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温室効果ガス46%削減と今後の住宅施策(第3回 2021年7月8日記載)

 とてもたくさん書かなきゃいけないこと(書きたいこと)がある。今回は「バックキャスティング」に焦点を当てたい。

前回の補足

 本題に移る前に、少しだけ前回の補足をしておこう。エネルギー政策についてはエネルギー基本計画が基本になっていると書いたが、もうひとつ重要なのが長期エネルギー需給見通しだ。これは2017年に提出されたもので、温暖化対策としては「2030年温室効果ガス26%削減」に合致するような内容になっている。

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 2021年度に見直しが予定されているエネルギー基本計画を受け(実際には並行して?)、新たに「2030年温室効果ガス46%削減」に合致するような長期エネルギー需給見通しが作成されるはずだ。様々な具体的な数値については、この長期エネルギー需給見通しを見ることになる。

バックキャスティング

 2020年10月の管首相の「2050年カーボンニュートラル宣言」以降、温暖化対策に向かう施策決定でのキーワードが「バックキャスティング」だ。日本語にすると「逆算」。つまり、まずは「将来の目標」を決め、そこから逆算して中期的な施策、そして短期的な施策を決めていこうというもの。まあ、当たり前のことをやっていこうということだ。

 しかし、あり方委員会や再エネTFでの国交省などの発言を見ていると、まったくもって「バックキャスティングする」という姿勢が感じられない。だから前回書いたようにスケジュールを曖昧にするし、委員からいろんな疑問や質問があってもふにゃふにゃとした答弁になり、同じところをグルグル回っているだけのように感じてしまう。

 では、どうなれば良いのか? 国交省がどんなことを示せばバックキャスティングができるようになるのか? 以下にそのことについて考えてみたい。

「2050年のあるべき姿」を示す

 「2050年カーボンニュートラル」となっている国の姿を想像する。EU諸国の計画や様々な研究を参考にすれば、その姿の概要は見えてくるはずだ。おそらくエネルギー源のほとんどは電力になり、その電力源の多くは再生可能エネルギーが占めている。水素の活用も大きく進化、発展しているだろう。

 住宅に注目すれば、そのほとんどはエネルギーを完全自給し、余った電気は地域で運用される。地域によっては太陽光での発電が十分ではなく完全自給が厳しいとなれば、小さな地域単位での熱供給システムなども必要になるかもしれない。もちろんその熱は木質バイオマスなどの非化石燃料でつくられる。

 一方、住宅の温熱環境としては、いまの貧しいものから完全に脱却し、十分な健康維持と快適が確保されるようになっている。

 大雑把にはこういうことではないか? 住宅に関しては「エネルギー完全自給」と「十分な健康維持と快適の確保」が2050年のあるべき姿、目指すところになるはずだ。

あるべき姿が明確になれば…

 こんなふうに「あるべき姿」が明確になれば、そこからバックキャスティングができるようになる。2050年の世帯数を予測し(たとえば国立社会保障・人口問題研究所では2040年には5,076万世帯と予測)、2050年までの住宅新設着工戸数を予測すれば(たとえば野村総研では2040年には46万戸と予測)、何年までに、どれくらい「エネルギー完全自給&十分な健康維持と快適の確保(=断熱性能を中心とした十分な住宅性能の確保)」を実現する新築住宅着工と既存住宅改修を進めないといけないかが見えるはずだ。

 たとえばざっくりと「2020年~2050年までの新築住宅着工戸数を平均で50万戸」と仮定すれば、その間の合計は1,500万戸となる。となれば、まだおよそ3,500万戸が入れ替わっていないことになる。

 そう考えると、やはり既存住宅をどう改修していくかが極めて重要になり、大幅な断熱改修や太陽光発電の設置を行う計画とその策を考えないといけない。また当然、新築住宅はすぐにでも「エネルギー完全自給&十分な健康維持と快適の確保(=断熱性能を中心とした十分な住宅性能の確保)」が実現されるものを増やしていかないといけないことがわかる。

 「そんなのは無理だ」と考え、「あるべき姿」のレベルダウンをするのは簡単だ。しかし、それでは「2050年カーボンニュートラル」は実現されないだろうし、まだまだこの国の住宅の温熱環境は貧しいままになってしまう。

知恵を絞り、国民を巻き込む

 まず国交省は「2050年におけるこの国の住宅のあるべき姿」を示す。そしてざっくりで良いから「そのために2030年にはこうしないといけない、2025年にはこうならないといけない」ということを示し、そのときの課題を明らかにする。

 次には各分野の研究者を総動員して、その課題解決のための策について徹底的に議論する。荒唐無稽な案は排除すればよいが、実現可能性が一定にある、挑戦的な案を集める。

 そしてそれを国民に示す。首相は「なぜ2050年カーボンニュートラルが必要なのか」を論理と熱意を持って国民に語り、国交相は「2050年の住宅のあるべき姿」の意味と意義を、やはり論理と熱意を持って語る。とくに住宅施策は国民生活に密接に関係するから、こうした場が絶対に必要だろう。

 国民や住宅関係者はそれを受けて議論を始める。その議論を国につなげるような仕組みの再構築も必要になるだろう。もちろんそこでは様々な批判的意見も出てくるだろうが、保守的な意見は丁寧な説明とともに排除すればよい。国はそうした過程を経て、最終的にどんな計画にするかを決める。

 温暖化対策は未来の世界を決め、我が国の経済を大きく左右する極めて重要なものだ。であるならば、今後の住宅施策を決めるにはこうした過程が不可欠だと思うがいかがだろうか。

 そして、その過程を踏むための第一歩が「2050年のあるべき姿」を決めることであり、すでに書いたように、そこからバックキャスティングして課題を明らかにし、それを挑戦的に解決する策を探ることしかないように思う。

 これからのあり方検討会や再エネTFにおいて、こうした議論が始まることに強く期待したい。実際すでに、参加している委員からもこうした議論を求める声がある。


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