問題があると思うし、壁掛けエアコンで全館空調的な計画をしている物件でも同じ。このあたりをしっかりシステムとして整備しないと、申請と実態のエネルギー消費量がかけ離れてしまう恐れがある。

8月17日にはまた住宅・建築物分野のタスクフォースが開催される予定になっているが、ぜひ前さんにはこのあたりのことも突っ込んでもらいたい。

④省エネ改修の計画はどうか?

今回の最後にこのテーマを取り上げよう。国は25万戸/年の省エネ改修を想定し、改修後のBEIを1.0にしようとしている。改修がどうなっていくかというテーマは極めて重要だ。

まず「25万戸/年」という数の想定がどんな感じなのかをつかもうと思い、リフォームの統計などを探して見てみたが、リフォーム件数の統計は見当たらず、矢野経済研究所のサイトにあった「住宅リフォーム受注高6.5兆円/年」と「JERCOの工事平均額160万円/戸」を使って計算すると、400万戸/年くらいになる。これだとストック5000万戸の8%くらいになるわけだが、妥当なのかどうかはよくわからない。青森県の統計(2013年度)では「持ち家の増改築・改修工事の割合が26.4%」となっていたので、大きく間違っていないのかもしれない。

もしこの400万戸/年とすれば、25万戸/年という省エネ改修は全体の6.25%になる。これが現実を踏まえたものなのか、様々な誘導施策を講じる前提で大き目の想定にしたのかはよくわからない。ちなみに先の青森県の統計では「屋根・外壁等の改修:45.3%、窓や壁の断熱・結露防止:9.5%」となっていて、結果的に断熱改修が可能な割合は50%以上ある。いずれにせよ、国交省がどうやって「25万戸/年」という数値を導いたのかが知りたい。

次に「BEI=1.0」のほうだが、私がホームズ君で試算してみると、一定に健康的な室温を達成できるような「LDKと寝室の断熱リフォーム(&暖房スケジュール)」を想定した場合のBEIは1.0を切る(暖冷房の一次エネ消費量=24GJくらい)。

なので、あとはこうした改修を推進させるような誘導策がどうなるかにかかっているし、こうした改修がある程度の経済合理性を持つような技術の整備が不可欠になる。断熱改修の経済合理性は低いと言われているが、私の個人的なテーマとしても、このあたりを何とかして解決したいと考えている。またこのあたりが整理できればここで紹介したい。

長くなってしまった。最初に「よし、これから自分も国と一緒に頑張ろうじゃないか!と思えるようになった」と書いたが、こうした分析を行って課題を明らかにし、実務者のみなさんと一緒になって(試算ではなく)結果を出すことが私の役割だと思っている。

最後まで読んでくれた人には感謝したい。

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