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住宅部門2050カーボンニュートラル推考①国交省の省エネ量計算の考え方

昨年開催された再エネタスクフォースやあり方検討会を追いかけ、ブラックボックスだらけの国交省の省エネ計算ロジックを分析してつくったシミュレーションツール(住宅部門2050エネルギーシミュレーション)を公開したのが昨年の11月。その後何かと重量感のある仕事が続いてしまってこのテーマの記事を書けない状況になっていたが、ようやくそのあたりの仕事が片付いた。満を持して書き始めることにしよう。

2030年時点での省エネ量

2030年温室効果ガス46%削減(2013年比)という新たな目標が打ち出されたことにより、国交省は住宅部門の省エネ量を見直した。

住宅部門省エネ量見直し

住宅に限れば、これまでの計画(現行計画)よりも削減量が減っていることがまず気になるが、そのことはここでは触れないでおく。この試算の根拠になっている資料(以下「国交省計算資料」)が第5回あり方検討会で提出された。その冒頭部分を下に挙げる。

国交省計算資料トップ

ここでもわかるように、まずは戸建住宅と共同住宅についての戸当たりの設計一次エネルギー消費量が示されている。今回、国交省計算資料における問題点を挙げることが主旨ではないが、この部分は重要なので簡単に触れておく。

戸当たりの一次エネルギー消費量への疑問

ここでBEI1.0として挙げられているエネルギー消費量はどう見ても6地域の居室間欠暖冷房での基準一次エネルギー消費量だ。国交省が省エネ量を計算しているのは全国であり、6地域の基準で全国の住宅の省エネ量を計算することが妥当なのかという疑問が沸くし、その妥当性を説明する記載はない。

また居室間欠暖冷房の想定で計算していることにも疑問が沸く。そのことについて問題がないかどうか様々に検討してみたが、結論的には「居室連続や全館連続の住宅が増えていけば、この試算は破綻する」というのが私の見解だ。この問題は極めて重要であり、次回以降に具体的な数値を挙げて説明したい。

省エネ量計算の流れ

話を戻す。2030年までの省エネ量は「無対策ケース(BAUケース)」と「対策ケース」のそれぞれを計算し、その差として出している。おそらく、こうした考え方が国際的に標準化されているのだろう。

どちらのケースについても、新築と改修それぞれの計画(今後の想定)に基づき、それぞれの省エネ量を計算するという方法を取っている。最初に挙げた表でもそのことがわかる。

まず新築については、年ごとのエネルギー性能別の着工割合を以下のように想定している(下記は戸建て住宅の対策ケース)。

エネルギー性能別着工割合

各年度の新築着工戸数を別に想定することで、各年度のエネルギー性能別の着工戸数の実数が求められる。そしてその分だけ省エネ性能が低い(BEIが大きい)既存住宅と入れ替わることになる。

そうした計算をしようと思えば、そもそものスタートとなる既存住宅(ストック)におけるエネルギー性能別の分布(割合)の想定が必要になる。それが以下の表だ。2013年になっているのはそれが基準年だからだ。

2013年エネルギー性能別ストック数

先ほど説明したように、まずは2014年度のエネルギー性能別の新築戸数を出し、それをこの表の数に足し算する。一方でその新築戸数と入れ替わる既存住宅の戸数を引き算する。また一方で空き家になる戸数を想定し、それをさらに既存住宅の数から引き算する。新築分も空き家分も、まず引き算されるのは「無断熱相当」の住宅という考え方になっている。

こうした計算を行えば、2014年度末のエネルギー性能別のストック数が出ることになる。そしてこの計算を繰り返して年度を進めることによって、新築の影響を考慮した2030年度末のエネルギー性能別のストックが計算できることになる。

次に改修については、「25万戸/年の断熱改修を見込み、改修により、一段階の性能向上またはBEI=1.0相当に性能が向上するものとして仮定」という記載がある。この想定に従って、先の新築と同じように2013年のスタートからエネルギー性能別のストック戸数を変化させていき、2030年までやれば改修の影響を考慮した2030年年度末のエネルギー性能別のストックが計算される。

そうやって新築と改修のどちらの計算も行った結果として以下のようになると記載されている。

2030年エネルギー性能別ストック

この数値に、先ほど挙げた戸当たりの一次エネルギー消費量をかけ算し、それを合計すれば「2030年時点での日本の住宅全体での一次エネルギー消費量」が出ることになる。

これと同じことを「無対策ケース」でも行ってその差を出す。その数値を原油換算することで、最初に挙げた344万kLという数値になるというわけだ。実際には新築と改修を分けて計算しており、344万kLのうち新築分として253万kL、改修分として91万kLとなる。

理解していただけただろうか? やっていることはとてもシンプルで簡単だ。

しかし、国交省計算資料に記載されている計算条件をもとに、「新築:253万KL、改修:91万KL」となることを再現するための計算を実際にやってみようとするとブラックボックスや謎が多すぎて一筋縄ではいかない。私はその作業を実際にやってみたわけだが、膨大な時間を要することになってしまった。

次回では、なぜそこまでして国交省の計算ロジックを読み解き、それを発展させてシミュレーションツールをつくろうと思ったのかについて述べたい。


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